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邪神  作者: yaasan
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虐殺

「貴様らは何者だ?」


 マーサの声は平坦でそこには何の感情もこもっていなかった。


「ん、俺たちか? 俺たちは奴隷商人だ。これからあの馬車にいる奴隷たちをライザックで売り捌くところだ。そうすれば、たんまりと稼げるぞ」

「ほう……」

「だから、俺たちと一緒に来た方がいい目を見られるんだぜ」


 細身の男がそう言って胸を張った時だった。マーサの右手が僅かに動いた。


「がっ……!」


 そんな言葉を残して細身の男が仰向けで大地に倒れた。倒れた男の喉元には深々と短剣が突き刺さっている。確認するまでもなく男が既に絶命しているのは間違いなかった。


「てめえ、どう言うつもりだ?」


 荒事にはなれているのだろうか。刀傷がある男も残る一人の男も、仲間の一人が瞬時に殺されたというのに大して動揺を見せることはなく、腰の長剣を落ち着いて抜き払ってマーサと距離を取った。


「貴様ら人族の話はいつも不快で耳障りだな。他者の不幸で金儲け。いかにも性根が腐った人族らしいが……」

「てめえ、一体何を……」


 刀傷の男の言葉を遮るようにファブリスが一歩前に無言で進み出た。


「不運だったな。俺はお前らにとっては災厄なんだ。俺と出会った者は俺に殺される」

「てめえら、さっきから何を訳の分かんねえことを!」


 刀傷の男が長剣を振り上げた時だった。エルは空気が切り裂かれる音を聞いた気がした。

 次の瞬間、長剣を握って振り上げていた両手の肘から上と男の頭部が、鮮血を撒き散らしながら大地に転がった。少しだけ遅れて残った胴体部も大地に倒れる。


「な…なっ……」


 三人の中で残った男もこの惨状を目の当たりにして、腰を抜かしたように大地にへたり込んでいた。あまりの光景に口をぱくぱくと開閉させている。荒事には慣れているようだとはいっても仲間が一刀で両断されたのだ。そんな光景などは今まで目にしたことがなかっただろう。


 エル自身も何が起こったのか皆目分からなかった。分かっていたのは目の前で二人が無惨に殺されたことだけだった。


「……人族も魔族も根絶やしだ」


 ファブリスは呟くように言うと、片手に握る長剣をへたり込んでいる男の頭上に振り上げた。

 それを見て男の顔が絶望的に歪んだ。


「や、止めて!」


 エルは思わず叫んでいた。確かにこの男たちにも非難されるべき言動があったかもしれない。だが、この様に無惨に殺されるほどのことだったろうか。


 しかし、エルの言葉も虚しくファブリスの長剣は即座に振り下ろされた。

 そして、次の瞬間には目を背けたくなるような肉塊が、鮮血と共に大地に転がっていた。


「な、何で……」


 エルは力なく大地にへたり込んだ。そんな様子のエルに構うことはなく、マーサが口を開いた。


「ファブリス様、馬車の中はどうしますか? おそらく奴隷の身となった魔族がいるかと……」


 ファブリスは軽く頷くと、大剣を持ったままで馬車に近づいた。


 や、止めて……。もう、止めて……

 後から考えると、掠れた声でそのようなことをエルは言ったはずだった。

 

 その後のことも含めてエルの記憶は曖昧だった。目を逸らしたくなるかのような酷い惨状に、記憶がどこかおかしくなってしまったのかもしれない。


 気がつくと馬車の荷台からは夥しい量の鮮血が流れ出ていた。そうなる前にいくつもの叫び声をエルは聞いた気がする。荷台には幌がかけられていて中の様子は伺い知れなかったが、荷台の中がどういう状況になっているのかを想像することは難しくなかった。


「……どうして?」


 エルは呟いた。

 エルに何を言われたのかが分からなかったようで、ファブリスもマーサもエルに訝しげな視線を向けた。


「……どうして? どうしてこんなことをしたんですか。あの奴隷たちまで殺す必要があったんですか!」


 エルは再び同じ言葉を繰り返した。最後は絶叫に近かった。

 大地にへたり込んだままで絶叫するエルに、大剣の切先をファブリスは無言で向けた。

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[良い点] とても文章も安定していて、エンターテインメントとしての完成度がとても高いです。余計なところを書きたがる自分としては、この辺りは脱帽です。 [気になる点] 全くありません。あえて言えば主人…
[良い点] とても文章も安定していて、エンターテインメントとしての完成度がとても高いです。余計なところを書きたがる自分としては、この辺りは脱帽です。 [気になる点] 全くありません! [一言] しばら…
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