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20話

 ヒーロスは、王との謁見を済ませると、その日のうちに馬でエクエスの居る町へ向かった。

 もちろん、背にアティアを乗せて。

 急ぐため、横に腰かけられては危険だと、男装させ馬にまたがらせた。

 

 馬車ではなく、馬で駆ければ数週間で着く。

 行く先々の村を一つ飛ばしに、祈りを捧げながら進んだ。


「アティア、愛の逃避行みたいだね」 

「何を言ってるんですか、もう。いつからそんなオマセになったんです?」

「小さいころからたくさん読書してきたからね。それに宮城にいると聞かなくてもいい話も聞こえて来るもんだよー」 

「そうでございますか」

「そうでございますよー」


 二人は、どんどん親密になっているように見える。

 

 一方で、公爵とセバスチャンは王都に残った。

 実は、王から叙爵の打診を受けたが、丁重に固辞し、今は相談所のような事をしているのだ。

 

 久しぶりに公爵が王都に戻ったことを聞きつけた民衆が、我も我もと家に押しかけ、相談事を持ちかけてきたのだった。

 公爵は、アティア並みに王都で人気者となっていた。


 公爵だった者とは思えない柔らかい物腰。

 博識で聞けば何でも教えてくれた。

 特に商売人、ヒエムスに来て直ぐの頃に、食事を分け与えてもらった者からは絶大な人気だ。


 とにかく商売人が、相談に来ない日がない。

 交易で何を買ってくるべきか。

 店で何を売ればよいか。

 料理の試食とアドバイス。

 歓楽街での見世物。

 お忍びで、重臣もやって来る。

 外交内政など、いろんな分野の政策相談。

 教育機関の設置も、公爵の案だった。


 それを、セバスチャンが、お茶を出したり約束の時間の取り決めなど、スケジュールの管理。仕事し過ぎないように調整するなどの雑務をしている。

 今日も、次々と、約束の時間に人が訪ねて来ていた。


 もう一方では、エクエスは週に一度、兵士を招集し、日々の鍛錬を怠ってないか厳しくチェックし、素早い陣形の変形などの訓練を行っている。

 また、アズバルドと共に、領主との会合を何度も持ち、やがて来るアノイトスの国王軍の撃退についての作戦を立てていた。

 

 始めは、ギクシャクしていたが、元は辺境伯領の出身だと話すと、辺境伯が心を許し始めた。

 続いてアズバルドが、ポロボロ領の出身者が兵士に大勢いるなどと語り、会合の度に懐かしき故郷の話で盛り上がるようになっていった。

 元領主の領地出身者を連れて来て、思い出話に花が咲き、現状を話しては共に嘆いた。


 そんな彼らの居る町やその周辺には、次々とアノイトスからやって来る移住者。

 そして、王を見限った貴族たちが集まって来ていた。

 中には、いつも始めに王に話しかけていた、一番の重臣だった男さえいた。

 ややもすると、もう宮城には臣下がいないのではないだろうか、と思われた。


――数ヶ月前。

 さらにもう一方では……。


 城下は、一面銀景色。

 城内は、寒く、下女の姿はない。

 代わりに兵士が、下女がするような仕事をしていた。

 

 謁見の間。

 数十人は居た貴族の臣下たちが、今は数人。

 その玉座で片目が飛び出て、髪はぐしゃぐしゃに乱れ、下半身をむき出しにした男が座っていた。


 そこへ。

 扉が開く。


「ナーマ! お前! 二ヶ月以上どこに行っていた!」

「あら、ご機嫌ななめさん。これでもひと月半かかる距離を数週間で帰って来ましたのに……」

「さっさと来い!!」

「随分と、寂しくなられましたわね。ここにいらっしゃるのは、私がお相手した方々だけとは……」

「いいから、早くしろ!!」 


 ナーマは、優雅に妖艶に、片手を腰に当てながら、ゆっくりとキャットウォーク。

 ようやくナーマが、玉座の男の前まで来ると、プププートは腕を引っ張り、玉座の椅子に投げ捨てるように倒れ込ませ、スカートを捲し上げた。


 謁見の間には少なくなったとはいえ、人がいる。

 しかし、そんな事は、この男には関係がないようだ。


「やだ、強引……嫌いじゃな……あん……」


 プププートは、前戯もなしにいきり立ったモノを突っ込み、激しく腰を打ち付けていく。

 数度果てるまで、行為は続いた。

 実は、数週間前に突如、宮城から女という女が消えたのだ。

 プププートは怒り狂い、城下の女の召し上げを命じた。


 しかし、城下にはプププートが指定した年齢の女は誰も居なかった。

 少しの年増さえいない。

 居るのは、余命いくばくもないような、老人ばかり。


 数週間、情事が出来ないだけで、狂乱状態となっていた。

 さきほど、ナーマが姿を現すまで、玉座で自慰に耽るという醜態をさらしていたのだ。


「はぁはぁ……はぁ……」

「あぁら、もう終いですの?」


 ナーマは、少し高揚した顔をしながら、汚れた服を魔法だろうか、綺麗な服に一瞬で替える。

 プププートは、満足気に天を眺めながら、下半身をそのままに玉座に座っている。


「女を忘れるところだったわ……」

「まあまあ、うふふ」

「しかし、どいつもこいつも、何故俺を敬わない……ゴミ共め。まあ、いい。ヒーロスが何か情報を持ってくれば、こんな気候の変化などすぐ終わるだろう」

「殿下を高く買っておいでなのですわね」

「ああ、あいつは中々使えると見た」

「ええ、私も陛下よりも高く評価しておりますわ、あの時――政務室に来た時に殺しておくべきだったと……」


 プププートは、呆けていたのか、その言葉が頭に沁み込んでくるまで少し間があった。

 

「……今、何と言った?」

「ですから、陛下の政務室に来た時に、殺しておくべきだったと申し上げたのですわ」

「お前、何を言ってる?」

「ああ、もう、面倒になってきましたわ」


 そう言うと、ナーマは指を鳴らした。

 その瞬間。

 謁見の間に居た者たちは、人形のようになった。




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