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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第五章 見えないふりをしていた

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5-2

 図書館の中で「文学」という分類のコーナーにやってきた。日葵がよく本を借りていたところだ。主に小説が並んでいる。コーナーには数人の人がちらほらと本を見ているが、俺のような学生らしい人か、子ども連れのお母さんしかいなかった。平日だし、そんなもんだろう。

 日葵が読んでいた本の背表紙を見つけては、懐かしい気分に浸る。実際に勧められて俺自身が読んだ本も見つけた。その中の一つに、ひときわ思い入れのある本を発見する。


「これ、懐かしいな」


 手に取ったのは『ひまわりの殺人』という小説だ。単行本で、ページは三百ページほどある。ひまわりの歌という童謡に見立てて殺人が起きるという内容だった気がする。物語全体を漂う不気味な空気感と、童謡になぞらえて一人ずつ人が死んでいく緊張感がスリル満点で、一気読みした記憶があった。


『めちゃくちゃ面白かったー! こんなに読書に夢中になったの初めてかも』


 読み終えた後、日葵が圧倒された顔で本を俺に渡してくれたのを思い出す。俺も、彼女につられて、図書館のテーブルについて夢中になって読み耽った。時を忘れるほど集中して。そんな俺を、やさしいまなざしで彼女は見ていた。


『ねえ、どうだった!?』


 読み終わった途端、身を乗り出して俺に感想を求めてきた。


『すごい作品だった……。なんというか、謎も面白いし、殺人の動機も筋が通ってて、納得させられてしまうぐらい……』


 正直感想を言うのがそれほど得意じゃなかったのだが、日葵は俺の言葉を聞いて『でしょ!?』とすぐに嬉しそうに頷いてくれた。


『この本の犯人、大切なひとを守るために嘘をついたんだよね。その気持ち、私も分かるなあって、途中で泣けてきちゃった』


『俺も、犯人の告白シーンはぐっときた。とにかく面白かったよ』


『良かった〜! 陽太くんが気に入ってくれて。陽太くんに本をおすすめするのが私の生きがいなの』


 えへん、と胸を反らして得意げな表情をする日葵がおかしくて、『生きがいって』と、吹き出してしまった。


『なに、私の生きがいに文句つけるの?』


『いや、違うけど。面白いやつだなって思って』


『だってさ、陽太くんは優しいから。おすすめして読んでくれるのも、たぶん陽太くんしかいないかなって。涼くんなんて絶対本読まな

しし。みくりもね。璃子はむしろ私よりたくさん読んでるから、おすすめしづらいの。だから、陽太くんだけなんだ。私が自信を持っ

て、好きなものを勧められるひと』


 正直驚いた。日葵は、楽しいことはなんでもみんなに教えたい! みんなとシェアしたい! と思うタイプだと思っていたからだ。日葵がこんなふうに俺たちのことを観察していたなんて思ってもみなかった。本を勧めるという一つの行為に関して、ここまで考えていたんだ。

 そう感心した記憶があった。

 昔の記憶を懐かしみながら、『ひまわりの殺人』をパラパラとめくる。その時、最後のページと裏表紙の間に一枚のメモのようなものが挟まっているのを見つけた。


「なんだこれ……?」


 手のひらサイズの長方形のその紙は厚紙だった。タチアオイの花イラストが描かれている。すぐに、日葵が描いたのだと分かった。ここでもタチアオイ……? 疑問に思ったが、日葵が栞として使っていたのではないかと理解する。その栞を抜くのを忘れて、返却していたのか。

 でも、この本を二人で読んだのって確か中学生の頃だったよな。

 その時からずっと挟まったまま? 他に誰か、この本を借りた人はいないのだろうか。

 不思議に思いながら、その紙を本から抜き取る。本は元の本棚に戻して、凛とした背の高いタチアオイの花が描かれた栞サイズのその紙を何の気なしに裏返してみた。


「“葉月、ごめんね”……?」


 その栞の裏に書かれた一文が目に飛び込んできた。

 日葵の字だ。

 “葉月、ごめんね”——なんでこんなところに、そんなことを?

 二人は喧嘩でもしたのだろうか。整った字を見ると、中学生の頃の彼女が書いたようには思えなくて、大人になった日葵がこの一文を書きつける姿を想像した。

 鮎川先生が言っていた、日葵の寂しそうな表情がふと脳裏に浮かぶ。俺が知っているのは日葵の笑顔だけだったはずだ。でも、本当は何度も、日葵のそんな表情を目にしていたのではないか……? 見ていたはずなのに、見えないふりをしていたんじゃないか——。

 俺の知らない日葵の顔が浮かんで、胸がズクンと疼く。

 日葵はこの栞にどんな想いを込めていたんだろう。

 俺はスマホで栞の写真を撮って、葉月にLINEでその写真を送った。


【この栞が図書館の本に挟まってた。裏にこんな一文があったんだけど、これ、日葵のものだよな?】


 葉月と連絡を取るのは、三日前にみんなで学校巡りをした日に彼女を誘ったとき以来だ。葉月はあのとき、思い出巡りから抜けたいと申し出た。そんな彼女のことが気になってはいたけれど、小学校で鮎川先生の話を聞いて、葉月にも思うところがあったのかもしれないと、そっとしておいた。が、この件に関しては葉月の名前がはっきりと書かれているし、彼女に聞くほかはない。

 返信はすぐには来なかった。

 ひとまず栞をポケットにしまいこみ、俺は図書館を後にする。


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