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A Romantic Irony:女の子××ってそうだったので、生き方を改めることにした。(分割版)  作者: すけ
第三章

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第二十話 古峰晃誠という少年

「えー、各係と委員は今日の放課後このまま、割り当てられた特別教室でさっそく顔合わせを行うことになってるんで、忘れずお願いします。それでは先生――」


 相田京一はそう言って担任教師を促して自分の席に戻る。その途中でちらりと一番後ろの席で目立っている金髪のクラスメイト――古峰晃誠を見ると、頬杖をついてまたなにやらぼんやりと思案顔をしていた。


 相田にとって晃誠は友人と言えるほどのつきあいこそないものの、高校生活の中で忘れ難い存在として長く印象に残りそうな相手ではある。


 一年生の頃、入学式を終えてクラスにあの金髪頭を初めて見つけた時は呆れ、担任からクラス委員長に指名された時は勘弁して欲しいと思ったものだ。


 当人がそのように振る舞っているのだから当然といえば当然だが、相田にとって晃誠の第一印象は良くはなかった。怖いとは思わなかったが、あまり関わりたくないというのが正直なところだ。


 そんな調子で始まった高校生活。


 西東南高校では球技大会が年二回あるが、新クラスの親睦をさっそく深めようという話なのか、四月の末という少々急ぎのタイミングで一回目の大会がある。


 相田が晃誠に興味を持つようになったのは、去年の――入学間もないそれがきっかけだった。




 一年前のその日、バレーボールの会場に割り当てられた第一体育館で、相田は自分達の出番を終えて他のクラスの試合を観戦していた。

 体育館は二面に区切られ、二試合並行で進んでいく。


 西東南高校の球技大会は、該当種目に類する部活動の部員はその競技に参加不可というルールがあるため、中学以前の経験者が活躍するパターンが多い。


 とはいえもちろん大多数は素人であり、しかも新年度早々の開催ということで事前の練習なども顔合わせ程度の機会しかない。


 特にバレーボールはラリーを続けるにもそれなりの技術が全員に要求されるため、不慣れな素人同士の試合はとりあえず三タッチ以内に相手コートにボールを返すのがやっとになりがちだ。


 それでも運動神経上位の、体育の授業レベルでも上手い生徒だけで編成すれば試合らしい試合になっただろう。ただ、そうした男子生徒の多くはグラウンドでサッカーに参加していた。


 そのためかバレーボール組――主に男子――は、比較的ゆるい雰囲気だった。逆に、女子はこちらの方に経験者や『スポーツガチ勢』が集まりやすかったようで、男子側とは温度差がある傾向も見られたが。


 ジャンプサーブが決まればどよめきが上がり、調子に乗った生徒が粗いトスからスパイクを決めようとして自爆する。レシーブしたボールが場外へ跳ね返ればひやかされ、本人も照れ笑いで誤魔化す。


 当初は全体がそんな活況を呈していたが、だんだん雰囲気が変わってくるのを相田は感じていた。二年の参加者に、少々派手な数人の男女グループがいたのだが、彼らの野次がエスカレートしてきたのだ。


 ひやかす、からかうというのも相手を選び空気を読むセンスがいるもの。だが、彼らはそうした配慮はどこ吹く風といった様子である。


 とりわけ酷くなったのは一年女子の試合が始まった時だ。

 一人、目立って動きの悪い女子がいた。だいぶ背の低い、相田の知らない別クラスの女子だった。

 手足のこわばったギクシャクした動きで、必死に見上げたボールの下に入り、不格好なフォームでレシーブしようとするが空振りして体でボールを受け止める。


 件の野次グループからけたたましい笑い声が上がる。中心人物らしい、『赤みがかった黒髪』とでも表現するべきか、ダークレッドの髪色の二年生男子だ。「ひゃひゃひゃ」という、甲高く裏返った笑い声が耳障りだった。


 彼らはその女子生徒に集中して、コートの中に聞こえるようにはやし立て始める。「ロボット・ダンスじゃん」「創作ダンスなら優勝だった」「一人だけドッジボールやってんだけど」「だったら外野に退場させろよ」……。


(うちにもこんな奴らいるのか)


 相田は心中でため息をつく。


 そんな調子で試合が進めば彼らの野次も続き、そのうちに女子生徒は顔を真っ赤にして萎縮し、サーブの番が回ってくるとうつむいて固まってしまった。試合相手のメンバーすら何か気まずそうな痛ましい空気になっている。


「ねえ、これ動画とったらバズんじゃない?」


 今やこちらのコートで唯一盛り上がっているそのグループの女子がそんなことを言いだすと、『赤黒頭』がニヤニヤとスマホを取り出して構えた。


(おっ、ライン越えたぞ野郎)


 どこまで本気なのかはわからないが、自分の基準では見過ごせないレベルに入った。

 だが相田が注意の声をかけようと動く前に、他の男子生徒が『赤黒頭』の首根っこを掴んで足をかけ、体育館の床の上に引き倒した。手からこぼれたスマホが床の上を滑る。


「さっきから笑い声が癇に障んだよ、あんたさぁ」


 『赤黒頭』を見下ろしてそう言い放ったのは、もっと目立つ頭をした男子生徒――古峰晃誠だった。


「てめぇ――」

「ばぁか、立ってみろよ」


 倒れ込んだ『赤黒頭』が逆上して起き上がろうとするが、対する晃誠の動きはそれ以上に迅速で迷いがなかった。


 仰向けから身を起こそうと腕をつけばそれを足で蹴り払い、体をひねれば肩を蹴り飛ばして今度はうつ伏せに転がす。四つん這いになろうとしたところを両手ですくい上げるように再び仰向けにひっくり返し、晃誠は相手を立たせることなく完封した。


 体格と膂力もあるが、相田の目で見ても明らかに何か心得がありそうな身のこなしだ。


鴫沢(しぎさわ)!」

「いきなり何してやがんだ一年!」


 仲間の一人が床に転がる『赤黒頭』――鴫沢(なにがし)に駆け寄って助け起こし、男子がもう一人晃誠との間に入って睨みつけた。


「何って――ショート動画でバズりそうなブレイクダンスをさせてやったんじゃねえか」


 下級生のその態度に二年男子は激昂し、ドスの利いた声をあげる。


「一年坊主がふざけた真似すんじゃねえよ、皆が楽しんでんのにいきなりよ。空気読めねえのか?」


 晃誠も声と表情に険を滲ませ、


「女の子と遊ぶなら楽しいかもしれねえけどよ、女の子で遊ぶのは見てて面白いこっちゃねえんだわ」


 そんな、見ている相田が口笛を吹きたくなるような啖呵を切って、気色ばむ鴫沢の仲間達と対峙した。

 場の視線が集まる。隣のコートも異変に気が付いたのか試合が止まり、ざわめきながらこちらをうかがい始めている。


 超然とした佇まいの晃誠と比べると、鴫沢グループは衆目を気にしつつ、一年生に虚仮にされたままでは面目が立たないという気持ちで葛藤があるのだろう。押すか退くか逡巡している様子だ。

 彼らに向けられた視線が妙に白けた冷たいものだったのも戸惑いの一因だったのかもしれない。


「こらぁ! なにやってんだお前ら!」


 運営の体育委員と共に片隅に陣取っていた教師達が駆け寄ってきて、ほっとした様子を見せたのは鴫沢達の方だった。


「知らねーっすよ。そいつがいきなり鴫沢に掴みかかってきたんっすよ」

「言い訳は後だ、お前ら全員指導室に来い!」


 鴫沢グループと晃誠が有無を言わさず連行されるのを見て、相田はすぐに担任の安藤を探すことにした。




 目撃者を中心に、この事件の経緯を知った生徒達の反応は、大きく分ければ二つになる。

 『なんであろうと暴力は擁護できない』と『正直スカっとした』。相田はどちらかというと後者に属した。あの時、自分が動くのも遅かったという負い目のような気持ちもある。


 ともあれ、晃誠に関心を抱いた相田は、五月の一年生校外学習――要するに遠足だ――の班に晃誠を誘うことにした。


(どうせ余り者になるだろうから、委員長の俺が声をかけるのも自然な流れだろう)


 だが、けっきょく晃誠は校外学習に参加できなかった。


 五月に入ってからも晃誠は例の鴫沢達をはじめとする数人程度の上級生男子と何度か衝突し、最終的に暴力沙汰を起こして謹慎処分を受けた。それが校外学習と重なったのである。


 上級生の側が数を恃んで一方的に挑発を繰り返してふっかけたのと、大怪我もなく校内で完結していたことで、学校側は騒ぎを大きくしない方向で動いた。結果的に晃誠は停学ではなく訓告と三日間の謹慎で済んだ。

 とはいえ、これで晃誠に対する周囲の評価は悪い方に固まってしまったところはある。




 相田はその後も晃誠を一年間見てきた。

 頼まれた仕事はむっつり無愛想な顔でもちゃんとやる。

 体育で運動能力や体力に劣る相手と組むことになっても、イラつく様子もなく根気よくつきあう――相手が萎縮してうまく動けないのは、その晃誠の見た目や無愛想さといった問題もあるのだが。

 成績も多少の偏りはあるがそれなりのものらしい。


 ただ、無理に荒んだ振る舞いを演出して、他人に一定以上踏み込まれるのを嫌がっているだけに見えた。


(難儀な奴)


 この春まで、相田による晃誠評はこんなところだった。

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