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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第二章 本当のあたしは(みくりside)

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18/63

2-5

「みくり、日葵と幼馴染でしょ? 日葵のこと誘ってきてよ」


 リーダー格だった霧島絵茉(きりしまえま)の一声で、あたしが日葵に声をかけることになった。それ自体は、特に嫌なわけでもなく、あたしは十分休みにトイレへと席を立った日葵に、廊下で自然と声をかけていた。


「日葵、あのさ」


 面と向かってあたしから日葵に話かけるのは久しぶりだったので、若干緊張して声が上擦った。対して日葵のほうは、久々にあたしが話しかけてきたことに驚きつつも、嬉しそうに頬を綻ばせる。


「どうしたの、みくり」


 くりくりとした大きくてつぶらな瞳があたしの顔を見つめる。


「単刀直入に言うけど、あたしたちのグループに入らない?」


 十分休憩はそんなに長くない。体感で言うと十秒ぐらいだ。だから、余計な間合いは必要なかった。

 日葵は一瞬目を丸くして驚いたあと、「みくりたちのグループって、霧島さんたちだよね?」と絵茉の名前を挙げた。


「そうだよ。他に四人いる。みんな明るいし楽しい子たちばかりだよ。絵茉が日葵とも仲良くなりたいって言ってるの」


「仲良くなりたいって、本当に?」


「うん。なに、疑ってるの?」


「いや、そういうわけじゃないよ。ただ……」


 ここで、日葵が普段の彼女らしからぬ迷いを見せた。いつもなら、友達からの誘いを絶対に断ったりしない。笑顔で頷いて「ありがとう」と花のような愛を振りまく。だけど、この日の日葵は違っていた。


「霧島さんたちについていけるかなぁって思うと、不安かも。誘ってくれてすごく嬉しいんだけど、今回はちょっと、ごめんね」


 日葵の純粋なまなざしが鈍く揺れた。あたしは、初めて日葵から受けたはっきりとした拒絶に息が止まりかけた。

 日葵が、まさかこんなふうに断ってくるなんて……。

 確かに、中学に入学して以来、日葵に声をかけなくなったあたしが悪いと言えば悪い。

 小学校からの友達との縁よりも、新しい環境の中で必死に自分の立場を守ろうとしたあたしの浅はかさが招いた結果だ。

 でも、だけど。

 あたしたちは、一軍グループだよ?

 厚意で|あんたを誘ってやってんだぞ《・・・・・・・・・・・・・》。

 地味な女の子たちと笑い合ってたら日葵、あんたの品と格が落ちるよ?

 腹の底から湧き上がるマグマのようなどろどろとした感情を、毒を、口から吐き出さないように必死に押さえ込む。おかしい。あたし、日葵に対してなんて醜い感情を抱いているんだろう。でも、これがあたしの本音だったんだ。自分でもちゃんと気づいていなかった。

 小さくて華奢で可愛らしくて美人で色白で人気者で完璧な日葵に、こんなにも嫉妬していたなんて——。


「日葵ってさ」


 だめだ。

 それ以上喋ったらだめ。

 頭では理解しているのに、言葉が止まらない。

 息を吸うと、血液が全身を順ぐり回る映像が頭に浮かんだ。手と足の先っぽまで、どんどん酸素が運ばれていく。気づいた時には頭が熱く燃え上がり、必死に押さえ込んでいた毒があふれだしていた。


「表面では笑ってるけど、本当は計算してるよね?」


 日葵の表情が凍りついた。

 信じられない生き物を目にしたような時のような驚きが顔いっぱいにひろがっていく。日葵がいま感じているあたしへの気持ちは、いったいどんな色をしているのだろう。あたしには黒に見える。いや、それはあたしが日葵へ抱いている感情の色だ。


「そんなことないよ。みくりにはそう見える?」


 日葵にしては挑戦的な言葉だった。でも、その声は確かに震えていて、あたしが盛った毒が、彼女をしっかりと傷つけてしまったことが分かった。


「……うん。ずっと思ってた。小学生の頃からずっと」


 一度開いてしまった醜い心は簡単には閉じてくれなかった。日葵に対して抱いていた負の感情を一気に吐き出す。おかしい。だってあたしは、日葵のことが好きだったはずなのに。好きな気持ちのほうが、彼女に嫉妬する気持ちよりも大きいはずなのに。

 だけど、面と向かって彼女に毒を吐いてようやく気づく。

 あたしは、日葵を好きだと信じたかっただけなんだ。

 憧れとか尊敬とかそれらしい言葉を使って、自分の本心を封じ込めていただけだ。

 本当のあたしは、日葵が羨ましくてたまらなかったんだ——……。


「……そっか」


 腑に落ちた様子で頷く。どうしてそんなに冷静でいられるのだろう。あたしは心臓の音がどんどん速くなって、止まらないというのに。


「私、いつも笑ってるしかないんだ」


 日葵が最後に悲しげにそうつぶやいた声も、あたしの耳をかすっただけで、リノリウムの床に落ちていく。その言葉の真意を深く考えることもなく、あたしは日葵の前から必死に逃げ出していた。

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