市民プールの怪
市民プールで女児を狙った事件が起きた。泳いでいる最中に、足をつかまれるというものだ。
「いたずらじゃないんですか?」
「私らも最初はそう思ってたんですが、幽霊の仕業なんて噂が流れましてね。そんなことで経営不振になったら困るんで、捜査してもらうことにしたんですわ」
市民プールの管理を委託されている管理人は、麦わら帽子の下で大きなため息をついた。
被害者たちはすぐに解放されるから、溺れるほどではないという。ただ「なんだか気持ち悪い」と口をそろえて言う。幽霊の仕業ではないかという噂が流れるのも、無理もない。
私は市民プールの管理棟から出て、額の汗を拭った。
私たち警察も、最初は「いたずらだろう」と軽く聞き流していた。あまりにも相談がつづくので、ついに捜査せざるおえなくなった。潜入捜査である。
夏の暑い日差しをサングラスで避けて、私はスポーツ飲料を一気飲みした。
「誰かのいたずらとか、幽霊とか、排水口に吸い込まれたとか、そういうのじゃないんですか?」
「吸い込まれてたら、逆に問題でしょ。排水口は遠かったよ。それに現場は多数」
二人一組で捜査している相方は、やる気がない。
それにしても暑い。スポーツ飲料のペットボトルまで汗をかいている。まだ少し冷たいその雫をぬぐって、市民プール事件捜査本部……ビーチパラソルの下である……に、私はペットボトルを置いた。
捜査は地道に行うものだ。飛び込み禁止のプールにそっと入って、女児の周りに目を光らせる。
キャー! という叫び声が聞こえて、私は現場に急行した。水で足がとられて、進みづらいのがもどかしい。
「足首、つかまれた!」
一緒にプールに来た友達に、しょんぼりと話している被害者のまわりをさっと観察する。
夏のプールは人が多いから、周りにはたくさんの人がいる。少し離れたところで、また別の悲鳴があがった。
「ちょーっと、そこのお兄さん、お話聞かせてもらえますかー?」
私が次の現場に駆けつける前に、捜査本部で休んでいたはずの相方が容疑者に声をかけている。容疑者があわてて逃げる。水しぶきがあがった。プールの監視員たちも協力してくれるようだ。
「あ、こいつ最近不起訴になった体操服泥棒じゃん」
「また女児相手にこんなことして! いい歳して恥ずかしいと思わないんですか!」
こうして、市民プールでの幽霊騒動は変質者の逮捕で幕を下ろした。
けれど──あなたもプールで遊ぶときは気をつけてください。幽霊ではなく、変質者に足をつかまれているかもしれませんよ……。