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ひまわりを枯らす手  作者: 葉方萌生
第二章 本当のあたしは(みくりside)

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2-3

「空回り……なのかな。なんだか今の陽太くんってすごく冷静にも見えるんだよね」


「そう言われたら、そうかも」


 確かに、みんなを見据える陽太は、虎視眈々と獲物を狙っている獣のようにさえ見えた。冷静だと考えればそうかもしれない。一切の感情を排除して、真実だけを見ようとしている瞳。日葵に脅威をもたらすものを炙り出して、彼女の居場所を突き止めようとする強い意思。彼から滲み出ているオーラは、サスペンスドラマで目にする警察官のそれに似ていた。


「涼くんは大丈夫かな……」


 もう上手いこと頭が働かない。璃子の声も、ぼんやりと掠れて聞こえる。

 どれぐらい時間が経っただろうか。たぶん、実際には十分ぐらいだったと思う。でもその十分が、あたしには永遠のように長く感じていた。

 戻ってきた涼はむすっとした表情であたしの隣に座った。そして、「次、みくりだって」とぶっきらぼうに告げる。なるほど、前の人が次の人を呼ぶシステムなのか。

 涼にどんなことを話したのか聞きたかったけれど、時間がない。早く行かないと、陽太はあたしのことを疑ってくる気がする。


「じゃあ、行ってくるわ」


 全然物怖じしていない素ぶりで二人から離れる。二階の陽太の部屋は昔から変わらないので把握済みだ。コンコンとノックをして

「入るわね」と部屋の中へ突入した。

 陽太はローテーブルの前に座っていた。ちょうど、扉に向かい合うかたちになっていて、中に入った瞬間、無表情で「そこ座って」と自分の正面を指差した。大人しく従う。まるで取り調べ室のようだ。薄気味悪さを覚えつつ、彼の前に腰を下ろした。


「で、日葵と最後に会った日のことを話すんだっけ」


 あくまで会話の主導権はこちらが握っていますという空気感を漂わせるため、先に口を開く。陽太はそんなあたしの意図を知ってか知らずか、「ああ」と頷いた。


「あんまりはっきりとは覚えてないんだけど、確か、高三の夏休みに璃子と三人で会った時じゃないかな。高校最後の夏休みだから、幼馴染女子三人でプールに行こうって話になって。ほら、二年前にできたリゾート型プールがあるでしょ。あそこ。みんなで普通にはしゃいで、途中でアイス食べて泳いで楽しかった記憶があるけど」


 話には少しだけ嘘を混ぜた。

 あの日、あたしたち三人の間にはどこかよそよそしい空気感が漂っていた。

 璃子はどうなのか分からないけれど、あたしは日葵に対して、昔からちょっと思うところがあり、中学時代に彼女と衝突したことがあった。衝突といっても、あたしの方が一方的に日葵に食ってかかっただけだけど……。常にみんなの中心で明るく笑っている純粋な日葵に嫉妬していたのだ。その気持ちを抑えきれず、日葵に好き勝手言って——。

 そう。だから、高校三年生の日葵にとって、あたしは因縁の相手だった。

 二人の間に流れる微妙な空気感を璃子も察したのか、プールで遊んでいても手放しで楽しいという感じではなかった。精一杯楽しもうとはしていたけれど、どこかに焦りや苛立ちが滲んでいたように思う。

 それでも、あたしたちももう大人。過去を清算して未来へ進もうという気持ちだってちゃんとあった。だから、昔のことは何も言わずに、表面上だけで楽しいふりをしていたわけだ。


「ふうん。みんなでプールか。じゃあ、璃子に聞いても同じ答えが返ってくるかな」


「いや、どうだろ。璃子は日葵と高校も一緒だったから他の答えが返ってくるんじゃない?」


「それもそうか。俺とひまと璃子は同じだったもんな。ひまと璃子が二人で遊ぶこともあったかもしれないな」


 陽太はそこまで話すと、何かをじっくり考え込むようにして顎に手を当てた。これだけの証言で日葵が消えた事実について推理しよう

というのだろうか。馬鹿馬鹿しい。ただの大学生でしかないあたしたちに、一体何ができるというの。


「なあみくり。ひまは本当になんで消えちまったんだと思う? 誰かに連れ攫われたわけじゃないとして、純真無垢で天真爛漫なひまがなんで自分から消えようとしたと思う?」


 陽太の声からは大切な人の行方を知りたいという切実さが窺えた。獣に見えた彼も、心のうちでは不安で仕方がなかったのだと悟る。


「あんたは何も分かってないよ。もしかして、日葵は傷ひとつない天使か何かだとでも思ってる? だったら全然、違うと思うけど」


 勘違いをしている様子の陽太に毒を垂らす自分に、嫌気がさす。

 あたしはいったい何様なんだ。

 日葵を傷つけた張本人なのに。陽太が日葵のことをずっと想っているのを知っているのに。汚れのない彼女の天使の羽をもいだのは、あたし自身。それなのに、自分のことは棚に上げて、幻想に浸る陽太に冷や水を浴びせている。

 本当に、バカみたい。

 あたしもあんたも、日葵のこと何も分かってないんだよ。

 あたしは、日葵とぶつかった日々に、遠く思いを馳せた。

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