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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第六章 彼女を追い詰めたひと

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6-1

 日葵と葉月の家は、先日行った公園の真隣にある。古い二階建てのマンションだ。ご両親が亡くなってからもともと住んでいた自宅を売り、安いマンションに引っ越したらしい。引っ越したあとこの家を訪ねるのは今回が初めてだった。

 バスに揺られている間、先ほど涼たちから聞いた言葉がフラッシュバックしていた。


——お前が日葵を追い詰めたんだ。


 違う、と自分で否定したはずなのに、その言葉が頭にこびりついて離れない。白昼夢を見ているような心地でバスの席からぼんやり窓の外を眺めていた。

 やがてバスが、俺たちの住宅街の最寄りのバス停で止まる。バスから降りると再び身体を包み込む猛暑に思わず両目を瞑った。

 バス停から歩くこと約十分。見知った公園の隣にあるマンションで、階段を上る。二階の端っこの部屋が葉月たちの家だ。ちょうど部屋の隣に非常階段がついている。何かあったときに便利だと思いながら、インターホンを押した。


「はい」


 葉月はすぐに玄関から顔を出した。

 心なしか、前回会った時よりも表情が暗い。もともとそんなに明るいやつじゃないことは知っているけれど、今の葉月からは病的な気配さえ感じて、自然と「大丈夫か」と尋ねていた。

 俺が家の中に入ったあと、玄関の扉の鍵を閉めてから一言、


「大丈夫ではないかな……」


 と掠れた声で返事が返ってきた。風邪でも引いているのか、顔色も悪いような気がする。


「でも陽太くんも、なんだかしんどそうだね」


「……そうかな」


 自分でもそんなつもりはないのだけれど、さっきみんなと鉢合わせた時に受けた衝撃で、顔が強張っていることに気づいた。


「うん。ちょっと休んだら? こっち、私の部屋にどうぞ」


 葉月に案内されてまずリビングへと出る。テーブルにひまわりが飾られているのがぱっと目に入ってきた。ひまわりを見ると、決まって日葵のことを思い出す。彼女を象徴するようなその花を、葉月はいまも家の中で愛でているのだろうか。

 リビングを抜けると、右手と左手に部屋が一つずつあるようだった。葉月は左手の部屋に案内してくれる。右手の部屋が日葵の部屋だということは聞かなくても分かる。

 葉月の部屋は、六畳ほどの空間にローテーブルと勉強机というシンプルだった。普段は布団で寝ているのか、ベッドは置かれていない。俺はローテーブルの下に置かれていた座布団に座るように勧められる。女の子の部屋に入るのは中学時代に日葵の前の家の部屋に入ったのが最後だったので、久しぶりの感覚で緊張していた。


「陽太くん、あのね。栞の写真を見たんだけど……ごめん、日葵のこと、これ以上調べないでほしい」


 思わぬセリフが彼女の口から紡がれた。一瞬何を言われているのか分からなくて「はい?」と阿呆面で聞き返してしまう。


「ひまのこと調べないでほしい、だって? なんで?」


 もともと日葵がいなくなったから探してほしいという連絡をしてきたのは、葉月ではないか。唯一の家族である日葵が失踪して、いちばん心を病んでいたのは葉月だと思っていた。もちろん、俺だってめちゃくちゃ心配だし、日葵がいなくなって焦っている。それと同じかそれ以上に、葉月は日葵が早く見つかってほしいと願っているではないのか。

 疑問は渦を巻き、全部言葉になって自分の中からあふれ出てしまいそうだった。だけど、ここで取り乱したら冷静に彼女の意見を聞くことができない。涼たちと話していたときに冷静さを見失ってしまった我が身を顧みて、これ以上はとぐっと口を閉ざす。

 正面から俺を見つめる葉月の表情は怯えているように見えた。


「一人で、いろいろ考えたの。なんで日葵はいなくなったんだろうって。みんなとタイムカプセルを開けたあの日からずっと。考えれば考えるほど、分からないの。でも、これだけは理解できる。あの子にはあの子なりの正義があって、姿を消したんだって」


「ひまの正義……」


 虚を衝かれたような心地になり、絶句する。さらに、普段あまり感情を見せない葉月の双眸からぽろぽろと涙が流れているのを目にして瞠目した。華奢な身体は震えていて、彼女が本心から日葵についてもう詮索するのはやめてほしいと思っていることがありありと伝わってきた。


「日葵はきっと私の罪を隠そうと……だから、陽太くんには関係ない」


「罪? なんだよそれ」


 思わぬセリフが彼女の口から飛び出してきて、彼女に詰め寄る。だが、葉月はこれ以上は話せないというふうに首を横に振った。


「お前、何か隠してるのか……?」


 葉月が日葵について何か知っているのなら、教えてほしいと思う。だけど、葉月は変わらず涙を流し続ける。そんな彼女を見て、やはりこれ以刺激するようなことは言えないと感じてしまった。


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