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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第四章 彼女はおれを見ない(涼side)

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4-3

***


 あれは、中学三年生の夏だった。

 おれたち幼馴染五人は、中学に上がって少し経った頃から、小学生の頃のようにみんなで集まることが減っていた。それぞれに部活やクラスの友人との予定で忙しくなったのが原因の一つだ。でも、たぶんきっとそれだけじゃない。昨日みくりの話を聞いて思った。幼少期の友情が、ずっと続くわけじゃないって身に沁みて痛感したんだ。

 そんなおれたちだったが、少なくともおれは中学生になってもみんなのことが好きだった。陽太に集合をかけられたらいつでも飛んで行ったし、なんだかんだみんなでいると、いちばん自然体の自分でいられる。おれの間抜けな発言を拾ってくれるみくりや、おっとりとしているけれどしっかり者の璃子、真面目でリーダーシップのある陽太、そして、太陽光線を具現化したような存在である日葵。みんなの輪の中にいるときの自分が、自分でもいちばん輝いていると思っていたし、好きだった。

 そんなおれも、実はずっと胸に秘めていたことがある。


「日葵」


 中三の夏休み、おれは日葵と二人で海へ出かけた。おれが、夏休みに入る前に日葵を誘ったのだ。最初は「みんなで」と彼女を誘ったけれど、前日になって他の三人が約束をキャンセルしたことにした。さすがの日葵も二人ならやめとく? と断ってくるかと思ったが、意外にも彼女は約束をキャンセルしないでくれた。


「だって涼くんは海、行きたかったんでしょ。楽しみにしてた予定がなくなるのって悲しいじゃん。だったら行こうよ。私と二人でもよければ」


 一点の曇りのない瞳でおれに語りかけてくれる彼女は、まるで天使のようだ。おれはそのとき、嘘をついてしまった罪悪感を強く感じたのだけれど、いざ二人で海にやってくると、そのときの苦い気持ちも海風とともに遠くへと飛んで行ってしまった。

 日葵とは夕方から海へやってきた。たぶん、今ほど夏の気温は高くなくて、砂浜にいても足を海の水に浸しておけば耐えられる程度の暑さだった。夕暮れ時の光を反射する海は、昼間とはまた違った哀愁ただよう耀きを放つ。この時間の海もいいな——そう感じるのは、日葵と二人きりでいるからかもしれない。


「きゃ、冷たいっ!」


 白い素肌を水に浸けた彼女が、可愛らしい悲鳴をあげる。透明な海の水に浸る彼女の素足は白くつるんとしていて、おれの知っている日葵とはまた違った一面を見せてくれた。


「涼くん、こっちきてよ」


 ようやく水の冷たさに慣れてきたのか、猫のようにおれを手招きする日葵。彼女につられて、おれも靴を脱ぎ、足をそっと水に浸けようとした。が、その時、一際大きな波が来て、一気にすねあたりまで水に浸ることに。


「わあっ」


「おお!?」


 咄嗟のことでバランスを崩しそうになったおれの腕を、同じく驚いてこけそうになった日葵が掴む。ひょんなことから互いの身体を支え合うような体勢になり、心臓が跳ね上がった。

 おれ、いま日葵に触れてる……。

 思春期のおれにとってはそれだけでもう頭が熱くなるほど恥ずかしい出来事だったのに、それが全然いやらしくなくて、この状況に陥ってラッキーだとさえ思ってしまった。


「びっくりしたー! 突然波が来るんだもん。勘弁してほしいよねえ」


 へへへと舌を出して笑う日葵。おれは、「あ、ああ」と彼女に同意する。心臓がいまだバクバクと鳴っていて、ちょっぴり胸が痛い。嘘をついて彼女を二人きりの場所に誘い出して、あまつさえ彼女に触れられたことに幸運だと思っている浅ましい自分がいるのだ。

 でも……それでもおれは。

 こうして他の誰にも邪魔されない空間で日葵と海で遊べていることが、たまらなく嬉しかった。


「なあ日葵、あっちの海の家のほうまで行ってみない? 波打ち際を走ってどっちが早く着くか競走しよう!」


 いつもの調子を取り戻したおれは、彼女にそう提案する。日葵は途端に笑顔になり、「いいね」とニタリと笑った。


「それじゃ、よーいドン!」


 バシャバシャと水飛沫をあげながら、波打ち際を駆けるおれと日葵。彼女が後ろからきゃあきゃあっと笑いながらついてくるのをしっかりと感じながらも、おれは手加減なしで走った。


「涼くん速い! 待ってよ!」


「待てねー! 仁義なき戦いだぞ!」


「おおっ、それならもう、日葵さんも本気出すよ!?」


 今までは本気じゃなかったのかという疑問は胸の奥にしまい込んで、どうするんだろうと思っていたところで、日葵が横からおれを追い抜いた。

 見ると、大股で腿のあたりまで濡れるのも構わずに、全力疾走している日葵がいた。日葵のやつ、あんまり運動得意じゃないはずだよな!? それなのにどうして、そんなふうになりふり構わずぶっ飛ばせるんだよ。不思議に思いつつも、その清々しい走りっぷりに、おれも爽快な気分になっていた。


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