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夏祭り  作者: イスコ
3/3

音が消える前に

祭りの終わりは、風の終わりだった。


町に満ちていた音が、少しずつ静まり返っていく。屋台の灯りが一つ、また一つと消え、提灯は風に揺れながら、まるで眠りに落ちるように光をやわらげていく。

星音の風も、次第に弱まり、最後の風鈴の音が夜空に吸い込まれていった。


「なんだか、夢みたいだったね」


リノアは、神社の階段に腰を下ろしながらつぶやいた。

隣には、同じように座るカイルがいる。二人の肩が、少しだけ触れていた。


「夢だったとしても、俺は忘れないよ」


「……うん、私も」


風が止まり、町が本当に静かになると、不思議な寂しさが胸に広がった。

あの賑やかで、あふれそうだった気持ちも、まるで潮が引くように落ち着いていく。

でも、それは冷たさではなく、あたたかい余韻だった。


「来年も、来てくれる?」


リノアがそう尋ねると、カイルはほんの少しだけ驚いた顔をしてから、笑った。


「……毎年来るって、決めたよ。君がここにいる限り」


「ずるい。そう言われたら、もうここから離れられないじゃない」


「それが狙いだよ」


リノアは苦笑しながら、指先で夜空をなぞった。

神社の境内に吊るされた風鈴が、最後の余韻のように、かすかに鳴った。

音はもう、風に乗ってどこか遠くへ行ったけれど、気持ちは胸の中に残っていた。


(あのとき、もし伝えなかったら……)

(私は、こんな夜を知らなかった)


告白は、奇跡なんかじゃない。

自分の中にある小さな決意を、そっと外に出すだけのこと。

それだけで、世界は少し、変わってくれる。


リノアはそっと立ち上がる。


「帰ろっか、カイル。風の鳴る方へ」


彼はうなずき、リノアの手を取った。

指先が触れあった瞬間、もう一度だけ、風鈴が鳴った気がした。


誰にも聞こえない、小さな音。

それはきっと、これから始まる二人のための——風の音だった。



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