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52話

 風紀の腕章をつけた少女が現れた瞬間、警備員のお姉さんが一瞬だけ『うわ、メンドクサイのが来た』って感じの表情をしたのを俺は見逃さなかった。


 ……猛烈に嫌な予感がする。

 何かとても厄介なことが起こりそうな予感が。


「ここは女学園(・・・)です。男性が何の御用ですの?」


 ですの――だとっ!?

 マジで現実に居るんだ……お嬢様言葉話す人。


 ――って、そうじゃない!

 最初からかなり警戒心むき出しのご様子だ。


「男性が不用意に近づいていい場所ではありませんの。早急に立ち去った方がよろしいですわ」


 ですわ!?

 絵に描いたようなお嬢様やん。


「い、いや……用があるから来たんだけ――」

「何かおっしゃいまして?」


 こちらが言い切る前に言葉を被せ睨み付けてくる。

 話を聞く気なくない!?


「えっと……あの……なんでもないです」


 俺一人でなんとか出来る気がしない。


 ここは一度退散してアリサさんに相談することにしよう。

 最後の手段だったけど俺だけじゃ多分無理だ、これ。


「それじゃ……失礼しました~」


 愛想笑いを浮かべながら相手の言う通り立ち去ることにした。


「逃げる、ということは……何かやましいことがおありなのですね!?」


 立ち去れなかった。

 

 というか、そっちが立ち去れって言ったのに!

 じゃあどうしろってのさ……。


 これはマズイ。

 絶対に碌なことにならない予感しかしない。


 どうしようか考えている一瞬の間に目の前の女子は笛を取り出し口につけた。

 そして――躊躇なく吹く。



「な……なにを……」


 なんでこのタイミングで笛を……と、それを相手が回答するよりも早く答えがわかってしまった。


 笛の音を聞きつけた生徒たちがわらわらとこちらに集まり始めたのだった。

 しかもその生徒たちのほぼ全てが『風紀』の腕章をつけている。

 つまり笛は彼女たちの合図だったのだろう。


 俺を囲むように集まる少女たち。


 これは……逃げるしかない。

 逃げて、情けないけどアリサさんに助けを求めよう。


 今も俺を囲み逃げ道を塞ぎかけている女生徒。


 何とかまだ塞がれていない逃げ道を探し――そして見つけた。

 俺はその見つけた隙間を全力で走り抜け校門の内側(・・・・・)へと逃げ出したのだった。




 ○ ○ ○



 そして今の状況に至るわけだ。


 それをしてしまうと本格的にまずい状況になるのは分かりきっているので、さすがに校舎内には入っていないものの、ここは学校の敷地内。


 地の利は圧倒的に俺を追いかける彼女たちにある。

 

 隙を見てアリサさんに連絡しようと思うものの、隠れてもすぐに見つかってしまい未だにそれも出来ずにいる。

 地の利、そして人数差。

 早くなんとかしなければっ。


 アリサさんに連絡さえ取れれば、彼女ならこの状況を確実になんとかしてくれる確信がある。

 きっとこの状況にはあきれるし、この件で絶対に俺を口撃してくるだろうけど。

 それはこうなってしまった俺の浅慮のせいであるので甘んじて受け入れよう。


 だから助けてアリサさん!!


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