婚約破棄はいいですけど、冤罪はやめてください、
「ラティーナ、お前との婚約を破棄する!」
私は食べかけのケーキをごくりと飲み込み返事をした。
「はいわかりました。」
そして、フォークで次を口に運ぶ。
「聞いているのか、ラティーナっ!」
「だからわかりましたって。」
給仕に新しいケーキを頼みながら答える。
「ガトーショコラとザッハトルテを1つづつ、あとアールグレイのおかわりも」
王子が何かわめいているが気にせず食べ続ける。
「おまえがマリアをいじめていた事はわかっている。その罪でお前を 」
「いじめた事なんかありません。婚約破棄したいがために濡れ衣を着せて冤罪をかけようっていうんですか!?」
「そんな事をしなくてもあなたとの婚約なんていつでも破棄してあげるのに。
でもありもしない罪をでっち擦り付けられるのは我慢できません!
公正な第三者機関に依頼して、その罪とやらを調べて貰いましょう!あ、国内の調査機関はダメですよ、あなたが王族権限で圧力をかけて嘘の報告をさせる可能性が高いですから。」
「レクター!オーウェン国の調査機関とラステア国の調査機関に、王子の言う内容を文書にして依頼を!」
「承知しました、お嬢様」
「で?具体的に何をしたって言うんですか?」
王子は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「まず! マリアの髪に呪いをかけただろう!」
「呪い?」
「そうだ! マリアの髪が湿気で波打ったのはお前のせいだ!」
「それ、ただの天気の問題では?」
学校のカフェテリアへ突然王子が押しかけての会話である。
当然多くの人がいる。王子の後ろで何人かが笑をこらえているのが見える。
私は気にせず、アールグレイを受け取って一口飲んだ。
「他には?」
「マリアの机の上に脅迫状を置いただろう!」
「脅迫状?」
「明日のテスト、がんばってくださいと書いてあった!」
「それ、励ましのメッセージですよね?」
「だが! マリアはプレッシャーで泣いたと言っていた!」
私は思わずフォークを止め、王子を見つめた。
「それ、私が悪いんですか?」
「悪いに決まっている!」
「まあ・・・本当にプレッシャーに感じたなら悪かったかも。
でも結局、勉強しないであなたと遊んでましたよね?プレッシャーありました?」
私は給仕が新しく持ってきたザッハトルテを一口食べ、ため息をついた。
「他には?」
「マリアの靴が片方だけ見つからなかった!」
「それ、マリアさんが自分で、「間違えて左右違う靴を履いてきちゃった、てへっ」って言ってましたよね?」
「だが! お前が隠した可能性がある!」
「ありません」
私はきっぱりと言い切り、レクターに視線を向けた。
「ではこれを・・・」
「待て、まだ話は終わっていない!」
「まだあるんですか?」
「マリアに、靴下の親指のところだけが破れる呪いもかけただろう!」
「かけてません!それにその呪いには私もかかってます」「もしやあなたが呪いをかけましたか?」
「違う! 王宮魔術師に研究をさせてはいるが、まだ成功していない。」
「じゃあ、私がかけられるわけないじゃないですか」
王子は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ああいえばこういう、ラティーナ! お前は昔からそうだ! 婚約者としての自覚があるのか!」
「婚約者としての自覚があるなら、まずは私の話を聞くべきでは?」
「レクター。もう依頼しに行ってくれていいわよ。靴下の話も追加しておいて」
「承知しました」
レクターが静かに頭を下げて部屋を出ていく。
「婚約者としての自覚があるなら、あなたがマリアさんと何度も二人で密会していた件について説明していただけます?」
「なっ……なぜそれを……!」
「学校中が知ってますよ?」
私はにっこり笑った。
「婚約破棄は喜んで受け入れます。
ただし、冤罪はきっちり晴らさせてもらいます。」
王子は周囲の視線に耐えられなくなったのか、
「ま、まだまだ、お前の罪はあるんだからなあーっ!」と叫んで逃げるように去っていった。
私は残ったケーキをゆっくり味わい、満足げに微笑む。
「さあ、次はどんなケーキを食べようかな」
それから一か月後。
私は王都で一番人気のカフェのテラス席で、ケーキを食べていた。
「お嬢様、報告書が届きました」
レクターが封蝋の押された分厚い封筒を差し出してくる。
「オーウェン国とラステア国、両国の調査機関からです」
「思ったより早かったわね」
私はモンブランを一口食べてから封を開いた。
そして数ページ読んだところで、思わず笑みがこぼれた。
「完全に白と証明されたね」
「はい」
レクターも頷く。
二国の調査機関が独立して行った調査結果は一致していた。
マリアへのいじめ行為は一切確認できない。
証言の多くに矛盾が存在する。
提出された証拠の一部は後から作成された可能性が高い。
そして、王子が周囲へ『ラティーナの罪を証言する奴らを集めろ』と指示していた記録まで発見された。
「まあ、予想通りね」
私は紅茶を飲みながら肩をすくめた。
「さて」
そう言って立ち上がる。
レクターが少しだけ口元を緩めた。
「始められるのですか?」
「ええ」
私は報告書を持ち上げた。
「だって」
にっこり笑う。
「みんなにも娯楽は必要よ?」
その日の午後。
王都最大の新聞社。
王都で最も読まれている週刊誌。
商人ギルド。
貴族連盟。
魔術師協会。
さらには王都の人気カフェやサロンにまで。
私は調査報告書の写しを送りつけた。
もちろん改ざん防止の認証付きで。
翌朝。
王都は大騒ぎになった。
『婚約破棄騒動の真相』
『王子による冤罪工作疑惑』
『第三者機関、ラティーナ嬢の潔白を証明』
『証言捏造の可能性』
そんな見出しが街中に並ぶ。
人々は新聞を片手に口々に語り合った。
「ラティーナ様は無実だったのか」
「むしろ王子が罪を着せようとしていたらしいぞ」
「最初から怪しいと思ってたんだよ」
「マリア嬢の証言、全部おかしかったものな」
「内容もおかしかったし。髪が波打つとか、靴下に穴ってなんだよ。うちの母さんだって波うってるよ。」
「そんなんで婚約破棄を言い出す王子の頭もおかしい」
「いや、本人も気づいたのか、そのあとで水をかけたとか、教科書を破いたとかも追加したらしいぞ」
「その理由もなんだかなあ。それも調査されて捏造だってバレてるし。馬鹿なの?」
噂は瞬く間に広がった。
王都の端から端まで。
いや、王都だけではない。
近隣の国にまで。
そして数日後。
王城で緊急会議が開かれた。
王子は必死に否定したらしい。
だが無駄だった。
証拠が多すぎたのだ。
二国の調査機関が揃って同じ結論を出している。
さらに王子自身の側近たちまで、証言をひるがえし始めた。
保身のために、沈みゆく船から逃げるように。
結果。
王子は公の場で厳重な叱責を受けることとなった。
次期国王候補としての評価は地に落ちた。
一方で私は――
「お嬢様、本日の新聞です」
「ありがとう」
私は記事を眺めながら苺ケーキを口に運ぶ。
紙面には大きくこう書かれていた。
『ラティーナ嬢、完全潔白』
『王子の冤罪工作発覚』
思わず笑ってしまう。
「だから言ったのに」
「何をですか?」
レクターが尋ねる。
私はフォークを置いて答えた。
「婚約破棄は好きにすればいいって」
そしてもう一度笑う。
「でも、冤罪だけは許さないってね」
窓の外では新聞売りの少年が声を張り上げていた。
「号外だよー! 王子の冤罪工作が発覚ー!」
その声は王都の大通りへ響き渡る。
私はフォークを持ち新しいケーキを口に入れた。今度はレアチーズだ。
「うん。美味しい」
「太りますよ」
レクタ―が余計なことを言った。
徹底的なザマァを…と思って書き始めたはずなんですが、王子が小心者で、階段から突き落とすとかのケガをするようなでっちあげも出来なかったのでたいした罰になりませんでした。




