表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/40

6話

 あれから数日。

 アティアは、食事、生理現象、身体の清め以外は、一睡もせずに祈り続けていた。


 公爵をはじめ、従者は皆、これではアティアの身がもたないと、口々に心配する声を吐露した。


 その一方で、ヒエムスには変化が起こっていた。

 雪が降らなくなったのだ。

 草木もないこの不毛の地に、初めて花が咲いた。


 それは、聖楼の回りに次々と色とりどりの草花が咲き始めた。

 それを、鉱山に働きに出かける鉱夫が見止め、慌てて城下に戻って触れ回った。

 城下に知れ渡ると、多くの人々が次々と聖楼に集まってきた。


 ヒエムスに生まれ育った者は、貿易を担う行商人以外、外国を知らない。

 だから、殆どの者が本以外では、木々や草花を実際に見た事がないのだ。

 不思議そうに、聖楼の周囲を見回す人々は、さらに目を疑った。


 城下から少し離れた辺りに木が突然生えてきたのだ。

 子供たちが、その木へ走っていく。

 子供たちが駆け寄ると、ぽつんと一つ実がなった。


 大きな子供に小さな子供が肩車され、その実をもぎ取る。

 そして、皆で匂いを嗅いだ。

 

「すごーい、甘い香りがするー」

「う、うまそうだな」

「食べたいー」


 そこへ大人たちが駆け寄ってきた。

 食べてはいけない。毒でもあったらどうするのか。

 そう言って取り上げようとした時に、手に持っていた子供が噛り付いてしまった。


「何をしているの! 吐き出しなさい」


 子供は目玉が飛び出るほどに驚いたかと思うと、満面の笑みで叫んだ。


「うんめーーーーー!」


 大人たちは、毒がある可能性を排除できずに、駄目だと子供たちをしかりつけた。

 がやがやと、ああだこうだ、ああでもないこうでもないと、取り留めも無い話をしている。

 

 そこへ、公爵がやってきた。

 騒ぎになっていては、アティアの祈りの集中に支障が出ると思ったからだろう。

 この木は、前に住んでいた国には良く生えていて、年中たわわに実るのものだ。

 身体に有害はなく、いろんな料理に使われるほどメジャーな果物だと話す。

 しかし、やはりそう言われただけでは、信用が出来ないのだろう。

 それを見た公爵は微笑みながら。


「では一つ」 


 そう言ってもぎ取り、食べて見せた。

 良く熟し、甘くて美味しいと言って聞かせた。

 もし、信用できないのなら数日様子を見てみると良いと、もし自分に何かあればそれは毒だったのだろうと、笑った。


 そうしているうちに、あちらこちらに次々と違う木が生えだして、いろいろな実をつけ始めた。

 人々は、驚きながら騒ぐ。

 中には、魔物の仕業ではないかと、疑う者も出て来た。

 人は知らないものに対して、不安があるものだ。


「あ、ああ、ごほん……皆、案ずることはない。一つひとつ、私が説明しよう。時間のあるものは付いてきたまえ」


 そう言って、次の木のもとへ歩きだした。

 無邪気な子供たちが公爵を抜いて、新しい木の下で好奇心をむき出しに笑っている。

 次第に、大人たちもぞろぞろと列をなした。


 一通りの説明が済むと、大人たちの中にも納得してくれた者が多かった。

 説明して回った木の中には、この国の人々でも食べた事のある果物もあったからだ。


 公爵は、預言めいた事を語り出す。


「これから、この地は穏やかな気候となり、木材用の木々も多く生え始めるだろう。野菜、根菜、山菜なども決まった場所で取れるようになっていく。動物たちも住み着き美味しいお肉も食べられるようになる。鉱石を売ったお金は食材や生活必需品に今まで当ててきだろうが、これからはそのまま君たちの賃金になるよ」


 聞いていた皆は、顔を見合わせ半信半疑と言ったところだ。

 公爵は、優しく微笑みながら、皆の様子を窺っている。


「おじちゃん、お肉いっぱい食べられる?」

「そうだね、まずは狩りをしなければならないからね。その訓練は必要だろうね。でも、やがてはお店がたくさん建ち並ぶと思うよ」

「ホント!?」

「ああ、本当だとも」


 公爵は、温かな手で子供の頭を撫でると、皆に注意事項があると言った。


「君たちは、あれを訝しんでいるようだが、教会のようなものなのだよ。そして、そこには私の娘が日々祈りを捧げておるのだ。出来れば騒がず邪魔をしないでやってほしい」


 そう言うと、わからない事があれば尋ねてくるようにと、家を教えて去って行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ