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A Romantic Irony:女の子××ってそうだったので、生き方を改めることにした。(分割版)  作者: すけ
第二章

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第十二話 対決

 男のアパートは駅から魅恋の足で徒歩十分少々。マンションを背景に住宅が増えてくるあたりだ。

 月極駐車場の裏手にある二階建て鉄筋アパート。


 魅恋がその傍の駐輪場を覗くと、見覚えのあるバイクがあった。


「あちゃー……いるっぽい」

「そういや何やってる男か聞いてなかったな」


 右のてのひらで額を覆う魅恋に、晃誠が今さらな疑問をぶつけてきた。


「バイト先で声かけてきた大学生。今年ハタチになるんだったかな。名前はヨウジね」

「名前はどうでもいいけど、そのヨウジパイセンは女子高生相手に何やってんだかさぁ。……部屋は?」

「一階の端、こっち」


 魅恋は晃誠と連れ立ってドアの前に立ち、一度軽く深呼吸をしてからインターホンを押す。

 念のため、スマホの録音アプリもオンにしてポケットにしまう。晃誠という他人を巻き込んでしまっている以上、慎重になってなりすぎるということはない。


 ばたばたと足音が聞こえてきて、男の「はい、どちら様?」という声とともにドアが開いた。


 ドアの隙間から顔を出したのは面長の男。ヘアスタイルは無造作なツーブロックベリーショートで、清潔感あるスポーツマン風の印象である。じっさい中学高校と陸上で短距離をやっていたらしい。


 男――ヨウジは魅恋を見てドアを大きく開けた。


「……魅恋かよ。メッセも通話も無視して何やってんの? てか勝手に入りゃいいじゃん」


 魅恋は大きく息を吸い、


「もうあんたの部屋に入る気ないから、あたしの荷物だけ持ってきてくれる?」


 と、ことさら固い声で告げてやる。


「――は? なに言ってんの?」

「別れるってこと。荷物だけ持ってきて」

「いきなりなんだよ。キレて人のこと蹴っ飛ばしておいてさあ。謝りもせずに喧嘩腰でそれはなくない? そうやって子供だから俺がいつもいつも注意してやってるんだよね? 俺だから面倒見てやってるけど、高校生じゃそろそろそういうのは通用しないから反省したほうがいいよ」


 まともに取り合っていられない、再び繰り返す。


「先に殴ったのあんただから。それより荷物持ってきてもらえる?」

「なあ――」


 ヨウジはサンダルをつっかけて踏みだし、そこでようやく半ばドアの陰になっていた晃誠の存在に気付いたようだった。一瞬ぎょっとして晃誠を見上げ、魅恋に視線を戻す。

 ヨウジも別に身長が低いわけではないが、晃誠とは十センチばかりの差がある。幅と厚みも相応に。


「なんなのコイツ。まさかもう新しい男ってことじゃないよね、それって浮気じゃないの?」

「立会人。あんたが大騒ぎしないように第三者に頼んだことを察してほしい。で、荷物なんだけどさ」


 ヨウジはため息をつき、芝居がかった様子で軽く手を広げる。魅恋は後ろに下がりたくなる気持ちをぐっとこらえた。


「あのさあ。別れ話ってさ、こうやって関係ない奴呼んでプレッシャーかけてやるもんじゃないよね。相手のある話で、片方を悪者にして追い詰めるのはフェアで誠実なやり方じゃないし、非常識だと思わないの? 昨日のことで俺を悪者にするつもりなら、誰がそうさせたのかって原因や責任をちゃんと考えたことある?」

「うん、問題は昨日に始まったことじゃないし、暴力まで振るってきたような非常識な男が相手だからそこは多少はね? それで荷物の話だけど――」


 ここでヨウジは魅恋を無視して晃誠に矛先を向けてくる。


「その格好、君も高校生? どうせ魅恋に俺の悪口を一方的に吹き込まれてその気になっちゃったんだろうけど、何で他人のことにしゃしゃり出て来てるわけ? そんな金髪の頭してイキってるガキには常識とかねえからわかんねえのかな」


 話を振られて、晃誠が一歩動いて魅恋の前に出る。止める間もなくヨウジの顔を上から()めつけ、口を開いた。


「――あんたさ」


 魅恋も一瞬ビクッとするくらい、低く冷えた声に、怯えたように一瞬ヨウジの目が泳ぐ。


「何だよ……」

「思ったより女殴ってそうなツラしてなくない?」

『は?』


 期せずして魅恋とヨウジの声が重なった。


「これなら俺の方が女殴ってそうじゃない?」


 晃誠は右手の人差し指と親指で顎を撫でつけながら魅恋を振り返り、大真面目な顔でそう言ってくる。


「なんの勝負してんの?」

「いやなんか実際に女殴ってるという男を見たら対抗心が湧いてきた。あと場が和むかと思って」

「捨てちゃってよそんな対抗心! 場を和ませる要素、どこ?」


 少なくとも毒気を抜かれたことは確かではあったが。

 息をついて気を取り直す。後ろには下がらずに魅恋のすぐ隣に立った晃誠の存在感を受け、力んでいた体から固さも抜けていく。


 その後もヨウジはのらりくらりと嫌味や皮肉を続けたが、こちらを非難しながらも視線はちらちらと晃誠の様子をうかがっている。

 第三者の目を意識して、キレることはもちろん、泣き落としもできずにいる姿は有り体に言って滑稽で、拍子抜けだった。


 暴力への閾値が低いからといって、喧嘩にも慣れているとは限らない。この場にいるのが、別に晃誠のような少しばかり強面の男子じゃなくったって、この男は何もできなかっただろう。


(ああ、なんだか急にこいつが小者に見えてきたわ……少しスッキリしたかも)


 頑として相手をせずにいるとヨウジはついに観念し、しぶしぶ奥に引っ込んで、のろくさと勿体つけるように魅恋のバッグと上着を持ってきた。


「勘違いすんなよ。お前みたいな女、俺がいなきゃなんにもできないのが、そこの金髪くんに変わるだけだから」

「じゃあね、さよなら」


 荷物と部屋の鍵を交換してそう言うと、魅恋は何の余韻もなく踵を返し、晃誠が後に続く。

 ある程度の距離を置いてから、背中にヨウジの罵声が飛んでくる。


「このブス! 付き合ってやったらつけあがりやがって、どうせもう誰もお前みたいなクソビッチ相手にしねーよ!」

「……勝ったな。お疲れさん」


 投げかけられた捨て台詞から庇うように、すぐ後ろを歩いている晃誠が言う。

 魅恋は一歩横にずれて足を止め、晃誠の隣に移動すると、その肘のあたりに飛びつくように自分の腕を絡めた。

 緊張から解放されてふわふわする体を、腕にぶら下がるようにして預けると、晃誠は驚いた様子で若干のけぞる。


「え、何? どうした?」

「演技演技。ひとりぼっちになったところに見せつけてやろうと思って」


 そう言って魅恋は大きく息を吐き出した。

 晃誠はなるほどと頷いて、そこで「あっ」と何かに気付いたように声をあげてこちらを見た。


「なんか俺、今度は女寝取ってそうじゃない?」

「いや意味わかんない」

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