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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
最終章 俺たちはここにいる

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10-2

 俺の情けない話を聞いた葉月はどう思うだろうか。

 みっともない野郎だと罵ってくるかもしれない。それならそれでいい。いっそのこと、ガツンと一発言ってくれたほうが踏ん切りがつくのかも。

 でも、葉月の返事は俺の予想とは違っていた。


「……陽太くんの中ではそうなのかもしれないけど。少なくとも日葵は、陽太くんのこと心から好きだったよ。日記に書いてあるの、読んだでしょう? あの気持ちは、本物だと思う。それが恋心だったのかは私にも分からないけどね。日葵をいちばん近くで見てきた双子の私が言うんだから、間違いないよ」


——それでも私にとっては陽太くんが太陽だった。


 ああ、そうか。

 あの一文はやっぱり本音だったのか。

 日葵のことで、もう何を信じればいいのか分からなかったけれど。葉月が本物だと言うなら、信じられる。


「ありがとう。なんかすごく、救われた」


 これまでなんとなく、葉月の心のうちは薄いベールで包まれているみたいに分かりにくく、彼女に対して踏み込んではいけないという意識があった。でも、今になってふと葉月から昔励ましてもらった記憶を思い出す。俺の母親が出て行ったとき、俺の背中を撫でながらこう言ってくれた。


——辛いときは、無理して笑わなくていいと思う。


 あの言葉が、あのときいちばんほしい言葉だったと気づいたとき、彼女の優しさに触れたのだ。それ以降、葉月とはとりわけ親しくすることはなかったけれど、あのときの記憶が、今の自分を支えてくれているのは確かだ。


「なあ、ひま。お前は絶対目覚めるよな」


 白い壁と天井に囲まれた空間で人形のように眠り続ける日葵の顔を見つめながらそっとつぶやく。おずおずと日葵の手を握ると、ちゃんと温かくて、思わず涙がこぼれそうになった。葉月の前で泣くのはみっともなくて、ぐっと堪える。


「ひま、今まで本当にごめん。俺、ひまの苦しみに気づいてやれなかったんだ。それどころか、ひまをもっと追い詰めたんだな……。気づかなくて本当にごめん」


 日葵が聞いてくれていないことを承知で、俺は語りかける。静かな病室で、自分の声と葉月の息遣いと、日葵のかすかな呼吸音が重なり合う。


「もしひまが目を覚ましたら、次はちゃんとお前のことを真正面から見るようにするよ。どんなひまを見ても、俺の気持ちは変わらない。俺はずっと、ひまのことが好きだから」


 この「好き」は彼女に対する恋情だろうか。それとも、幼馴染の友人を慕う気持ちだろうか。もうどちらともつかないし、どちらもあるような気がする。いずれにせよ、俺は彼女のことを深く想っている。ただしこれは、盲目的な恋ではない。彼女のどんなきたない部分だって受け入れられる。


「ひまがいつか、心から楽しいと笑ってくれるようになるまで、いつまでもそばにいるよ」


 葉月がはっと息をのんだ。

 ひまが心から楽しいと笑ってくれるまで。

 そんな日が来ることを、彼女も願っているのではないだろうか。

 二人は互いを羨んでいたのかもしれない。でも、根っこの部分ではやっぱり互いを好きな気持ちがあったに違いない。その証拠に、葉月の両目から、一筋の涙が伝っていた。


「日葵、ずっとずっと、守ってくれたのに憎んでごめんね……。私は、お姉ちゃんのこと本当は恨んでなんかないよ。階段からあなたを突き落としたとき、気づいたの。もしかしたら日葵は私のことを守ろうとして、自分からいなくなろうとしたんじゃないかって……。あの瞬間、日葵への憎しみが愛に変わったの」


 葉月の心からの言葉が、胸に深く浸透していく。俺まで涙があふれそうになって、ぐっと堪えた。


「葉月、あのさ」


 葉月が静かに涙を拭うのを見たあと、俺は思いきって尋ねた。


「いまからここに、みんなのこと呼んでもいいか?」


「みんなって、みくりちゃんたちのこと?」


「ああ。みんなにだって、ひまの行方を知る権利がある。そして、本当のひまを知ってほしいと思う。許して、くれるよな?」


 葉月にだめと言われたら、諦めるしかない。そんな覚悟で訊いた。

 葉月は少し考え込むような素ぶりを見せたが、やがて部屋の窓の外に見えるトワイライトの空をじっと見つめながら、頷いた。


「ええ」

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