ロストレター
買い物をした。
それはもう! …って程には財布は緩くないので両手に紙袋いっぱいというのは難しいのだけれど、片手の重量感で (このまま持ち続けたら身体のバランスがおかしくなるのではないか?) と思うくらいには買った。買ってやった。
そんなこんなで、久しく買い物どころか外へ出ない。出不精な(この言葉の響って毎回ダブルミーニングじゃないかと思っちゃう)私は軽く呼吸が荒いし 人混みに酔ってるし 明日は確実に筋肉痛だ。 ヒラメ筋が笑ってる。
「ふーっ。」 っと、駅に向かう前に一息着きたくて 街路樹の腰の高さくらいにあたる レンガ造りの植木に寄りかかった。
荷物を一旦下ろし、重量に解放された瞬間は身体が浮くんじゃないかと思うくらいに軽かった。
そのまま、両手を後ろにかけて伸びでもしようとした時に何か物が当たる感触…。
(え゛っ!)っと思い目を向けたら それは植わっていた木の枝が当たっていただけで 昆虫の類じゃなくて本っっっ当に良かった。
と、ふと その視線の更に先に何かが置かれていた。というより 刺さってる?
それを興味本位でよく見たら どうやら封筒で、おそらく手紙の入った封筒だった。
おそらくというのは見た目として完全にレターセットにあるような封筒だったので、おそらく。
ほぼ間違いないだろうけど、 という見解である。
そして、その封筒は全体的にシワが寄っていた。
どうやら置きっぱなしだったので 雨ざらしにあい、そのまま天日干しされた状態になっていたのだろう。
私は少なくとも暫くの間は誰にも見つからずに日時が過ぎたんだなと思った。
「ほな、見てもええやろ。」好奇心のバケモノである。はい。
え?あ!ありがとうございます。長所ですね。
みたいな脳内コントを終えてから 手に取った。
「ん?あれ?」
今の私にとって重量感というのは無縁になっているくらいにウェイトトレーニングされていたはずなのだけれど。
おやおや? 重いのであった。
そしてこれは 単に "見た目以上に"重い。
所詮は紙。程度で持ち上げたので摘んだ指から危うく滑り落ちるところを咄嗟に力を込めた。
ただの封筒ではなく、何か手紙だけではない 何かが封された筒だった。
というか、封筒の筒って漢字 封筒の時だけ つつのイメージとかけ離れ過ぎてないか?
なんてのはさておき、軽く封筒を振ってみると硬い何かが入っている様だ。
今日は私が外出する気になるくらいには良い天気なので、封筒を空に掲げて透かしてみた。
すると、ハッキリしたシルエットで見えたのは
「鍵。鍵過ぎるくらいに鍵だ。」
鍵。Keyである。
扉を開ける。今はほぼ赤外線だが車や、自転車に使うというより。
あからさまにアドベンチャーなドラマや映画の宝箱を開ける為に作られてるような、それこそスマホで鍵と検索した時に絵文字で出るような 鍵。
再び封筒に目を凝らすと表面にあたる宛名。
所謂、誰々さんへ。 の所は何も書かれた痕跡は無く、裏面を見た右下に誰々より。 の部分はインクが滲んで解読が出来なかった。
なので、所有者は渡す相手に名前を書くほどでもないくらい それこそ、手渡しで預けられる間柄であり、一応 私からだよ という意味で名前を表記して残しているのだろうと推察した。
好奇心のバケモノと自己紹介した私ではあるが、教養と常識は一般並みには持ち合わせているので、閉じられた封を開ける事はなく そっと元の位置に戻した。
いったい、誰宛てで誰からの鍵で何を開ける為なのか。
どうにか見つかってほしいので、写真を撮ってSNSに上げようとまで考えたけど 私如きの発信力なんて皆無だし、以前に 道にあるはずのない物の写真を撮ってSNSに上げるとネットストーカーのリスクに会うというのも見かけたので、止めておいた。
その後、私は帰路につくのだが その間も封筒の事は気になっていた。
封を開ける事はなかったけれど、
もしかしたら読める文字があったかもしれない
鍵に何かヒントがあったのかもしれない
置かれたのか、落としたのか、捨てられたのか
ニュアンスで色々と問題は変わるけど
鍵なだけに何が開くのかはすごく気になる。
私なら、私だったら…
やっぱり未来の私へのタイムカプセルとかになるのかな? でも今の私が未来に託す物なんてないし
友達は少なからず居るけど わざわざ手紙にメッセージを残して 宝箱を開けさせるくらいに 手間をかけて楽しませるギミックを施すなんてゲームの支配人ぐらいじゃなければやらない。
……。
そうか、もしかしたらこれは何かのゲームのヒントになる鍵になってて 絶賛この街を題材とした謎解きゲームを誰かしてるのかもしれない!
だとしたら、勝手に持ち帰るのはゲームが詰んでしまう。 ゲームマスターに怒られる所だった。
何故か少し安堵した私でした。
後日、そういえば(すっかり次の日から忘れていた)と思い たまたま例の封筒を置いた場所の近くを通る都合があったので
立ち寄った所 なんと、その手紙は消えていた。
驚いた。少なくとも数日は置かれていたのに
私が手を離した1週間の間に誰かが持って行ったのだろうか。
もしくは街の清掃員が片付けてしまったのか。
真相は解かれなかったけれど。
正解が全てじゃなくて 果たしてなんて書いてあったと思う?みたいな終わりも面白くて
私は思わず ふふっ と笑みが零れた。
1週間前に思った 『私ならどう書き残したか』を今1度、もう1度考えてみたくなった。
そうだな〜… そうだ! 君ならどうする?
未来の自分。 親しい友達。
はたまた、知らない誰かへ預ける 宝の鍵。
小さな物語を動かす貴方が残すキーポイント。




