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A Romantic Irony:女の子××ってそうだったので、生き方を改めることにした。(分割版)  作者: すけ
第二章

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第十話 お節介

「しかしそんな目にあってるのに、よくもまあ俺についてきたな」

「さすがに出会いばなから悪い男だったら、いくらなんでも逃げるけど……。別にあんただって、いきなり今日ここであたしに何かするつもりはないでしょ」

「いや、いつどこでだって何かするつもりなんかないが……」


 さすがに心外すぎて晃誠は渋面をつくる。


「あとは、学校でのイメージと違うみたいだったから好奇心かな。わりと本気で心配してくれたでしょ」

「お互い様だ。俺もついさっきまでお前はもっと気難しいかキツい性格してると思ってた」

「なんでよ、あたしわりとどこでも愛想よくしてる方なんだけど?」

「だって去年の入学式が入学式だったし……」

「やめて、あれは忘れてよ!」


 晃誠の思い出話に、魅恋は両手で顔を覆って抗議の声を上げる。


 西東南高校では、昨年の入学式に登場したとある新入生女子に、多くの教師と生徒がざわめきを禁じ得なかった。


 限界近くまでブリーチした、陽の光に透けて輝く淡いイエローの髪の毛をなびかせ、グリッターギラギラ盛りの目を中心に、力強いメイク。ブラウスの胸元はネクタイもリボンもなくはだけ、ジャケットも着崩している。短いスカートで椅子に座る姿勢もだらしない。


 一人だけTPOを読めていない女生徒の姿に、みんな揃ってドン引きしたのである。

 その女生徒こそ誰あろう、姫萩魅恋、新一年生の姿であった。


「東京じゃどうかわからんけど、こっちじゃうち程度の高校でも、入学式初日からあれはないんだわ」

「うっうー……」


 忘れろと叫ぶ過去をほじくられ、魅恋が呻いた。


「あんただってお仲間だったでしょ?」

「俺はわかっててやってたし……」


 そう言いつつも晃誠は目をそらす。


 西東南高校にも制服の自由な解釈、節度あるレベルのメイクにヘアカラー、ピアスなどを楽しむ層は当然いる。

 ただし彼・彼女らも朝礼や式典の時などには言われずとも胸元もきちんと締め、制服をかっちり着こなして整然とした態度で出席する。時と場所を考えた身なりを選択し、そもそも学校の内と外、制服と私服でも振る舞いをまた使い分けていた。


 限度というものを常に考え、自律ができるから自由を認められているという自覚があるからだ。ゆえに、外れ者を見て「それでは我も、我も」と考えるような生徒はまずいない。

 モラルが一定の水準以上の集団では、腐ったみかんは伝染するよりも距離を置かれる傾向にあった。


 つまり、姫萩魅恋は東京からの出戻り高校入学初日にデビューで躓き、一年経った今でもどこか浮いた存在なのである。

 今でこそ彼女のスタイルは服装も化粧もだいぶ大人しめになり、そこまで目立つ方でもないのだが、第一印象が良くなかった。


「あんたよりは、あんたよりはマシだから! あんたなんか学校でぼっちだって知ってんだからね!?」

「俺は学校の外でだってろくすっぽ人付き合いはないぞ」

「思ってたよりひどい!」


 テーブルを掌でぱしぱし叩き、魅恋は晃誠に噛みついてくる。

 晃誠はどんぶりをかかえてラーメンスープを飲み、聞き流した。


「で、話は戻るが、結局そのモラハラ束縛DVフルコンボ彼氏とはどうするつもりなんだ? 俺が聞くことじゃないかもしれねえけど。警察とか?」


 ゲームのシナリオで言うのなら、まだ例の男とは関わってはいないようだ。むしろこの件が例の男と関わることに繋がっていったりするのではないだろうか。


 なんにせよ、他人事として考えると暴力事件であればまず警察事案ではある。警察署や交番で知り合いの警察官を呼んでもらい、紹介したっていい。


「ん~……経験上、頭が冷えたら下手に出てきそうな気もするけど……この際もう切るよ。吐き出したらなんだか一層あいつのことどうでもよくなってきたし。わりと冷めやすいのかな、あたしって」

「そんな扱い受けて冷めないのも、客観的にはどうかって話だが……荷物とかどうすんだ」


 言われて、魅恋は腰を軽く上げてズボンのポケットの中を探る仕草をした。


「アパートの合鍵あるから大丈夫だと思う。留守中を狙って取りに行って、鍵はドアの郵便受けに放り込む。そしてアプリで訣別のメッセージを送ったら速攻登録削除して……完全縁切りだよ!」


 威勢のいい魅恋の姿を眺め、少し考えてから晃誠はスマホを取り出す。


「連絡先の交換いいか? 嫌ならそっちに俺の番号いれておくだけでいい。トラブルでもあったらすぐに呼んでくれ」

「……話してる感じ、あんた別にあたしにそんな興味ないよね。なんでそこまですんの?」


 急にぐいぐい行きすぎたのか、魅恋が怪訝そうな上目遣いで見つめてくる。晃誠は「んー」と目を細めて思案する。

 ゲームのシナリオに沿うのであれば、このままいくと魅恋はトラブル解決に、少々どころでなくまずい男と関わり合いになるのかもしれないわけだが――。


(『記憶』のことなんて言えるわけもないしな……。思わず前のめりになっちまったが、そもそも俺がこいつに関わらなきゃいけないのかっていうのもある)


 ふと、さきほど路上で支えた時に感じた魅恋の体重を思い出す。――あの小さく震えていた華奢な手を、このままその辺に放り出す気には、今さらなれない。『記憶』のことがあればなおさらだ。

 仕方ねえよなと目を開く。


「乗りかかった船だし、なんか放っておいたら大事になりそうで気が咎める」

「あたしこういうのもう慣れてるし、そんな心配せずに放っといてくれて大丈夫だよ?」

「……そういうのは慣れてるっていわねえ、麻痺してるっていうんだ。男に(つら)叩かれて逃げてきたとか、大丈夫なところなんか一つもない」

「うっ――」


 魅恋は観念したように画面のひび割れたスマホをとって顔の前に持ってくると、声の調子を明るく変える。


「まあ、あんたは下心とかあんまなさそうだし? 純粋なご厚意ならありがたく受け取っておきます。こういう時、他の男に頼るとけっきょく恩の押し貸しみたいなことになって、ズルズルと抜けられなくなったりするのよねー」

「どういう人生送ってきたんだよ。――ちなみにほとんどやったことないから、このアプリのID交換とか友だち登録ってよくわからないんだが」


 晃誠のメッセージアプリの登録者は家族とバイト先の関係者を除けば、疎遠になっている中学の同級生が数人程度だ。それも登録作業はだいたい相手にやってもらったのである。


「あんたはあんたで、今時その生き方は本当に大丈夫なの……?」


 結局テーブルの中央にスマホを持ち寄り、晃誠は魅恋に教わりながら登録作業を行う。


 そこでふと気がつく。


(考えてみたらこれ、俺が例の男の役どころに収まりつつあるのでは……?)

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