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右や左の国士様シリーズ

右や左の国士様 victim集

作者: 隣之 芝生
掲載日:2026/07/13

『走るゾンビは許さない #1』


 暗闇の中に見る一筋の光明。

 地獄に垂れ下がる一本の蜘蛛の糸。

 その匙加減が重要なのだ。

 圧倒的多数で押し寄せる死者の群れ。

 しかし、鈍重で人並の腕力しか持たぬから、たった一人でも機転と工夫で窮地を切り抜けられるのではないかと期待を持てるから、自己投影できるのだ。

 演出上の必要性は理解する。

 ただ死者の群れから逃げ回るだけではストーリーが単調になってしまうから、生き残った人間同士のドラマパートを作らざるを得ないのは仕方の無いことだ。

 魅力的な悪役を登場させ、悪行の限りを尽くさせた上で死者の群れに加え、襲って来させるのならば一粒で二度美味しい。

 だが、しかし、走るゾンビは受け入れられない。

 巨大なのも駄目だ。

 銃火器の直撃を頭部に受けて平気なのも駄目だ。

 第二形態、第三形態と変化してキメラ化するのも駄目だ。

 興行として新機軸を常に求められ続ける製作側の苦衷は、お察し申し上げるのだが、それでは妄想が捗らない。

 手製の鈍器を片手にバックパックを背負い、廃墟と化した街中を駆けてホームセンターやスーパーで物資や食料を調達し、学歴も容姿も関係ない、年収も貯蓄も意味のない、ノルマも残業も強制されない、自由な世界で生き残る妄想を楽しめないではないか。

 ああ『釘バットの神様』。

 あなたの忠実なる下僕に、どうか御慈悲を賜りますように。


名前 難波(なんば) 泣晩(きゅうばん)

年齢 28

特技

釘バット製作

 釘バットというのは見た目の凶悪さとは裏腹に非常に脆い武器です。木製バットに釘を打つと割れてしまうでしょう? 運よく割れなくても、打ち込まれた釘によってバットの剛性と弾性は著しく損なわれているので、何かを全力で打つと砕け散ってしまいます。難波氏は木製バットに彫刻刀で穴を掘り、差し込んだ釘を接着剤で固定して製作します。凶器ではなくファッションだと思っていますが、身に着けている所をお巡りさんに見つかると合理的理由を説明できない凶器携行の現行犯として逮捕されます。


境遇

 少年時代に『ゾンビ映画』の登場人物が『釘バット』を振り回し、襲いかかるゾンビの頭部を次々と爆散させて殲滅するシーンを見て、脳みその大事な部分を焼き焦がされてしまいました。

 憑りつかれたように『釘バット』の製作方法を試行錯誤する息子の姿を見て両親は彼を『大きい病院』に連れて行きましたが症状は改善しませんでした。


特記 これは私見ですが『ゾンビ映画』が大好きな皆さんは『背番号9番ちゃん』も大好きでしょう? 木製バットを手放さない彼女は最高にクールですよね。『ゾンビ映画界の御大将』に不平を垂れるなんて万死に値する(ゾンビになる)ことなのですが、もしも御大将に伏して請い願うことが許されるなら、彼女の武器が木製バットから自動小銃に替わる場面、アレ、釘バットにグレードアップすることにして欲しいんです。


1D1~2 走るゾンビは許さない #2 へ物語は続く

1D3~4 走るゾンビは許さない #3 へ物語は続く

1D5~6 走るゾンビは許さない #4 へ物語は続く


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『走るゾンビは許さない #4』


 本当のことなら何を言っても許されるわけじゃない。

 口から出まかせの誹謗中傷なら否定できるが、当たっていたら言い返せない。

 真実は人を傷付ける。

 定期的に診察を受けることを約束させられているのだが、担当医は頻繁に変わる。

 総合病院では、ままあることなので、都度くり返す新しい主治医への『症状』の説明も随分と簡潔明瞭に出来るようになったものだと、ちょっとした満足感を味わっていたら、グサリと急所を刺された。


「『釘バット』は貴男の男性自身です。巨大で猛々しくあって欲しいという無意識の願望が『釘バット』への執着として表れ、それは貴男の持ち物の実像に反比例して強くなる。その事実を認め、折り合いをつけることで症状は改善するでしょう」

 目から汗が零れ落ちた。

「今時、フロイトですか?」

 精一杯の強がりは院内に鳴り響く『針井コール』で、かき消された。

 何やら次々と急患が運び込まれている。

 緊急車両のサイレンが街中に響き渡り、窓の外を見れば火の手と黒煙が幾つも立ち昇っている。

 同時多発テロ? 

 他国からの侵略?

 いや違う。何度も観た、何度も妄想したプロローグじゃないか。


 帰宅の路は困難を極めた。

 襲い、襲われ、木霊する悲鳴と、飛び散る血肉。

 無理だ。駄目なヤツだ。

 お巡りさんが発砲して、頭部に命中したのを見たけれど、効かないタイプのヤツなんだ。

 もう自分も長くないけれど、せめて最後を迎える時は『釘バット』と共に在りたい。

 朦朧としながらも、なんとかアパートの自室に辿り着いて、自作の祭壇に飾った『釘バット』を掴んだ時、ずっと願っていた嘘みたいな事が起こった。

 噛まれていた左手の傷口が、みるみる内に塞がって、首筋まで達していた黒く浮かぶ血管の網の目が、すっと引いて見えなくなった。

 分かります。

 これから私が為すべきことが分かります。

 あの死者の群れに『釘バット』の栄光を分け与えてやれば良いのですね。

 『釘バット』の神よ、ご照覧あれ。


名前 難波(なんば) 泣晩(きゅうばん)

年齢 30

特技

釘バット神の使徒

 『釘バット』を信仰する者には釘バット神の加護が与えられ、致命傷を受けてもたちどころに回復し、噛まれてもゾンビ化しない。


釘バット神の試練

 難波氏の世界に蔓延るゾンビは不死身。走ったり、ジャンプしたり出来るし、頭を叩き潰されても再生するタイプ。


境遇

 『釘バット』への執着は信仰へと昇華した。

 『釘バット神』の素晴らしさを世に広めるための布教活動を実行しようとしたら凶器準備集合罪で逮捕されそうになったので、独りぼっちで自作の祭壇に『釘バット』を祀り、日夜、祈りを捧げていた。

 一時、木製バットの剛性と弾力性を損なわない、有刺鉄線を巻き付けたバットで妥協しそうになったこともあったが、見た目の凶悪さとは裏腹に脆いからこそ美しいのだと『釘バット』への愛を貫いた。


特記 これは偏見ですが『ゾンビ映画』が大好きな人って、心の中のどこかで、こんな世界など滅びてしまえば良いのにと思っているのではないでしょうか。いえ、ゴメンナサイ。純粋にホラーや冒険活劇として楽しんでいる人が殆どだとは思うのですけど。でも、ゾンビって小説や映画、コミックやゲームで使い勝手の良い、無条件で殺戮しても構わない敵役として扱われているでしょう? 差別され、搾取され、抑圧され、消費されるばかりの人々にとって、そんなゾンビが人類社会を滅ぼすのはルサンチマンだと思うのです。GMの皆さん、腕の見せ所です。ゾンビや、絶望的な終末世界を生き延びようとする生者を演じたいと願うプレイヤーの気持ちを最大限汲み取って、全力で楽しめるように配慮してください。もちろん安全と安心も確保してくださいね。公式は注意を促しました。後はGMの責任ですからね。


1D1~3 走るゾンビは許さない #9 へ物語は続く

1D4~6 走るゾンビは許さない #10 へ物語は続く


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『走るゾンビは許さない #10』


 トリガーハッピーというのだろうか。

 自由気ままに暴走した。

 手あたり次第にゾンビの頭部を『釘バット』で爆散させて、生者の居なくなった街で好き勝手に略奪して『逞しさ』に酔いしれた。

 そして出遭った。

 彼は死者だったのだけれど『釘バット』の栄光を浴びて、生者の姿を取り戻した。

 どういうことだか分からなかったのだけれど、彼にも『釘バット』を手渡して、共にゾンビの頭を爆散させながら『釘バット』の栄光について語ったら、深い理解を示してくれた。

 何十何百と爆散させていく内に、一人、二人と仲間が増えた。

 皆、深い理解を示してくれた。

 仲間が二桁を超えたところで『釘バット』の教義と恩典について話し合って一つの仮定を立てた。

 生前、男性自身についてコンプレックスを持っていた者が『釘バット』で頭を打たれると、自身を取り戻すのではないかと。

 それからは迂闊に爆散させられなくなった。

 『釘バット』では駄目でも『別の何か』で頭を打たれれば、自身を取り戻すかも知れないのだ。

 『釘バット教』の信者であるからこそ、他の教義が存在する可能性があるならば、その尊厳を守りたい。


 悲劇があった。

 一体ずつ、おびき寄せては取り押さえ、確かめてから『釘バット』の栄光を分け与えていたのだけれど、自身を取り戻さず爆散してしまう人が居た。

 持ち物は粗末でも勇敢な心を持つ人を殺めてしまったと皆で泣いた。

 『釘バット教国』は布教活動を停止した。信者が三桁を超えた頃のことだった。

 男だけの『釘バット教国』には衰退と滅亡が待っている。


名前 難波(なんば) 泣晩(きゅうばん)

年齢 33

特技

釘バット法王

 とても穏やかな気持ちになりました。静かに、水が高きから低きに流れるような自然体で『釘バット』の栄光を振るいます。銃弾だって打ち返せるのです。


境遇

 どこかにいるかもしれない女性の生者を探しに行こうなんて、誰も言い出しませんでした。

 世界を救うのはマッチョマンに任せればいいと皆が言いました。


特記 日々充実していく『釘バット教国』の居住・生産施設は遠目から見ても確認できる程になって、やがて漂泊する生存者の集団が訪れるのですけど、食料や医薬品を分け与えて丁重にお引き取りいただくことになるでしょう。貪欲な集団が来て揉める事もあるでしょうが『教国』の圧勝に終わるでしょう。


走るゾンビは許さない Fin

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