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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
最終章 俺たちはここにいる

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10-3

 涼たちが来たのは、それから一時間後のことだ。

 急に呼び出したにもかかわらず、みんな急いで駆けつけてくれた。日葵のことを詮索するのはやめようと言っていたが、みんながそれぞれまだ日葵のことを気にしているというのは分かっていた。俺たちは幼馴染だから。日葵に対して考えていることだって、みんな一緒だ。


「日葵ちゃん……」


 電話でそれぞれに事情を説明していたので、みんなそれなりの覚悟を持って来てくれたんだろう。璃子がまずベッドに横たわる日葵を見て泣き崩れる。


「日葵、ずっとこんなところにいたんだね……」


 璃子の後ろからみくりが日葵のほうへと歩み寄っていく。みくりの背中は震えていた。女子二人が寄り添いながら、日葵の頬をそっと撫でる。変わってしまった日葵の顔を見て、二人は何を思っただろうか。それでも、機械に映し出された心拍数を見て安堵する様子が見てとれた。


「日葵、辛かったな」


 涼が璃子とみくりの隣で声を詰まらせ、憂いを滲ませた表情を浮かべた。彼のこんな顔は見たことがない。涼は日葵のことが好きで、二人で海に行った際に心無い言葉を浴びせてしまったことを悔いていた。きっと今、彼の胸に広がっているのはそのときの心の痛みに違いない。涼が日葵のことを好きだということを、俺自身知らなかった。俺は日葵に対してだけじゃなく、涼に対しても、みくりや璃子に対しても盲目だったのだ。


「涼、みくり、璃子。この間は、みんなにひどいこと言って、ごめん。それからみんなのこと真っ先に疑って暴走しちまったことも……。いちばん愚かだったのは俺だったのに。みんなの気持ちを疑ってしまったんだ。本当に申し訳ない」


 この数日の間に一人で日葵のことを考えて、葉月に真相を聞く中で、自分自身の行動を顧みることができた。俺は未熟で、みんなに迫られたときに、どうしてみんな俺の気持ちを分かってくれないのかと憤ったのだ。

 でも、違うんだ。

 友情ってきっと、表面上の仲良しごっこすることだけを言うのではない。

 時に意見が食い違い、ぶつかることもある。人間なのだ。みんなそれぞれに違う考えを持っていて当たり前。本当にみんなに対して好きだと思うなら、真正面から本音をぶつけられる。心を晒しあうことで傷つくことだってあるかもしれない。だけど、ぶつかるからこそお互いの本音が見えて、より深い絆をつくることができる。

 今ならそう思えるんだ。

 俺が素直に謝るのを聞いて、三人が慌てたように「違うよ」と両手をブンブン振った。


「おれたちのほうがいけなかったんだ。三人で固まって、陽太を責めたから」


「そうだよ! わたしたち、陽太くんと分かり合えないかもしれないって焦って……」


「三対一なら、陽太があたしたちの意見を聞いてくれるなんて、卑怯なこと考えたのよ」


 三人が口々に、素直な想いを口にする。

 そうか、そうだよな。

 最初にタイムカプセルを開けたとき、俺が真っ先にみんなのことを疑ったから。だから後で疑われて当然なのだ。


「俺たち結局、互いに疑心暗鬼になってたんだな……」


「そうだね……。いつもならこんなことがあっても、日葵ちゃんが止めてくれてたから」


「日葵に、知らないところでたくさん助けてもらってたのね……」


 みんなの視線が一斉に眠っている日葵のほうへと向く。


「日葵、戻ってきてくれよ。もうお前の気持ちを試したりなんかしないからさ、だから」


 涼の切実な叫びが、静寂を切り裂く。


「日葵ちゃん、今まで本当にごめんね。ひどいこと言って、傷つけたよね……。ごめんなさい」


「あたしもっ……! 日葵の笑顔を疑って、心無いことを言ってごめん。あのとき、あんたの本当の気持ちを聞いておけば良かったんだ。寄り添えたかもしれないのに、突き放すようなこと言ってごめんっ……!」


 それぞれの悲鳴のような謝罪の言葉が部屋の中を反響して、その場の空気を温めていく。みんなが心の底から悪いと思っていることが伝わって、俺はほっとしていた。

 そして、日葵の手を再び握って、彼女に語りかける。眠っている彼女に届くように。深く深く、息を吸い込んで。


「ひま。みんな、お前にひどい言葉を浴びせたり、理想像を押し付けたりしたこと、心の底から詫びてるんだ。こんなこと言ったって、自分勝手な謝罪にしか聞こえないかもしれない。でもさっきも言った通り、俺たちは今度こそ、むき出しのお前のことをちゃんと見るようにする。いつも笑顔でなくたっていい。悲しいときは泣いていいし、辛いときは助けを求めていい。無理に笑わなくたって、ひまはひまだよ。だから安心して……戻ってきて」


 最後の言葉にはありったけの願いを込めた。

 過去は変えられないけれど、未来は俺たちの力でつくっていくことができる。そこに、日葵や葉月がいてくれたら嬉しい。いや、いてくれると信じている。

 握っていた手のひらから伝わる温もりを感じていたとき、彼女の指が一瞬ぴくんと動いたのを感じた。

 驚いて、ぱっと手を離す。ピク、ピク、とやっぱり何度か指が動いたあと、しばらくして動きを止めた。


「なあ、いま、見たか!?」


 そばにいる友人たちに聞く。みんな、「う、うん」と信じられない様子で頷いた。


「葉月、こんなこと今まであった?」


「いや、初めてだよ。もしかしたらもうすぐ起きるのかもしれない」


 冷静なように見えるけれど、いちばん動揺しているのは葉月だろう。その証拠に、肩が震えて、目をぱちぱちと何度も瞬かせていた。


「ひま……俺たちはお前のこと、いつだって待ってるぞ」


 今すぐに起きるわけではないと分かった。

 けれど、日葵の指が動いたことが、俺たち全員の確かな希望になった。

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