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邪神  作者: yaasan
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大きな剣を振り回したい人

 ダナイ皇国の王都サイゼスピアには予想に反して容易に入ることができた。若い男が一人と若い女が二人、更に子供を連れた旅人。加えてファブリスとエルは魔族であり、ファブリスにいたっては片腕にも関わらず大剣を背負っていて奇異の目を向けられたが、咎められることはなかった。


 もっとも咎められれば、ファブリスは城門を破壊してでもサイゼスピアに足を踏み入れるつもりだったのだが。


 城門でファブリスが騒動を起こせば、王都にいるはずのマルヴィナやガルディスも必ず姿を見せるだろう。そして、間違いなくアズラルトも同じく姿を現す確信がファブリスにはあった。そうなればアズラルトと対面する術を模索する手間も省けるというものだ。


 今、宿屋の中でファブリスは予想に反して、咎められることもなく王都に入れたことを思い返していた。寝台の上に寝転ぶファブリスの横で、西方の魔女とやらのアイシスが興味深そうな視線を自分に送っているのをファブリスは先程から感じていた。ファブリスは赤色の瞳をアイシスに向けた。


「何だ、お前は? さっきから人の顔を見て……」


 流石に殺すぞとは言わなかったが、ファブリスは不快げな表情を浮かべた。


「いや、意外だなと思ったのじゃよ。お主のことだから、すぐにでも暴れ出すのではないかと思っていたのでな」


 アイシスの言葉に同意したのかエルが大きく頷いた。それに合わせて彼女の赤毛が宙で揺れる。


「そうだよね。てっきり城門をくぐる前から、根絶やしだとか言って、大きな剣を振り回すのかと私も思っていた」

「何だ、そうしてほしかったのか?」


 別にそれならそれでよかったのだと思いつつ、ファブリスが問いかけるとエルは慌てて赤い頭を左右に振った。


「またマルヴィナやガルディスが出てくると厄介なことになるのは間違いない。奴等にも代償を払わせる。だが、ここにアズラルトがいるのであれば、奴の方が代償を払うのは先だ」


「ほう……一応は色々と考えておるのじゃな。単なるそこの大きな剣をいつも振り回したい人かと。妾はそう思っておったぞ」


 アイシスの横でエルも、うんうんと頷いている。


 ……こいつら、俺のことを何だと思っているんだ?

 ファブリスは心の中で呟いた。


「こら、ちんちくりん! ファブリス様に失礼だぞ!」


 早速、アイシスの言葉にマーサが噛みついた。


「はあ? 失礼とはどういう意味じゃ? 相変わらず獣人族は通常運転で頭が沸いておるのう。妾は本当のことを言っただけだぞ?」

「その本当のことが失礼だと言っている!」

「マ、マーサ、ファブリスさんを庇っていることになってないですよ!」


 エルが慌てて止めに入っている。そんな彼女たちの姿を見ながら、何とも騒しいことになったものだと思う。そして、その騒がしさを許容している自分も不思議だった。


「で、そこの邪神、一体どうするつもりじゃ?」


 ふがふがとしか聞こえなかったが……多分、アイシスはそう言ったのだろうとファブリスは思う。

 アイシスの両頬はマーサにつねられていて、発音が不明瞭になっていた。因みにマーサの金色の髪の毛はアイシスに両手で引っ張られている。


「王宮に行く」

「へ? 何じゃ、結局は暴れるだけか」


 頬を抓るマーサの指から辛うじて逃れたアイシスが少しだけ驚いたような顔をする。


「奴の前に俺が現れることが大事だ。そうすれば奴が逃げることはない。理由は知らないが、奴は俺にご執心だからな。その結果、マルヴィナとガルディスも姿を見せるのであれば仕方がない。揃って根絶やしだ」

「うむ……まあ、その意見は否定できぬが……」


 アイシスはどうにも納得がいかないようで再度、口を開いた。


「結局、城門で暴れることと余り違いがないような……」

「おい、ちんちくりん! ファブリス様がそう決めたのだから、それでいいのだ!」

「それでいいのだ、ではない。お化けおっぱいは、どこぞの父親か? 盲目的に従うなと言ったであろうに。邪神の力はお主らの思いを叶えてくれるような優しい物ではないのじゃぞ」

「どこぞの父親? わけの分からないことを……」


 言い争いをするマーサとアイシス。それを必死で止めようとしているエル。それらを視界の片隅に置きながら、ファブリスは思考の淵に沈んでいた。

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