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A Romantic Irony:女の子××ってそうだったので、生き方を改めることにした。(分割版)  作者: すけ
第二章

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第十一話 姫萩魅恋

 姫萩魅恋が世間で言う夜遊びを始めたのは、中学二年の夏休みの頃のことになる。


 まずきっかけの元を辿れば、シングルマザーの母が知り合いの経営するヘアサロンを手伝いに東京へ行くことになったことだろう。


 小学校卒業とタイミングが重なった魅恋は、思い切って母についていくことにした。四つ上の姉、佳恋(かれん)は地元の高校に通い続けることを選択して実家に残ったので、母を一人にしたくなかったというのもある。


 東京では忙しい母とのコミュニケーションは減り、いつしか母娘の賃貸マンションには母より少し若い男が恋人として出入りするようになった。

 発育の早かった魅恋はその男の視線に嫌悪感をおぼえ、逃げ出して遅くまで駅前などを徘徊するようになったのが始まりだ。


 そのうち男は母に暴言や暴力を浴びせるようになり、余計に魅恋は外で過ごす時間が増えた。

 ――後に聞いたところによると、離婚した魅恋の父も似たような傾向の男であったらしい。


 母がなぜそんな男とつきあっているのかさっぱり理解できなかったが、皮肉なことに逃げた先で魅恋がつきあった男も、いつしか魅恋に心ない当てこすりをぶつけ、腹が立って反論すれば手をあげてくるようになった。

 そうなれば魅恋も冷めて男から離れるのだが、相手は泣き落としをしてすがるか、それが効かなければ怒って追いかけてくる。


 そういう時には、新しく他の男を作って盾にすることも覚えたが、これはあまり上策とはいえなかった。騒ぎが大きくなることもあったし、困ったことに今度はその男が魅恋をひっぱたいたり他の友人に会わないように脅迫したりし始めるのだ。


 一年ほどそんな生活が続いたある日、魅恋は酒に酔っていた母の恋人から逃げ損ねてしまう。抵抗したが殴られ、組み敷かれたところで母が帰ってきた。

 そして母のあげた絶叫がこの生活に幕を下ろす合図になった。


 『すぐにまたちゃんとしてくれると信じてたのに……』


 母娘で話し合って地元に戻ることを決めた際、男に関して一度だけ言及した時の母の言葉がそれだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ラーメン屋で魅恋は結局、晃誠に翌日の約束を取り付けた。荷物の回収についてきてもらいたかったからだ。いざとなるとやはり恐怖はある。


(ま、腰抜かしてたのはもう知られちゃってるわけだし……)


 昨年、三年ぶりに戻ってきた地元だが、今の自分は大分変わって見られるのではないかという自問が頭を離れず、小学校の頃の友人達とは連絡を交わしていない。


 スマホを買ってもらったのは引っ越すときで、小学校で特別親しかった友人達は登録していた。ただ、家で起こった悩みは相談しづらく、連絡はいつしか途絶えがちになっていった。


 戻ってきてからの交友の中で一番頼れそうなのが、同級生とはいえ昨日連絡先を交換したばかりの男子という現実にうちひしがられる。


 学校では特定のグループには所属しておらず、特別親しい相手は作れていない。

 バイト先のコーヒーチェーンの仲間も基本的に女子だ。グループチャットで話したり、たまにカラオケや買い物に行く程度のことはあっても、あまりプライベートに踏み込んでいない。

 周囲に思われているほどいもしない男の知り合いも、こうしたトラブルで頼るには若干不安が残る。


 それ自体が悪いわけではないものの、妙な好意や下心なしにフラットな感情で接してくれる相手の方がこういう時は信頼できると思っている。


 女の前でいい格好しようという意識が強い男は見ていて可愛いかもしれないが、トラブルを増幅することはあっても解決する能力には欠けていたりする。そんな男に頼って後悔した経験もないではない、その時は頼らざるを得なかったわけだが。


 その点で言えば、古峰晃誠という男子は不思議と問題がなさそうな相手に思えた。単純に心配はしてくれているようだが、それ以上の余計な感情的入れ込みはあまりないようで、こちらも身構えずに自然体で済む。




「おーい、こっちー」


 杢グレーのスクールカーディガンを羽織った晃誠が改札を出てくるところを見つけ、魅恋は手をあげて呼びかけた。

 学校から一緒でも良かったのかもしれないが、なんとなく気を遣って西東駅で落ち合うことにしたのだ。


歩みを早めて魅恋の元へやってきた晃誠は、あくびを噛み殺し、目をしばたたかせた。


「待たせちまったか」

「ううん、大丈夫。――昨日の今日でほんとにごめん、眠い?」


 下から覗き込むと、晃誠は両手で自分の頬を叩き、顔面をごしごしと擦った。


「昨夜はちょっと調べ物と考え事があってな。手伝うのは俺が言い出したことだし、素直に人に頼れるのは別に悪いことじゃないだろ。そっちこそ眠れたのか」

「ありがと。ちょっと興奮して寝つき悪かったけど、それも今日までだよ。もしヤツがいたらあたしが自分で相手するから、そこにいてくれるだけでいいからね」

「あいよ。お前がそう言うなら、相手が暴れたりしない限りは俺の出る幕じゃない……。というか、そうなったら取り押さえていいかげん警察呼ぶからな。警察に知り合いもいるし」


 晃誠の言葉に、魅恋もそこには同意して頷いておく。


「平気平気。あの手の輩はどんだけキレ散らかして見せても姑息な計算ずくで、第三者が見張ってるところで手を上げられるような度胸ある奴じゃないって。それ以外のことだったら効かない方なんだ、あたし」

「怖けりゃ手でも握っててやろうか」

「ばーか」


 笑って、魅恋は晃誠の胸を拳で小突いた。

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