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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第三章 あちら側の人間(璃子side)

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27/63

3-9

***



「璃子、どうした?」


 耳元で聞こえる陽太くんの声に、ぱちんと眠りから目が覚めたかのように、意識が現実に引き戻される。

 気づいたら高校の職員室の前にいた。


「ごめん、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけ」


 咄嗟に取り繕う。「ふうん」と関心がなさそうにわたしからすぐに視線を逸らす陽太くんを見て、胸がチクリと痛かった。

 陽太くんはわたしたちのそばから離れて、職員室へと入っていく。が、職員室から出て来たとき、彼のそばには誰もいなかった。


「どうしたの?」


 みくりちゃんが心配そうに問う。でも、陽太くんの目を見ないようにして尋ねていた。あの告白の後の気まずさが漂っている。


「いなかったんだ。日葵の担任だった先生たち。一年のときの担任は今日出勤していなくて、二年と三年のときの担任は部活で遠征してるんだって」


 陽太くんが両手の拳をぎゅっと握りしめながら言う。


「ひま、どこにいるんだよ……」


 震える声でつぶやく。手がかりがなかったせいか、陽太くんの落ち込みようは大きかった。

 陽太くんの目、尋問の時と違うな……。

 純粋に日葵ちゃんのことを心配する一人の男の子の目をしていた。

 陽太くんの答えを聞いて、みんなも分かりやすく落胆していた。でもわたしは……正直ちょと、ほっとしてしまう。

 一年生のときの担任の先生は、吉川さんたちのグループがわたしをいじめて、その次に日葵ちゃんのことをターゲットにしていたことを知っているだろうから。それをみんなの前で話されたら、わたしは立場がなくなる。日葵ちゃんがいなくなってしまったというのに、我が身の保身について考えてしまう自分が、心底嫌だった。


「あのさ」


 ここで学校巡りは終わりか、と全員が息をついた時だった。今までほとんど黙りこくって、わたしたちについて来てくれていた葉月ちゃんが突如、口を開いた。


「悪いけど、私はここで抜けてもいいかな」


 全身に滴る汗を不快に思っているときのような苦い声色で彼女がそう言った。よく見たら、膝の下にだらりとさげた手の指先が震えている。目を伏せて、「日葵」とつぶやく声が聞こえた気がした。けれど、他の誰にも、彼女の声は聞こえていないようだった。


「抜ける?」


「そうなの?」


 涼くんとみくりちゃんが同時に声を上げる。葉月ちゃんが抜けると言い出しのが意外だったんだろう。二人は葉月ちゃんのことを疑うように視線を合わせた。


「え? あ、ああ。構わないけど……。逆に一緒に回らなくていいの?」


 陽太くんも驚いた素ぶりで葉月ちゃんを見つめる。正直わたしもびっくりしていた。日葵ちゃんのことをいちばん心配しているはずの彼女が、ここで抜けてしまってもいいのだろうか。


「ごめん。ちょっと一人で考えたいことがあるから……」


 遠慮がちに答える。視線は宙を彷徨い、表情には翳りが見えた。そっか。そうだよね。日葵ちゃんがいなくなって、葉月ちゃんが一人で心の整理をしたいと思っていてもおかしくない。もともと彼女はわたしたちのグループには所属していなかったわけだし、本人が嫌がっているのに連れ回すのも違うか。

 わたしはそう考えたのだけれど、みくりちゃんは一人、「ふーん」と意味深に頷く。なんだか葉月ちゃんのことを信用していない様子だ。でもまあ、それも仕方ないのかもしれない。みくりちゃんやわたしたちからすれば、グループの外にいる葉月ちゃんの内心については、ほとんどブラックボックス状態なんだから。


「分かった。でもまた一緒に回りたくなったら連絡して」


 陽太くんもわたしと同じように考えたのか、納得した様子で優しい言葉をかけていた。


「……ありがとう」


 そこで葉月ちゃんとは一度、別れることになった。このまま学校以外の場所も回るのかなと思っていたけれど、「続きはまた明日にしよう」と陽太くんが言った。


「外暑いし、それぞれ思うこともあるだろ。みんな疲れも溜まってるだろうし。だからまた明日集まりたいんだけど、大丈夫?」


「あたしは大丈夫」


「おれも」


「わたしも、いつでもいいよ」


 陽太くんが冷静にみんなのことを考えてくれているのは意外だった。前回会ったときは尋問のようなことをしてきたのに。時間が経って、彼も少しだけ頭が冷えてきたんだろうか。


「よし。じゃあそうと決まればまた明日だな。待ち合わせは朝十時、小学校の前で」


 陽太くんがこうしてリーダーシップを発揮するのはいつものことだ。日葵ちゃんがいない今、彼の中でも焦りが膨らんでいるのは分かる。でも、みんなの前で“いつもの”彼らしく振る舞おうとしていることだけは理解できた。そんな陽太くんを見て、わたしはやっぱり彼のことをまぶしいと思ってしまった。

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