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20話

 入浴から少しの時間が過ぎ、空には満月と無数の星、夜だ。就寝時間になり、生徒達は自分の寝る部屋とテントへ。そこで布団に、あるいは寝袋に包まっているはずの時間。

「ここはやっぱり王道の……肝試し――――っ!」

 今岡が叫ぶ。

 わーわーきゃーきゃーと歓声が上がる。

 就寝時間を過ぎた今、俺達のクラスだけ外に集まっていた。勿論担任も知らないことだが。

 今回は覗きと違って最初から女子もいる。

「ねぇ……ホントにやるの?」

 三上さんが嫌そうに言った。

「あっれぇ~? 委員長様は肝試しが怖くてお嫌いですかぁ?」

 馬鹿にしたように今岡が三上さんを揶揄う。

 …………俺に言われてるわけでもないのにイラッとした。実際に言われている三上さんは相当頭に来ているに違いない。

「はぁっ!? 怖くないわよ! やってやろうじゃない!」

 実際そうだったようで、怒りに任せて参加することにしてしまっていた。


「よし! じゃあ、ペアを決めるからくじを引いてくれ!」

 全員の参加を確認して、今岡がくじの入った箱を片手に生徒達の間を回る。

「同じ番号の人同士、ペアになってこの地図の通りに進んでもらいます」

 何故か嫌がっていたはずの三上さんが地図を一人に一枚配る。

 え? 何で開催者側に三上さんがいるんだ?

「そのくじの番号は回る順番でもあるから、前の組が出発して五分経ったら次の組は出発してください」

 地図を配り終えた三上さんが言う。

 俺が引いたくじの番号は四番だった。……不吉だ。

同じ番号は誰だろう……。

 実を言えば不安である。

 昔から、くじで決めたペアに嫌がられることなんて何度かあった。『先生ぇ~、やり直してくださ~い』とか言われると親しくない相手でも本当に傷つくんだよ……。

 そんなことになるぐらいなら――

「今岡、何番だった?」

 コイツとペアになった方がマシだ。

「あん? 俺と委員長は驚かす役だからな。くじは引いてないぞ」

「え? そうなの?」

「ああ、委員長が怖がらせるほうなら参加するって言うから」

 俺の知らないところでそんな交渉があったらしい。

 それで三上さんがそっち側にいたんだな。

「そ、そうか……」

「なんで落ち込んでるんだ……お前、そんなに俺のこと好きだったのか。だが残念、俺はノーマルだ!」

「ち、違うよ!」

 なんて勘違いしてるんだ。

「なんてな。冗談だよ。ま、どっちにしろ男女でペアになるようにしたから俺とペアになることはなかったぜ?」

 そうなのか。

 だとすると女子、か。一体誰なんだ?

「そんなに心配することないと思うぞ。多分な」

「え……どういうことだ?」

「さあね」

 うしし、と何か企んでいるように笑う。

「お~い! 四番引いた女子誰だぁ!?」

「お、おい!」

 今岡が俺のくじを見て大声で言った。

「あ、あの……私、です」

 そう言ったのは手を上げてくじを見せながら俯いている伊吹さんだった。

「よ、宜しく……お願いします」

「あ、ああ……こちらこそ?」

 何故か深々と頭を下げる伊吹さんに戸惑いつつもそう返す。

 伊吹さんなら『変えて~』とか言うことはないと思うから一安心といったところか。

 それにしても……

「なぁ今岡」

「なんだ?」

「くじに何か細工とかしたか?」

 今日は妙に伊吹さんと縁がある。

 偶然にしてはおかしい気がする。そう思った俺は今岡に尋ねていた。

「な、何言ってるんだよ! なんでそんなことする必要があるんだ!?」

 必要以上に大きな声の今岡にビックリしつつも、

「いや、何に必要とかは分からないけど……何となく」

「な、何となくで人を疑うのは良くないぞ春田君」

 何か妙な雰囲気の今岡。

 何か誤魔化している感がある。

 今岡は妙だが、俺と伊吹さんをペアにして何があるのか分からない以上これ以上訊いても無意味だろう。そんなことを今岡がする理由は皆目見当もつかないし。

「それじゃ俺は驚かす為に行ってくるぜ!」

 今岡はそう言い残し去っていった。

「それじゃ十分後、一番の組から出発してください!」

 今岡に続いて三上さんも行ってしまった。

 俺は四番だから三〇分後に出発か。

「伊吹さんは……肝試しとか大丈夫?」

 俺は隣で俯く伊吹さんに問いかける。

「は、はい」

 伊吹さんは俯いたままコクコクと頷いて答えた。

「そう。良かった」

「…………?」

 そう言った俺を少しだけ顔を上げ不思議そうに見てくる伊吹さん。

 実は俺は怖いのは苦手なのだった。

 二人とも怖がりじゃ進めないかもしれないし、いや……伊吹さんが俺以上に怖がってくれれば逆に落ち着いたりするのかな。

 それに……肝試し自体も不安だがそれ以外の不安もある。

「熊とか……出ないよな?」

 俺は誰にも聞こえないように呟いたつもりだったのだが伊吹さんには聞こえてしまったらしい。

「で、出ないと……思います」

「だよね。いや、分かってるんだよ? 出ないってことはさ。でも、それでも俺が行くと出るかもしれないって思っちゃうんだよ。うん、ないよねそんな漫画みたいなこと。でも最近の自分を振り返るとそんな漫画みたいなことが立て続けに起きてんだよだから熊に襲われるとか崖に転落するとか普通にありそうだって思っちゃうんだよ!」

 俺は心中を一気に捲くし立てた。

 言ってから思った。本当にそのぐらいのことはありそうだと。

 親が自分を置いて海外に行くわ、引っ越したら一戸建てだわメイドさんがいるわってどう考えても普通じゃないもんな。

「…………」

 伊吹さんが俺を見ていた。

 ――って、ヤバ! 何か色々叫んじゃったけど変なやつって思われたか?

「…………い、伊吹さん?」

 声をかけると伊吹さんはハッとしたような顔をして俯いてしまった。それから何度か頷くとゆっくり顔を上げ、

「だ、大丈夫……ですよ」

 と微笑んだ。

 大丈夫って何が!? そんな事は有り得ないって意味かそれもと俺の精神のことですか!? 

 なんでだろう、酷く混乱してしまっている。さっきのことで焦っていた所為もあるんだろうけど。

「次、四番誰だー!?」

 自分の番号を呼んでいる声で我に返る。

「あ、はい。俺です」

「お~春田……と伊吹か。次お前らの行く時間だぞ」  

 呼んでいたのはクラスの副委員長、園田君だった。

 俺は伊吹さんと顔を見合わせて、

「そ、それじゃ行こうか」

「……はい」

 肝試しに出発した。


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