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46話

 もうすぐ冬休みも終わる。

 ということはつまり――


「あ~……嫌だぁ……帰りたくない」


 妹さんも学校が始まるので寮へ帰らなければならないということで。

 

「やだよぉ~」


 昨日ぐらいからテンションも下がってずっとこの調子だった。


「嫌だって言っても帰らないわけにはいかないだろ」


 この冬休み、ずっと一緒に住んでいたこともあって俺も妹さんに話すのに遠慮がなくなっていた。

 アリサさんには未だにこんなに気軽に話せない……妹さんよりもすっと一緒にいるのに何故か。


「そうだけどさぁ~……この家の住み心地が良すぎるのが悪いんだよぉ」


 家を褒められて悪い気はしない。

 アリサさんという完璧なメイドが完璧に管理してくれているこの家は住みやすい環境が整っている。

 妹さんも家事を手伝ってはいるがメインでやっているのは勿論アリサさんで、寮に帰れば全部自分でやらなければならなくなるのが面倒らしい。


「そう言われてもな……もう冬休みも終わるんだし諦めたら?」


 昨日から何度も同じようなやり取りを繰り返しているので俺の返事もおざなりになってきたのである。


「……冷たくない? 冷たいよ! 樹くんは私がいなくなっても寂しくないってこと!?」


 そんな風におざなりな返答をすればこんな感じでウザ絡みしてくる。

 ……メンドクセェことこの上ない。


「はいはい寂しい寂しい」


 なんて適当を装って返事してるけど……実際ちょっと寂しさはあった。

 妹さんが来てから家の中が明るくなったような気がするし、一緒の部屋にいれば会話が途切れることがほとんどない。

 恥ずかしいし、なんか調子にのる気がするからホントのとこは言わないけど。

 

「うぅ……心が籠ってない」


 机に突っ伏して泣いたふり。

 アリサさんの妹でなんでも出来ると言っても、やっぱり中学生の女の子が家族と離れ、寮で暮らすのはツライとこがあるのかもしれない。


「いい加減戯言を言ってないで帰る準備をしなさい」


 今まで静観していたアリサさんが辛辣すぎる言葉を投げかけた。


「ざ、戯言っ!?」


 妹さんが顔を上げて驚愕した。


「それはちょっと酷くない!?」

「ずっとグチグチと聞かされる身にもなりなさい。そんなこと言っても変わらないのだから」

「お姉ちゃん機嫌悪くない?」


 ……確かに。

 まぁ、でも……機嫌が悪いっていうよりも呆れてる方が強そうだ。


「折角の冬休みに樹くんと二人でいられなかったから? それはごめんだけど――」


 妹さんがそんなことを言った瞬間だった。


「いますぐ強制的に帰らせましょうか」


 アリサさんが何やら恐ろしいオーラを纏った気がした。

 身体の芯から震えがくるようだった。


「ごめんなさいごめんなさい! 嘘です! 冗談です!」


 速攻で謝る。

 こんな光景も今日で見納めになると思うと何か……確かにちょっと寂しくもあるな。


「はぁ……全く」


 そんな妹さんを見てアリサさんもため息しか出ないようだ。



○ ○ ○


 その日の夜には妹さんは名残惜しそうに帰っていった。

 一応アリサさんと一緒にウチから最寄りの駅まで送っていったのだが、何故かその間ずっと俺とアリサさんの間に妹さんが入って三人で手をつなぐ羽目になった。

 マジで恥ずかしかった……。

 妹さんのごり押しでそうなってしまった。


「なんか……凄い静かになった気がする」


 妹さんを送って家に帰ってきた俺はアリサさんの淹れてくれたお茶を飲みながら呟いた。

 アリサさんと二人で暮らしていた時間の方が長かったのに、この静けさに違和感を感じた。

 それだけ妹さんがいた時間が濃かったということだろうか。


「あの子は昔から存在が喧しいですから」


 ……確かに。

 それっぽいわ。


「寂しそうですね、樹様」

「う~ん……少し、ね」

「本人にそう伝えてもらえると大変喜ぶと思いますよ」


 なんか妹さんにも同じようなこと言われた気がする。

 やっぱり姉妹なんだな。


 …………。

 そしてアリサさんと二人、穏やかな時間が流れる。


 それから……妹さんが帰りたくないと駄々をこねていたので俺は我慢していたのだが――


「明日から学校嫌だぁ~!!」


 机に突っ伏して嘆く。

 そう、今日で冬休みは終わり。

 明日からまた学校生活が始まるのだ。


「はぁ……全く……子供ですか」


 妹さんと同じようにアリサさんに呆れられてしまったのだった。


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