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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第八章 姉がいなくなった日のこと(葉月side)

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8-7

***


 陽太くんに真実を語り終えると、彼は驚愕に満ちたまなざしで私を見つめていた。


「お前が日葵を……」


 分かっている。私がやったことは歴とした殺人未遂だということ。だけど、病院で事情を聞かれたとき、私は「姉が足を滑らせて下まで転げ落ちた」と説明してしまった。罪悪感でどうにかなりそうだったのに、この後に及んで保身に走ってしまったのだ。


「日葵はいま、病院に入院している。眠っていて目が覚めないの」


「病院に……。じゃあ、なんで俺たちに『日葵が失踪した』なんて連絡をしてきたんだよ」


「それは……私が罪悪感に耐えられなくなったのと……日葵の本当の気持ちを、みんなに知ってほしかったから」


「日葵の本当の気持ち?」


「そう。さっきも話した通り、日葵はタイムカプセルに細工をしたって言ってた。それを見たら、自分のことを分かってもらえるって。私は、どうしてもその日葵の願いを叶えたかった。日葵を突き落としてしまった私にできる唯一の贖罪だと思ったから。もし私が正直に『日葵が入院した』って言っていたら、陽太くんたちは本当の日葵のことを知ろうとせずに、病院に直行していたでしょう? それじゃだめだった。日葵の願いは、みんなに本当の自分を知ってもらうことだった。だから、あえて失踪という言葉を使って、みんなに日葵のことを調べさせた。失踪したって言えば、いやでも日葵のこと知ろうとするでしょ。だから」


 みんなにタイムカプセルを開けるように仕向けたんだ。

 中にどんな細工が施されているのか——私自身、開けてみるまで知らなかった。

 出てきた手紙には、パソコンで打ち込んだ無機質な一文が綴られていた。


『日葵の笑顔はぜんぶうそ。いつわりの笑顔でみんなをだましてる』


 あれは、日葵が自分で書いたものだったのだ。

 その手紙を見たとき、私は日葵が、これまでの人生で偽りの笑顔を見せてきたのだと悟った。その衝撃たるや、いわく言い難い。とにかく、世界が反転するほどの驚きに、胸に鋭い痛みが走った。

 日葵、そうだったんだ……。

 あなたは本当は、心の底から笑えていなかったんだね。

 気がつかなかった。日葵が偽りの笑顔を浮かべていたのはきっと、両親からの期待のせいだと悟った。両親から期待をされずに苦しんできたのは自分だけだと思っていた。でも、本当は違ったのだ。私がうまく笑えない分、日葵は私の分まで、一生懸命笑わなくちゃいけなくなったんだ。日葵は日葵なりの葛藤が胸を巣食っていた。『葉月の気持ちが痛いほどよく分かる気がする』と言った彼女の気持ちは本物だったのだ。

 日葵もきっと私と同じように、自分の人生が嘘っぱちのように思えてならなかったのだと。

 陽太くんはきっと私を恨むだろう。

 これからどんな罵詈雑言を浴びせられるのか。

 覚悟をして目を閉じた。

 でも、陽太くんが次に発した言葉は、私の予想とは違っていた。


「全部、話は理解した。正直まだまだ聞きたいことはたくさんあるけど、いま、葉月のことを責める気はない。もともとの原因はご両親にあるんだろうけれど、日葵が笑顔を偽っていたのは、俺やみんなのせいでもあるからな……。でもその代わり、俺をひまの元へ連れて行ってくれ」


 閉じていた目を開くと、陽太くんは真剣なまなざしで私を見据えていた。その有無を言わさぬ物言いに、思わず首を縦に振る。


「分かった。日葵の——お姉ちゃんのところに、一緒に来て」


 二人で自宅を出て、病院へと向かうバスに乗り込む。

 バスに揺られている間、自分が書いた小説の一説が脳裏でフラッシュバックした。


 姉はひまわりみたいに明るく笑うかわいらしいひとだった。

 妹の私から見ても、愛嬌があふれている。姉がそこにいるだけで、周囲が太陽光に照らされているみたいにぱっと華やかに、明るく輝いて見える。姉はみんなの輪の中心で、花を咲かせたように笑う。

 そんな姉のことを、姉の友人たちはみんな愛していた。

 姉はどんなひとからも愛される才能を持っている。

 私も、姉のことが世界でいちばん大好きだった。

 みんなよりずっとずっと、姉を愛していた。


 愛していたのだ。

 私はちゃんと、日葵のことを。

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