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22話

「女性にこのような暴力的な行いをするのは感心しませんよ樹様」


 俺の投げた懐中電灯を当然のごとくキャッチした熊が無表情に言った。 

 熊の口から見える顔……いや、やけにリアルな熊の着ぐるみを着ているのは、アリサさんだった。 

「こっちはアリサさんのせいでひどい目にあったんだけどっ!?」

「はて、私のせいでとは?」

 アリサさんは首を傾げた。

 リアルな熊の着ぐるみが首をかしげる光景は非常にシュールだった。

「あんたがそんなかっこで驚かすからでしょーが! 怪我人もでてるんですけど!?」

 俺は怒りに任せて叫んだ。

 いくらなんでも悪ふざけにもほどがある。

「私が樹様にこの姿でお会いしたのはこれが最初ですが……今、お怪我をなされたのですか?」

 え? 

 今初めて会った?

「え? じゃあさっき見た熊は? アリサさんじゃないの?」

 アリサさんは着ぐるみで器用に顎に手を当てると少し考え込んだ。

「ふむ……それは……急いで皆さんのところに戻った方が良さそうですね」

 えぇ……?

 さっきの本当にアリサさんじゃないの?

 ということは……マジモンの熊さんだったの?

「まずはそちらの方の手当てをします。その後、学校の皆さんのところまでご案内致します」

 アリサさんは立ち上がれない伊吹さんを見て言った。



○ ○ ○


 着ぐるみを脱ぎ捨て、いつものメイド服に戻ったアリサさんは、テキパキと伊吹さんの手当てを済ませた。

「それでは着いてきてください、樹様」

「伊吹さんは? 足、怪我して歩けないんだけど」

「ご心配なく」

 アリサさんは一言だけ言って伊吹さんを抱きかかえた。

 俗に言うお姫様抱っこで。

「伊吹様、申し訳ありません。樹様の方が良いと思いますが、あの方は非力ですので今日は私で我慢してください」

「え、あ、あの……その……えっと」

 異様にうろたえる伊吹さん。

 実はアリサさんが登場してから伊吹さんは全く言葉を発していなかった。

 人見知りっぽいし、俺と同じでコミュニケーションが上手くないっぽいから仕方ない部分もあるけど。

 というか――

「非力ってなんだよ!!」

 伊吹さんが大変な時に、そんなことを気にする自分は本当にちっぽけな人間だと思う。

 思うけど言わずにはいられない。

「それでは出発します」

「ちょ――待ってよ!」

 俺の文句を聞こうともせず歩き出そうとするアリサさん。

「…………では樹様が伊吹様を抱いて運びますか?

「………………」

 それは……出来そうもないけど。

「えっと……」

 言いよどむ俺にジト目を向けてくるアリサさん。

 その腕に抱かれている伊吹さんも悲しげな表情をしているように見える。

「――って、違う! 伊吹さんが重いとかじゃなくて!」

 必死に言い繕う。

「伊吹さんがどうとかじゃなくて……俺に力がないから!」

 必死すぎて何言ってるかわからなくなってきた。

 なんかさっきのアリサさんの言葉を自分で認めてしまったような……。

 

 そんな俺を見たアリサさんは……伊吹さんと目を合わせた後、


「……はぁ~」


 盛大にため息を吐いた。


「そういうとこですよ、樹様」


 ど、どういうこと!?



○ ○ ○


 その後、アリサさんに先導され見知った場所に辿り着いた。 

 肝試しをするためにクラスの皆で最初に集まった場所だ。

「お~い春田~!」

 そこには俺たち以外の全員が揃っていた。

 今岡が真っ先に俺に気づいて手を振ってくる。

「って、アリサさん!?」

 すぐにアリサさんが一緒にいることに気づいて走り寄ってくる。

「さ、沙代!? どうしたのっ!?」

 そのアリサさんに抱えられる伊吹さんに気づいた三上さんも同じように急いでこちらに向かってきた。

「あ、ミサちゃん……ちょっと足怪我しちゃって……」

「えぇ!? だ、大丈夫なの?」

 心配そうに伊吹さんの足を確認する。

「応急処置は完了しています。念のために病院へ行くことをお勧めします」

 言いながらアリサさんは抱いたままだった伊吹さんを近くにあったベンチに降ろして足が地面に触れないように座らせていた。

「せ、先生を呼んでくるっ!!」

 三上さんは先生がいる建物に向かって走っていった。

「で、アリサさんはなんでここにいるんですか!?」

 それを見送ってから今岡がアリサさんに話しかけた。

 その問いに対するアリサさんの返答は――


「主人の危機に駆けつけるのは一流のメイドの嗜みですので」


 と、微笑んで見せた。

 

 ……。 

 

 …………。


 着ぐるみの必要性は!?

 何とも言えない気持ちになるのだった。




 ちなみに……勝手な行動をして怪我人まで出してしまった我がクラスは大目玉をくらい、その後学年主任の監視付きで帰りまで重苦しい時間を過ごしたのだった。

1話毎の文字数が安定しませんが……なんとか毎日更新は続けていこうと思います。

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