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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第四章 彼女はおれを見ない(涼side)

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4-1

 みんなで学校巡りをした翌日、陽太の指示によって、朝十時におれは小学校の正門前にやって来た。午前中とはいえ、真夏の日差しがガンガンにアスファルトの地面に照りつける。小学生の頃からサッカー少年だったおれは夏の日差しにも慣れていたはずなのに、ここ数年のそれはちょっと容赦がなさすぎる。


「暑すぎない? これ」


 ハンディファンを片手にやってきたみくりはノンスリーブのブラウスを着ているが、腕にはアームカバーがしっかりと着いている。前から思っていたんだけど、女子のそれ、長袖と変わんなくないか? 結局腕を隠すなら長袖着ればいいじゃん。なんてツッコんだら、きっとまたみくりに怒られるからやめておいた。やつはいつメン五人の中でいちばん気が強くて、手が早い。あまり刺激しないでおこう。


「みんな揃ったな。じゃあ、行こうか」


 日傘を差した璃子と、キャップを被った陽太がやって来たところで、陽太が声を上げた。なんだかんだで、陽太も少しは頭が冷えたんだろうか。尋問の日の暴走ぶりは凄まじかった。正直あまり思い出したくもない。陽太と二人きりの部屋で、おれは散々疑われたものだ。他の二人とは違って男だからだろう。力技で日葵をねじ伏せることができる唯一の人間だ。まったくアホらしい。おれが日葵のことを、消してしまおうなんて思うはずがない。

 だっておれは日葵のことが——。


「この公園、変わってないな」


 汗だくになりながら歩くこと十分。やって来た公園は住宅街に紛れ込む、ごくありふれた公園だった。気の利いた遊具は小さめの塗装の禿げた滑り台と、鉄棒、チェーンのところが錆びたブランコだけ。実はここ、日葵と葉月のマンションの真横にある。ちょうどマンションの非常階段が公園のすぐそばに位置している。それぐらいの近さだ。

 吹き付ける熱風はやけに湿度が高く、息をするだけでも苦しい。砂利を踏みしめながら公園に入ると、どこか懐かしい気持ちにさせられた。

ここでおれたちは小学校が終わると毎日のように集まって遊んでいた。決して大きくはないけれど、みんなで鬼ごっこをするぐらいの広さはあった。

 そんな子どもたちの憩いの場も、今日は閑散としていた。まあそりゃそうか。この暑さだもんな。誰かいるほうがホラーだ。おれたちも、できるだけ早く立ち去ったほうが健康のためだという気がする。


「大人になって来ると狭く感じるね」


 璃子がもっともなことを言う。公園なんて、昔は身近にあった存在なのに、少し時が経てばぱたりと利用しなくなる。久しぶりに足を踏み入れてみると案外狭いじゃないか——そう感じてしまうのも無理はない。


「あたしらここで何してたっけ?」


「おいおい、忘れたのか? 鬼ごっこだろ、かくれんぼだろ、縄跳び、ドッジボールにケンケンパとか」


「ええっ、この人数でドッジボール? 何それつまんなそー」


 みくりがありえないというふうに過去の自分たちを馬鹿にしながら笑う。


「全部日葵が考えたんじゃなかった? 大体遊びの提案をするのは日葵か、日葵がいないときは陽太だった気がする」


「うん、そうだったね。日葵ちゃんはいろんな遊びをしたがってたよね」


 璃子が昔を懐かしみながら目を細める。


「そっか。言われてみれば確かにそうだったかも。そう思うと、日葵はやっぱりみんなの中心だったなー。遊んでるときも、みんなが勝ち負けでいがみ合っても、日葵だけは中立だったよね。ほんと、いい子だった……」


 いつになくしんみりとしたみくりの声が響き渡る。だけどおれは、みくりの言葉が本心から出たものなのか、ちょっと疑ってしまう。昨日、中学校に行った際に、みくりが日葵に嫉妬していたと告白した。あのとき、陽太は心底驚いていたようだったけれど、おれはなんとなく気づいていた。みくりだけじゃなくて、たぶん璃子も。あんな、太陽みたいな女の子がすぐそばにいて、嫉妬しないやつなんていないだろう。と、少なくともおれは思っていた。陽太だけは、盲目的に日葵に焦がれていたようだから、気づかなかったんだろう。

 陽太はほんと、日葵のことだけだからな……。

 やつが日葵を見つめるときのまっすぐなまなざしには、一点の曇りもない。今も、昔も。陽太が盲目的なまでに日葵に恋をしているのはたぶん、陽太の実の母親が原因だろうとおれは踏んでいる。彼の母親は、彼に悪い意味で無関心だったらしい。親から愛情を感じられなかったからこそ、自分が誰かに愛情を注ぐことで、欠けている自分の一部を取り戻そうとしているかのように思われた。だけどおれにとっては、どんな理由でも日葵をまっすぐに見つめられる陽太が羨ましくて仕方がない。おれだってずっと、日葵のことを——。


「ひま、本当にお前はどこに行っちゃったんだよ……」


 しんみりと寂しげな声が、響き渡る。日葵の不在が彼に大きな不安を与えていることは明らかだった。もちろんおれたちだって同じだ。日葵が消えてしまって、頭の中はずっと混乱している。でも、陽太とおれたちが決定的に違うことがある。それは、|日葵がいなくなった原因を《・・・・・・・・・・・・》、|知っているかもしれないということ《・・・・・・・・・・・・・・・・》だ。少なくともおれはそう。みくりと璃子はどうなんだろう。みくりも日葵に毒を吐いていたことが分かったし、彼女も本当はうっすらと気づいているんじゃないだろうか。

 日葵は、自分のせいでいなくなったんじゃないかって。

 


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