読書好きの王子様
やはりバカに人生を預けるのは心元ない。そこで私はクレバー王国のスマート王子を次のターゲットに決めた。とても頭が良くて真面目な王子様で有名だった。
スマート王子は読書が好きとの情報を入手したので私は本を読み漁った。そして図書館に王子様がお忍びで訪れるとの情報を入手し、毎日図書館に通った。
そしてついにスマート王子が図書館にやってきた。
私は何度も他の人で練習した通り、「タイミングを合わせて同じ本を手に取るときに手が触れて見つめ合う」作戦を決行した。
このタイミングを合わせるのは並大抵のことではない。何度も練習を繰り返し、大体30人目で自然に同じ本を取ることができるようになった。
早すぎると「こいつ何横取りしようとしたな。」という目で見られ、遅すぎると「なんでもありません」みたいな感じで上げた手で頭を掻いたりして、ごまかさなければならない。
恋愛小説にはよく出てくるお決まりのパターンだが、実際にタイミングを合わせるのはとても難しい。相当の練習が必要だ。しかもそんなに他人と近づいたら、どちらかが気づいて離れるだろう。この出会いパターンはどちらかが極力自然になるように相当練習しているのだと思う。
相当の練習の成果が功を奏し、本番ではこれ以上ない程のタイミングで本を取ることができた。王子と手が触れ合い、最後に見つめ合い、私たちは恋に落ちた。
デートはいつも図書館か、お城の図書室だった。
早朝から朝食まで読書をし、朝食後に昼食まで読書をし、昼食後に夕食まで読書をした。たまに残業、ではなく王子の読書の切りが悪い時には夕食後も読書をした。
ある時本を読んでいる最中に私は居眠りをしてしまった。その本は王子一押しの1冊だった。
「マリア、その本がそんなに面白くないのか。あっ、よだれがついている。君の行いは本への冒涜だ。本に謝れ!」
「申し訳ございません。申し訳ございません。申し訳ございません。」
私は本に何度も謝った。
この生活を1か月続けた結果、私は頭が良くなったような気がしたが、目は確実に悪くなった。そして運動不足で少し太ったし、精神的にも病んできていた。
ある時、私は突然活字を見ると蕁麻疹ができるようになった。そしてもうこの王子のそばには居られないと考え、なにも告げずにこの国を去った。