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邪神  作者: yaasan
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片腕の剣士

 ……ゴムザ様。

 エルは心の中で呟く。


「イザベリア、セシル……ああ、何てことだ……」


 階段下で倒れ込んだゴムザは嘆くようにして呟いている。


 続いて階段から降りてくる影があった。男は片手に幅広の大剣を握っている。濃い灰色の髪をしていて歳は二十代後半に見えた。


 ゴムザは階段から降りてくるその男に気がつき、四つん這いのままで逃げるようにエルの方へと向かってきた。だが、自分とエルの間に大きな魔獣がいることに気がついてゴムザはその動きを止める。


 絶望を塗りたくったような顔で、ゴムザは魔獣と階段から降りてくる男を交互に見る。そんなゴムザを見て魔獣が低い唸り声を上げていた。


「ファブリス、待て! 待ってくれ!」


 ゴムザが迫り来る男を遮るように自分の両手を男に向けた。

 男はゴムザの眼前で立ち止まると、大剣の切先を床にへたり込んでいるゴムザの顔に向ける。それに合わせるかのように、魔獣が音もなく移動してゴムザの背後に立った。


 ファブリスと呼ばれた男に片腕がないことにエルは気がついた。しかし、エルでは両手でも持てないような長くて幅も広い大きな剣を苦もなくその男は片腕で支えているようにみえた。


「待ってくれ、ファブリス! 頼む、待ってくれ!」


 ゴムザがもう一度言う。


「復讐か? だったら俺は悪くない。何もしてないんだ! 本当だ! 信じてくれ!」


 ゴムザの言葉に男は無言だった。それでもゴムザは必死に言葉を繋ぐ。


「俺はセリアに薬を盛っただけだ。それだけだ! 何もしちゃいないんだ!」

「言いたいことはそれだけか? 相変わらず小狡いな、ゴムザ……」


 男は片手で握る大剣の切先をさらに近づける。


「ま、待て! 待ってくれ!」


 ゴムザが悲鳴混じりの声を上げる。


「俺は止めだんだ。そう、必死に止めだんだ! だけど料理人でしかない俺の言葉なんて誰も聞きやしない。そうだろう? アズラルト様たちには力じゃ敵わないから仕方がなかったんだ」


 最後は涙混じりとなっていた。


「ゴムザ、相変わらずよく動く舌だな。ならば、仕方がなかったから、お前は眠ったセリアを犯したのか?」


 その言葉にゴムザの両肩がびくっと大きく動いた。頬も大きく引き攣っている。

長剣の切先が僅かに動いたようだった。次いでゴムザの悲鳴が上がる。


 次の瞬間、ゴムザの片耳が血に塗れながら床に落ちていた。ゴムザは片手で溢れる鮮血を必死に抑えている。


「止めろ、止めてくれ! 本当だ! あれは仕方がなかったんだ! そう。あれはアズラルト様に命じられて仕方がなかったんだ!」


 ゴムザが言う必死の弁明に男は少しだけ笑みを浮かべたようにみえた。


「そうか、仕方がなかったのならば、どう仕様もないな……」


 その言葉に希望を見出したかのようにゴムザは二度、三度と大きく頷く。


「なあ、ゴムザ。俺は人族も魔族も殺す。全部だ。そう決めた。だからお前が何であったろうと、お前はここで死ぬんだ」


 ゴムザは嫌々をするかのように首を左右に振った。


「ふ、復讐だろう? だったらアズラルト様が先だろう? 俺は命令されただけなんだ!」

「ゴムザ、言っただろう? これは復讐じゃない。単に俺は人族も魔族も殺すと決めたんだ。だからお前の妻も子供も、このふざけた館の使用人たちも殺した……」

「ま、待て、待ってくれ! そう、そうだ! マルヴィナやジャガルたちの居場所を教える! 俺はお前の復讐に何でも協力する! だから殺さないでくれ!」

「無意味だな。言ったろう? これは復讐ではないと。俺は人族も魔族も殺すだけだと……」


 再び大剣の切先が僅かに動いた。再びゴムザの悲鳴が上がる。

 今度は反対側の耳が血にまみれて床に落ちていた。


「騒がしいな。ゴムザ、お前はもう死ね……」


 男が持つ大剣が横に一閃した。同時にゴムザの首から上が床に落ちる。床に落ちた首は一回、二回と床を転がって、エルに向かってその顔を向ける形で止まった。


 恐怖で見開かれたゴムザの両目が今もエルを見ているようだった。ゴムザの体内から吹き出した鮮血が壁と床一面を真紅に染め上げている。

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