魔導兵器
「ガルディスか……」
ファブリスは怨嗟が多分にこもった言葉を絞り出した。ファブリスの予想に違うことなく空間の揺らぎがおさまると、そこから四十半ばぐらいの痩せた男が姿を現した。
魔道士ガルディス。恐らく魔術師としてはダナイ皇国で彼に並ぶ魔術の使い手はいないのかもしれなかった。そして邪神を倒すために、ともに旅をしてきたかつての仲間だった男でもあった。
そう。仲間だったはずの……。
「まさか、魂消しとはな。面白い物を見せてもらった。獣人族に生き残りがいることは知っていたが、魂消しを扱える者が、まだ残っていたとは……流石に驚いたぞ」
「ガルディス、貴様……」
ファブリスは奥歯を噛み締める。ファブリスの脳裏には、あの時ガルディスに見せられたものが強烈に蘇ってくる。両親と妹が村人たちの手で殺されたあの姿が。
「魂喰らいと魂消し。原理は同じようだ。ふむ、魔剣の秘密は、そのあたりにあるのかもしれんな……」
ガルディスはファブリスの言葉などには興味がないようで、そう独りごちている。
そして不意にガルディスは茶色の瞳をファブリスに向けた。
「それにファブリス、お前の力は邪神のものだな?」
ファブリスはその言葉を否定も肯定もしなかった。しかし、ガルディスはそんなファブリスのことなどは気にせずに言葉を続けた。
「どうやってそれを身につけたのかは知らんが、邪神の力となると俺とマルヴィナだけでは少々分が悪い。なるほど……邪神の力となれば、ジャガルがあっさりと殺された理由もよく分かるというものだ」
ガルディスの言葉にファブリスは薄く笑った。
「ガルディス、丁度いい。お前もここで死ぬんだ」
「やれやれ、お前も怖いことを言うようになったものだ。一緒に旅をしていた時は、純朴な魔族の青年だったというのにな」
ガルディスはそう言うと、何事かの呪文を呟きながら両手を前方に翳した。すると、ガルディスの前に一定の間隔を保ちながら、空間の揺らぎが出現す。その数は五つ。
「転移魔法もこれだけの数だと、さすがに疲れるというものだな。やれやれだ……」
ファブリスの前に出現したのは巨大な灰色の物体だった。
「ガルディス、さっさと終わらせて。魔族が私の前にいるなんて、我慢できないんだけど」
マルヴィナが苛ついた声を上げている。
「やれやれ、我が儘なお嬢さんだ。それでよく教皇なんぞをやっていられる。それにアズラルトは殺すなと言っていたぞ」
ガルディスが呆れたような顔をマルヴィナに向けた。
「は? ぼんぼんが言っていたことなんて知らないわよ。間違って殺しちゃったってことでいいんじゃない?」
マルヴィナが事もなげに言って言葉を続ける。
「大体、今さらでしょう? この片腕もない腐れ魔族の何が必要だっていうのかしら」
そんなガルディスたちの言葉を聞き流しながら、ファブリスは出現した灰色の物体を凝視していた。
見た目は硬い鉱物で生成された人の倍はある大きな人形といったところだった。
「簡単に言えば魔道兵器だな。こいつは固いぞ。邪神の力を持ってしても、剣など通用せん。例え魔剣であってもな。それに、こいつを造るのは、苦労したんだぞ。特に動力源が肝でな」
ガルディスの言葉を受けて、マルヴィナが嫌な笑みを浮かべて口を開いた。
「でも、その動力源は秘密なんだけどね」
続けてマルヴィナは嫌な笑い声を上げる。
「興味ないな。何だっていいさ。お前らはここで死ぬのだからな」
ファブリスは呟くと大剣を構え直した。背後ではマーサが変わらずに銀色の毛を震わせながら低い唸り声を上げ続けている。
ファブリスの視界には、先程のマーサが発した魂消しから逃れることができたマナ教騎士団が殺到してくる姿が映っていた。
「根絶やしだ……」
不敵な笑みを浮かべてファブリスはもう一度低く呟いた。




