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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第八章 姉がいなくなった日のこと(葉月side)

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8-1

『日葵ちゃんはいつも笑ってて愛想がいいわよね。それに比べて、葉月ちゃんはむすっとしてることが多くてこわいわ。双子なのにこんなに違うなんてねえ』

 

 いつだったか、夏休みに母方の実家に行った際に、親戚たちがそう話しているのを聞いてしまった。母の実家は結構な田舎で、それぞれの家の事情はご近所には筒抜けの状態。特に、子どもがいる家庭は子どもの話題になることが多く、子どもの出来・不出来がその家の評判に直結していた。私からすれば、なぜ子どものことをそれほど気にするか分からない。けれど、少なくともその場所で育ってきた母や親戚たちには、子どものことは大切な評価基準の一つだったらしい。

夜九時ごろに日葵とともに布団に入って部屋の電気を消したのだけれど、慣れない場所でどうにもこうにも寝付くことができなかった。やがてトイレに行きたくなり、眠っている日葵を起こさないようにそっと部屋を出る。

 祖母の家のトイレは、階段裏にあった。そろりそろりと歩いてトイレの扉を開けようとした手がふと止まる。壁を挟んだところがリビングだったので、リビングに集まってお酒を飲んでいた伯母さんたちの声が、聞こえてきたというわけだ。


『まあ、二卵性だしね。双子っていうより普通の姉妹と一緒だよ』


 母親の、突き放すような尖った声が私の耳を貫いた。


『葉月にはあんまり期待しないようにしてる。あの子、言葉が出てくるのも日葵よりだいぶ遅かったのよ。昔はいろいろ心配したけど、別に知的障害でもなくて、単に性格がおとなしかったからだった。同じ遺伝子を持ってたって、兄弟みんなが同じように出来の良い子になるわけじゃないでしょ。だから、日葵だけでもいい感じに育ってくれたらいいなって思ってるわ』


 淡々と答える母の表情を想像すると、その目は少しも笑っていなかった。

 母も、祖母からは厳しく育てられてきたというので、我が子にも理想を押し付けようとしたのもまあ納得はいく。母は自分の子どもを、明るく朗らかな人間に育てたかったんだろう。でも、日葵とちがって、私はにこりとも笑わない。期待外れな私を切り捨てることで母は自尊心を保とうとしていたのだ。

 以前から薄々察してはいた。いつもニコニコとしていて愛想の良い日葵と、表情が乏しくて口数も少ない私を、両親が差別していること。日葵に話しかけるときは明らかに声が高くて、愛し子を愛でる馬鹿な親のようだ。それなのに、私に接するときの両親はとりわけ機械のようで、血が通っていなかった。特に母親のほうがひどくて、私は幼い頃からずっと胸に寂しさを抱えて生きていた。

 これ以上母親の本音を聞きたくなくて、トイレに駆け込み、勢いよく扉を閉める。中にある鏡に映った自分は、ひどく怯えた顔をしてみた。無理やり頬を上げて、笑顔をつくってみる。


「日葵みたいに……笑え」


 鏡の中に自分に言い聞かせながら、にっこりと微笑んでみせる。

 が、鏡に映った自分は醜く歪んだ顔をするだけだった。頬はひくつき、目元は一ミリも笑っていない。


「笑え、笑え、笑え……!」


 頬をつねったり目を擦ったりして、笑顔になろうとする。

 日葵みたいな可愛らしい笑顔に。


「ハア……ハア……」


 でも、できなかった。

 私は笑えない。

 笑えない子だった。

 楽しい気分に浸っているときでさえ、笑うことができない。

 どういうわけか、顔の筋肉がこわばって、ひとに笑顔を向けられない。

 だから、幼稚園、小学校、中学校、高校——どのコミュニティに所属していても、友達ができなかった。


『青島さんってさ、本当に無表情だよね』

『青島って、双子だよね? どっち?』

『そんなの聞かなくてもわかるっしょ。葉月のほうだって』

『くくっ、そうだよな。日葵は太陽光線すぎる』

『まるで月と太陽だよね、あのふたり』


 聞きたくない噂話は嫌でも耳に入ってくる。

 日葵と比べられることは日常茶飯事で、私はいつだって日葵の影で。

 だけど、顔も性格も似ていないから、影にすらなりきれていなくて。

 冷静に考えれば、生まれた瞬間に私の人生は詰んだも同然だった。

 でも、そうならなかったのは——日葵がいたから。


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