裸の王子様
パス王子との結婚は失敗に終わった。私の心はすっかり病んでしまったので、私は優しさを強く求めていた。するとカインド王国にとても優しい王子様がいるとの情報を入手したので次のターゲットはカインド国のスイート王子にした。
恋愛バイブルを読む気になれなかったので、次の作戦は惚れ薬を作って王子を落とすことにした。何度も試作を繰り返し、町の男の人に何度か試してみたが効果はイマイチだった。でもマリアは疲れたのでもうこれでいいやと投げやりにスイート王子に試してみることにした。
スイート王子はとても優しくて思いやりがあるが、人をすぐに信用してしまう性格だった。そしてバカだった。
私はスイート王子が来るのを見計らって惚れ薬を染み込ませたハンカチを王子の前に落とした。当然親切な王子はそれを拾ってマリアに声をかけ、ハンカチを渡した。
その時なぜかスイート王子はマリアに恋をした。惚れ薬が効いたのか、一目惚れなのかは定かではないがいとも簡単に私はスイート王子と付き合うことができた。
スイート王子は噂通りとても優しかった。気配りが素晴らしく、私が欲しがるものは何でも買ってくれたし、おいしいものもいっぱい食べさせてくれた。
私はパス王子のせいで病んでいた心が回復していくのを実感し、更にお姫様さながらの生活に大満足だった。
結婚の話も進んでいたその時、事件は起きた。
ある商人がスイート王子に服の仕立てに使う布を持ってきた。それは布というより透明のビニールのようなものだった。
「この布は大変珍しいものでして、心の綺麗な人が見るとこの世のものとは思えないほどの素晴らしい色に見えるのです。」
何とも胡散臭い、そしてどこかで聞いたことのある話である。
しかし、あろうことか人のいい素直な王子はその話を信じでしまった。
王子は仕立て屋にその布で自分の服を作らせた。
「マリア、どう?似合ってる?」
小太りの男が裸に変なビニールをまとっている滑稽な姿だった。
「王子様、それはビニールですよ。あなたはあの商人に騙されているのです。」
「そんなことないよ。これはこの世のものとは思えない素晴らしい布だ。マリアの心が綺麗ではないから見えないだけだよ。」
王子は完全に洗脳されていた。
「結婚式のウエディングドレスはこの布で作らせるから。」
えー――ちょっと待って、2人でこんな透明のビニールを着て人前に出たらただの変態カプルじゃないの。そんな醜態をさらすなんて絶対嫌だ。結婚式には多くの国民も集まるし、私の家族も来る。親は泣き、兄弟たちからは馬鹿にされるに決まっている。
さらに他の服もパジャマも全てこの布で作られたら私は一生人前に裸で出ないといけないではないか。
私は不安で震えた。
私は何度も王子が騙されていることを説明したが、洗脳されている人を説得するのは並大抵のことではない。
この先もこのようなことは起こるだろう。変な宗教にはまったり、犯罪まがいのことに巻き込まれたりするかもしれない。
私は別れを決意した。お母さんが倒れたから実家に暫く戻るとうそをついてカインド王国を出た。