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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第三章 あちら側の人間(璃子side)

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22/63

3-4

 わたしたちが通っていた桜田中学校の職員室は、二階にあった。

 階段を上っていた際に、葉月ちゃんが息苦しそうに胸を押さえているのを見た。


「大丈夫?」


 わたしはそっと声をかける。葉月ちゃんははっと顔を強張らせたあと、


「大丈夫……」


 と自分に言い聞かせるように答えた。だがその後も、彼女の顔色が悪く、陽太くんたちが異変に気づいた。


「葉月、ちょっと休憩するか?」


 この暑さだ。葉月ちゃんが熱中症を起こしていてもおかしくない。陽太くんが心配そうに彼女の顔を覗き込む。でも、葉月ちゃんは首を横に振った。


「熱中症とかじゃないから、気にしないで」


 本人にそう言われてしまえば、これ以上踏み込むことはできない。陽太くんが「水、しっかり飲んどけよ」と言って、葉月ちゃんは素直に従っていた。

 職員室にたどり着くと、中学校でも日葵ちゃんの担任だった先生に話を聞いた。でも、鮎川先生とは違って、中学生の彼女のことを、それほど熱心に見てくれていないようだった。中学になると教科担当制になるので、仕方のないことかもしれない。先生が日葵ちゃんのことを見られる時間も、小学校の先生に比べると圧倒的に少なかっただろう。

 収穫なしで中学校の廊下を歩いている際、どういうわけかみくりちゃんの顔がずっと強張っていた。「どうしたの?」と尋ねると、「あたし……」と彼女が涙声になっていたのでぎょっとする。他の二人も、困った様子で「どうしたみくり?」と彼女の顔を覗き込んだ。


「あたし、中学のとき、日葵に嫉妬してたの」


 突然、みくりちゃんが中学時代の思い出話を始める。その内容に、思わず全員で息をのんだ。


「日葵のことずっと羨ましいって思ってて、あの子の笑顔を見るたびに自分と比べてしまって、惨めになって……。だから言ったの。

『表面では笑ってるけど、本当は計算してるよね?』って……」


 きっとみくりちゃんは、かつて日葵ちゃんに放った呪いの一言を、自分の中に留めておくことができなかったんだろう。罪悪感から解放されたという彼女の浅ましい気持ちが透けて見えた。


「は?」


 みくりちゃんの一世一代の告白に噛み付いたのは、予想通り陽太くんだった。


「表面では笑ってるけど、本当は計算してる……? お前、それ、あの手紙と同じじゃないか」


 陽太くんの言う「あの手紙」とは、タイムカプセルから出てきた不穏な手紙のことだ。


『日葵の笑顔はぜんぶうそ。いつわりの笑顔でみんなをだましてる』


 みんなが一斉に、みくりちゃんに対して「もしかして……」と疑念を抱いたのが分かる。わたしだってそうだ。あの手紙の文と、みくりちゃんが中学時代に日葵ちゃんに言った言葉はあまりにも一致しすぎている。


「そ、それは違う! あたしが書いたんじゃないっ」


 疑いを向けられたみくりちゃんが、真っ先に濡れ衣だと主張する。

 けれど、陽太くんの目は懐疑に満ちたままだ。


「いやいや。さすがにそれは無理があるんじゃない? だって手紙の内容とめっちゃ一緒じゃん。みくりがひまに言ったこと。もしかして、わざわざ今告白したのって、自分が罪悪感から逃れたかったから? それだけ? みくりが手紙を書いたんじゃないっていうならそういうことだろ」


 陽太くんはやっぱり変わっていなかった。

 日葵ちゃんがいなくなったことをいちばん心配していて、心を病んている。みくりちゃんが恐怖に顔を引き攣らせる。それでも陽太くんは、毒を垂らすことをやめない。


「俺は、みくりのこともみんなのことも信じたいと思ってたよ。でももし、みくりやみんながひまの心を汚してたんなら、容赦しない」


 吐き捨てるように言った彼の言葉が、リノリウムの廊下の床に吸い込まれてく。無機質な声色が、頭の中でキンキンと反芻される。

 ああ、だめだよ、わたし。

 ここで言ったらだめ。

 なんとか自分の中で|本当の自分を曝け出してしまいそう《・・・・・・・・・・・・・・・・》になるのを自制する。陽太くんは気づいていないようだ。みくりちゃんも涼くんも葉月ちゃんも。怯えるみくりちゃんはひとり、肩を震わせていた。



 みくりちゃんの衝撃的な告白から一時間が経ち、今度は県立共ヶ丘(ともがおか)高校を訪れていた。わたしと陽太くんと日葵ちゃんが通っていた公立高校だ。高校の内部事情を知っているのはわたしと陽太くんだけ。みんな、黙ってわたしたちについてきてくれていた。

 というか、黙らざるを得ない状況だった。

 口を開けばまた、陽太くんの逆鱗に触れてしまうかもしれない。という恐怖が、みんなの中で薄く広がっていた。

 それにわたしも——わたしも、日葵ちゃんに対して、誰にも言えない秘密があるから。

 高校一年生の頃、わたしと日葵ちゃんの担任だった先生の元を訪ねる前に、ぐるぐると記憶が入れ替わり立ち替わり、寄せては返る波のように現れた。

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