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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第九章 タチアオイの夢(日葵side)

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9-2

 成長して思春期を迎えても、変わらない。

 さすがに、小学生になる頃には自分が周りとは違うことに気づいた。

 楽しいと思えない自分はおかしいのだ。

 下手に本音を口にすれば、変な子だと思われると思うと怖くて、誰にも言えなかった。両親や、双子の妹の葉月にさえも。

 だから私は隠すことにした。


「へへっ、今度の日曜日、みんなで海に行くの楽しみだね!」


 陽太くんや璃子ちゃん、みくりちゃん、涼くんの前で、常に笑顔を振りまいた。他の子の前でも、先生の前でも、家族の前でも。

 ずっとずっと笑っていた。

 そうすれば、母の言う通り、他人から愛されていくのを実感することができた。

 ……でも。

 みんなが私を好きだと言ってくれるたびに、空っぽの心が軋んで、鋭い痛みが駆け抜ける。

 私はみんなに嘘をついているんだ……。

 心苦しさと罪悪感で押しつぶされそうになった。だけど、いまさら取り繕うことなんてできない。

 日葵は明るくて優しい子。

 ひまわりみたいに明るい笑顔でみんなを癒す存在。

 高校生になる頃には、自分でつくりあげた偽りの自分に、嫌気が差していた。

 そんな中、葉月が私に恨みを持っていることを知ってしまった。葉月の小説を読んだのだ。高校三年生が終わりかけたある日の夜、葉月がお風呂に入っている間に、自分と葉月の部屋を掃除していた時だった。葉月の部屋の机に置かれたノートパソコンが開いていた。興味本位で覗いてみると、そこには葉月が書いた『私が姉を殺すまで』という小説の編集画面が映し出されていた。長編小説で、その場で全部読むのは難しかった。気になった私は、自分の部屋から持ってきたUSBの中にその小説のデータを入れて、読んだ。

 小説は、“妹”の独白から始まっていた。


『姉はひまわりみたいに明るく笑うかわいらしいひとだった。

 妹の私から見ても、愛嬌があふれている。姉がそこにいるだけで、周囲が太陽光に照らされているみたいにぱっと華やかに、明るく輝いて見える。姉はみんなの輪の中心で、花を咲かせたように笑う。

 そんな姉のことを、姉の友人たちはみんな愛していた。

 姉はどんなひとからも愛される才能を持っている。

 私も、姉のことが世界でいちばん大好きだった。

 みんなよりずっとずっと、姉を愛していた。』


 そのあとは、第一章から第六章まで話が続いている。ざっくりと内容をまとめるとこんな感じだ。

 双子の妹である“私”は、内向的で人と接することが苦手。自分の殻に引きこもり、一人で絵を描くのが唯一の楽しみだった。学校に行っても友達ができなくて、孤独な日々を送っている。そんな“私”とは対照的に、双子の姉は太陽光線みたいに明るく、いつも周囲を和ませる存在。

 小さい頃は姉のことを自慢に思っていたし大好きだった。が、成長するにつれ、姉に対する嫉妬心が深まっていく。そんな“私”だったが、高校二年生の時に、好きな人ができた。クラスの中でも目立たない文学少年で、自分が知っている中では、彼のことを好きだという女の子はいなかった。恋人もいないらしい。彼は、教室で絵を描いていた“私”に、「その絵素敵だね」と話しかけてくれた。それから二人で好きな漫画や小説の話をして盛り上がり、気がつけば好きになっていた。少年の方も、自分に気がある素ぶりを度々見せてくる。でも——。

 そこで一度、物語に不穏な空気が流れる。

 じっとりと汗で背中が濡れていくのを感じながら、続きを読んだ。 

 少年が本当に好きだったのは、双子の姉のほうだった——。

 少年は、姉に近づくために、まず妹の“私”に近づいた。

 彼が、クラス一のイケメンだとか、人気者の男子だというのなら、まだ良かったのかもしれない。自分だけが彼の良さを知っていると思っていたからこそ、彼にも姉にも裏切られた気分になってしまったのだ。

 嫉妬が激しく燃え上がった“私”は、ついに姉を殺してしまう。

 ありふれた展開といえばそうかもしれない。作品の中で繰り広げられる愛憎劇には目を瞠るものがあり、文体がどこか幻想めいていて、気がつけば作品にどっぷりと浸かっていた。

 印象的な一文が胸に刺さる。


『姉はひまわりで、私は影だった』


 違うのに。

 私は、決してひまわりなんかじゃない。

 ひとの気持ちが分からない、ピエロだよ——。


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