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43話

「ぐすっ……わ、悪ノリしてはしゃぎすぎまじだ……本当にごめんなざい」


 仁王立ちで説教するアリサさんに号泣しながら妹さんが土下座していた。


 …………。

 

 アリサさんが戻ってきてから一時間程たっただろうか。

 めちゃめちゃ怖かった。

 俺に言われているのではないのにも関わらず、その恐怖は凄まじいものだった。

 初めて恐怖で身体が震える、という現象を味わった。

 その恐怖を直接感じている妹さん……そりゃあ泣きもするだろう。

 完全に自業自得だけど。


 そして今の俺たちの位置関係。

 これが大変よろしくないのだった。

 

 まず、妹さんが土下座をしている。

 その前に仁王立ちのアリサさん。

 これは言うまでもなく土下座しているという状況からわかってもらえると思う。


 そして俺はと言えば……アリサさんの後方にあるソファーに座っていた。


 つまり、アリサさんの背中越しに土下座している妹さんを見ている状況だ。


 それがどういうことかわかるだろうか?

 目線の先に土下座のために正座している女性がいるのだ。

 そしてその彼女が着ている物は……ミニスカートタイプのいかにもなメイド服。

 つまり、そこには非常に際どいチラリズムが存在する。

 見ないように目線を逸らすのだが……妹さんが動いたり、ふとした拍子についそちらに視線がいってしまうのだった。


 だけど、これは男として仕方ないことなのだ……って誰に言い訳してるんだ俺は。


「み、見でないでだすけて……お願いじまず~」


 妹さんが俺に助けを求めてきた。

 求めてきたが……俺にどうしろと?


「樹様、取り合わなくて結構ですよ」


 わかってますね、と言いたげなアリサさんの視線。

 ……俺にどうしろと?

 こんなのどうにもできないよ。

 ということで、俺は妹さんから再び視線を外し顔を背けた。


「うわぁ~ん! 薄情者!」


 妹さんから避難の叫び。

 ガチで泣いてるし、助けてあげたい気持ちもあるけど……俺にアリサさんをどうこうできるはずがない。


「さっきからパンツ見てるの気づかないふりしてあげたのにぃ~!」


 なっ――気づいていたのか。

 女性は男のそういう視線に敏感だって聞くし……やっぱりそうなのか。


「え……まさかホントに? 信じられない」


 俺の反応を見て引いている様子だった。

 ――ってカマかけやがったのか!?


「…………樹様?」


 ヒィッ!!

 何!? 今のドスの効いた声。

 初めて聞いた声音だったぞ……。


「み、見えそうだったからすぐに視線逸らしました! 決して見ていません!!」


 俺は立ち上がって気を付けのポーズで自身の潔白を叫んだ。



○ ○ ○


 そんなこんなな出来事があった翌日。

 

 三上さん伊吹さん、そして今岡はあれから数時間で復活し、妹さんを紹介。

 その時初めて妹さんの名前を知った。

 マリナというらしい。

 面倒だし、もう慣れちゃったから心の中では妹さんと呼ぶことにしよう。


 そんな妹さんの悪戯だったと、妹さんとアリサさんが三人に謝罪し酒事件については解決した。

 その後、三上さん伊吹さんとアリサさん姉妹がお互い自己紹介をして親交を深めていた。

 俺はアリサさんだけではなく妹さんにまでちょっかいをかけようとする今岡を引き離すのに必死で四人が何を話していたのかは知らない。


 まぁ仲良くやってくれるならいいや、と思うことにした。


 そして、三人が帰ったあと……衝撃の事実が発覚した。


「え!? じゃあ冬休みの間、ずっとウチにいんの!?」


 妹さんの話を聞いて驚愕した。

 妹さんは少し離れた街の中高一貫の全寮制の女子高に通っているらしい。

 ……それは俺でも知ってるお嬢様学校だった。

 今岡が美少女が多くお近づきになりたいと良く話している。

 と……そんな話は置いておいて。

 妹さんが言うには、別に寮で過ごしても良いらしく、今までの休みは普通に寮で過ごしていたらしい。

 だけど、今回は俺とも知り合っているし、こっちで過ごすことにしたとのことだ。


「そういう事は事前に連絡しなさい」


 アリサさんが至極全うなことを妹さんに告げる。

 そうだよな、普通は連絡するよな。

 まぁ、部屋は余ってるから別にいいんだけどさ。


「驚かせようと思って」


 てへっ、とあざとく言う。


「それであの惨状……そしてその態度。反省が全く見られないですね」

「ひぃっ……!」


 ひいぃぃぃっ!

 アリサさんが再び説教モードに!?

 てか妹さんと反応が被ってしまった。


「た、助けて!」


 縋るように抱き着いてくる妹さん。


「ちょっ! は、離れ――」

「ちょっとぐらい触っても許してあげるから助けてよ!!」


 アリサさんに聞こえないように耳元でとんでもないことを告げる妹さん。

 抱き着きながらアリサさんには及ばないまでも十分に豊満なソレを腕に押し付けてくる。

 や、柔らか――て違う!


「お、俺には無理!」

「なんで!? こんなに頼んでるのに!」

「どんだけ頼まれても俺にアリサさんを止められるはずがない!」

「なにそれ! 情けないと思わないの?」

「情けなくても無理なものは無理!」

「とりあえず樹くんがお姉ちゃんに抱き着けばなんとかなるからお願いします!」


 な、なんて恐ろしいことを言うんだ!

 てか樹くんって呼び方は色々思い出してしまうから変えてもらえないかな!?


「…………二人とも、そこに正座しなさい」


 そう告げるアリサさんの圧倒的なオーラに俺と妹さんは恐怖を誤魔化すようにお互いの身体を強く抱きしめ合った。


 …………なぜかアリサさんの怒りのボルテージを上げる結果になってしまったのだった。


今週体調を崩していました。

更新遅れてしまって申し訳ありません。

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