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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第五章 見えないふりをしていた

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5-1

 八月も下旬に差し掛かった。小学生の頃は、この頃になるともう夏も終わりかと物寂しくなったものだが、大学生になった今、まだまだ夏は終わらないと感じている。昔よりも夏の暑い時期が長引いているせいか、単にあの頃と比べると夏休みが長すぎるせいか。終わらない夏。見つからない日葵。葉月から召集がかかり、八月頭に集まった俺たちだったが、日葵との思い出の場所巡りも終えて、一度各自で日葵のことを考えようという話になった。

 みんなで公園と海に行った日の帰り、いつもは元気な涼が、しんみりとしていたから気になった。「どうした?」と聞くと、「おれがあのとき、海で日葵に毒を……」とうわごとのように繰り返したのだ。


『毒ってなんの話だよ』

『……陽太には言えねえ』

『はあ?』


 俺たち男二人のやりとりを、みくりと璃子は不思議そうな目で見ていた。でもそのうち、女子二人も涼の「毒」という言葉に何かを感じたのか、二人とも黙りこくってしまった。

 だから、海に行った帰り道は俺たちの間には沈黙が横たわっていた。

 それから二日が経ち、八月二十一日。

 俺は一人で市立図書館に向かっていた。

 図書館には、休みの日によく日葵と来ていた。二人で来ることが多かったので、あえてみんなのことは誘わずに。あの四人でいると、昔の楽しかった思い出を懐かしく思うとともに、どこか歯車がずれてしまった今のこの関係について、苦い気持ちを味わうことになる。ここ数日間で分かったことは、みんながそれぞれ日葵に対して、なんだか後ろめたい気持ちを隠しているということ。はっきりと話してくれたのはみくりだけだけど、璃子と涼も、絶対何かを隠している。思い出巡りの際に、二人とも様子がおかしい瞬間があったから、分かるのだ。

 やっぱり、俺だけだ。

 俺だけがひまのことを純粋に考えて、彼女を見つけ出したいと思っている。

 ひまのことは、昔も今も俺が守る。

 俺が、守ってやらないといけないんだ——。

 頭の中を埋め尽くす日葵の笑顔を、大切に心にしまう。小学校を訪ねた際に、鮎川先生が話していた日葵の寂しそうな顔が、どうしても浮かばない。仲間の中でいちばん日葵の近くにいたのは自分だから見たことはあるはずなのに、脳が思い出すことを拒否しているようだった。

なんでだ? 俺は、あんなにもひまのことを見ていたつもりなのに。先生が見ていた彼女の顔を、俺が知らないんなんて……。

 そんなこと、あっていいはずがない。

 だからこそ、俺は今日一人でひまとの思い出の場所にやってきたんだ。

 みんなが知らないひまの顔を、見つけるために。

 俺がいちばんひまのことを知っている。

 今も昔も、それだけは絶対だ——。

 バスに乗り、たどり着いた図書館の中に入ると、ひんやりとした冷房に身体中の汗が冷やされていくのを感じた。同時に少しだけ、頭も冷静になった。炎天下の中、考え込みすぎて頭がショート寸前だったことに気づく。常日頃から冷静さを失わないように生きてきたのに、夏休みに入ってから——いや、葉月から日葵が失踪したという連絡が来てからというもの、本来の自分を見失うことが多くなってしまった。それほど、日葵の存在が、俺の人生の一部になっていたから。

 懐かしい本の香りを感じながら、図書館の中を歩く。図書館の中の構造は知り尽くしていた。どこにどんな種類の本があるのか、頭の中に地図がインプットされている。日葵は本が好きだったから、何度もここに来たのだ。俺は普段それほど本を読むほうではないけれど、日葵に勧められて読んだ本は面白かった。彼女は特に謎解きの要素がある小説が好みで、図書館に来ると「今日はどんな謎に出会えるかな?」と目を輝かせていたことを思い出す。そんな彼女を、なによりも愛しいと感じながら見守っていた俺。今日は隣に日葵がいないことをふと思い出して寂しさに襲われる。

 待ってろよひま。

 俺が必ず、お前のことを見つけ出してやるから。

 お前が抱えていたものを、俺がちゃんと探すから。

 そしたらまた俺たちの——俺のもとに、戻ってきてくれるか?

 日葵のことを想いながら、ポケットに入れていた壊れたタチアオイの花のキーホルダーを握りしめる。先日、公園で璃子が見つけてくれたものだ。このキーホルダーが自分と彼女を繋ぐ架け橋のような気がして、肌身離さず持っておくようにした。


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