表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第六章 彼女を追い詰めたひと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/63

6-2

「俺は……」


 葉月の涙の訴えを、俺は聞き入れるべきなんだろうか。

 日葵のことを調べないでほしいというのが日葵の双子の妹である彼女の願いなら、俺は黙って受け入れる?

 でも、そのあとはどうなんだ。

 日葵が自ら姿を消したのだとして、彼女はいつ、帰ってくる?

 俺の——俺たちのもとに、日葵は帰ってくる意思があるのだろうか。

 このまま泣き寝入りしてもう二度と日葵に会えないのだとしたら。


「俺はやっぱり……ひまを見つけることを、諦めたくない」


 心の底から本音だった。

 誰がなんと言おうとも、ひまは俺の大切な友達だった。いや——それ以上の存在だ。だから、たとえ双子の妹のお願いだろうと、俺が諦めるわけにはいかない。

 俺の言葉を聞いて、葉月は瞳をぱちりと瞬かせ、胸の前でぎゅっと手のひらを握った。それから、眉を下げ、切なげな表情を浮かべる。唇が震えているのも分かった。


「陽太くんは、お姉ちゃんのこと、本当に好きなんだね」


 葉月が、日葵のことを「お姉ちゃん」と呼んだとき、そこに含まれている葉月の日葵への並々ならぬ想いを感じ取った。葉月は俺の選択に反対するわけではなかった。けれど、心の中ではやっぱりもう日葵のことを詮索してほしくないと思っているのはなんとなく察することができた。


「ちょっとお手洗いと、お茶持ってくるね」


 なんとも言えない空気感の中、葉月がそっと席を立つ。葉月が部屋から出ていった瞬間、視線をぐるりと周囲へと這わせる。

 普通の部屋……だよな。

 大学生の女の子の、シンプルな部屋だ。年頃の女の子にしてはモノが少ない。でも、葉月の性格からするとごちゃごちゃと家具やモノを置かないところは理解できる。

 学習用の机の上にも、ほとんど何も置かれていなかった。自分の部屋の机には参考書やら読みかけの本、筆記用具なんかを雑多に置いているので、多少違和感を覚える。なんとなく気になって、誘われるようにして立ち上がり、机の前に立った。すると、何もないと思っていた机の本立てに、大学ノートが二つ立ててあるのに気づいた。

 葉月がまだ帰ってこないのを確認して、二つのノートを手に取る。よくあるありふれたノートだ。趣味が悪いと思いつつ、気になって一冊目のノートの表紙をそっと開いてみた。

 飛び込んできた一文に、吸い込まれるように目が釘付けになった。


『私が姉を殺すまで』


「私が姉を殺す……」


 思わずその一文を口ずさむ。

「殺す」という物騒なワードに、視界がチカチカと点滅するように目が眩んだ。

 これは一体なんだ……?

 葉月の字、だよな?

 なんでこんなものを書いたのか——薄ら寒さを覚えつつ、次のページをめくった。


『姉はひまわりみたいに明るく笑うかわいらしいひとだった。

 妹の私から見ても、愛嬌があふれている。姉がそこにいるだけで、周囲が太陽光に照らされているみたいにぱっと華やかに、明るく輝いて見える。姉はみんなの輪の中心で、花を咲かせたように笑う。

 そんな姉のことを、姉の友人たちはみんな愛していた。

 姉はどんなひとからも愛される才能を持っている。

 私も、姉のことが世界でいちばん大好きだった。

 みんなよりずっとずっと、姉を愛していた。』


 詩の一節——いや、小説の冒頭だろうか。

 この文章の後に、「第一章」という文字が綴られている。だがその後は何も書かれておらず、ここで文章が途切れていることが分かった。

 葉月が書いた小説……と考えるのがいちばん自然だけれど、書かれている内容が、葉月と日葵のこととしか思えない。だから、この文章の中に葉月の気持ちが存分に表れているような気がした。

 葉月は小説を書く人なのか。知らなかった。でも、彼女が小説を書くと言われて違和感はない。おとなしい性格をした彼女が、文章を嗜んでいるというのはなんともそれらしい趣味だと思った。

 でも、どうして日葵のことを小説に……?

 それに、この小説はいつ書いたものなのだろうか。

 考えてももちろん答えは出てこない。一度小説のノートを閉じて、二冊目のほうを開く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ