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18話

 出発して一時間半ほどバスに揺られ、ようやく目的地に辿り着く。

「うお~、着いた~!」

 バスから降りると今岡が大きく伸びをする。

 俺も同じく体を伸ばす。長時間乗り物に乗っていると体が固まるっていうか、ストレッチなんかすると骨とかゴキゴキ鳴るのはなんでだろう。やっぱり身体が固まるんだろうな。

 特に今回は、長時間の移動に加えて、移動中、隣に座る伊吹さんに触れないようにほとんど身動きをとれなかったためか、普通よりも疲れてる。

「お前、三上さんと何話してたの? メイドとか聞こえた気がするんだけどさ」

 今岡に近づいて小声で話しかける。

 小声なのはすぐ近くに三上さんと伊吹さんの二人もいるからだ。

「は? なんのことだ? そんな話はしてないぞ」

 俺の質問に今岡はとぼけてみせた。

 だけど俺は確実に『メイド』という単語を耳にした。

 俺には言いにくいことを話していたってことか。

 だとすると……余計気になってくる。

「俺は確かに聞いたぞ。三上さんがメイドって言ったの」

 俺はしつこく問い詰める。今岡は俺と目を合わせようとしなかった。

「へ、へぇー。聞き間違いじゃないのか?」

 あからさまに嘘だと分かる表情の今岡。

 ……コイツ、マジで何を話したんだ?

「…………」

 俺はジト目で今岡を見つめる。今岡は「あ、あははは」と俺の目を見ずに渇いた笑いをこぼしていた。

「あんた達、いつまで喋ってんの。さっさと移動するわよ」

 三上さんの声に周りを見ると、他のクラスメイト達はかなり離れたところを歩いていた。

「おう。わりぃわりぃ。今行くわ」

 今岡は助かったとばかりにそそくさと歩いていく。

「ご、ごめん」

 俺も三上さんに謝罪して後に続いた。


 バスを降りて少し歩くと結構大き目の建物が見えてきた。事前に配られたプリントによると、どうやらここで昼の弁当を食べるらしい。

 学校側が用意している弁当らしいので正直期待はしない方が良いだろう。

 そうは思うものの、やはりいつもと違う状況下では少し期待をもってしまったりするのだが。

「なんか……近くで見るとすっげぇボロッちいな」

 建物の入り口まで辿り着くと同時に今岡が言った。

 確かに所々ひび割れていたり、お世辞にも綺麗とはいえない状態だった。

「まぁ、中までひどいってことはないでしょ。……多分」

 そういう三上さんも外観を見て自信なさ気だ。

「見た感じ廃墟とまではいかないけど……それでも幽霊とか出そうではあるね」

「ちょっとやめてよっ! そんなの出るわけないでしょ!?」

 何気なく呟いた俺の言葉に三上さんが激しく反応した。それを見た今岡は嫌な感じに口を左右に広げ、

「あれぇ~? 委員長さんは幽霊とか怖がっちゃってるのかなぁ?」

 意地悪くからかい始めた。

「は!? 怖いわけないでしょ!」

「その割には焦ってない?」

「あ、焦ってなんかないわよ。バカにしないでくれる!?」

「別にバカになんかしてねーよぉ? ただ「お化け怖い~ん」なんて言う三上委員長様は可愛いなぁと思ってるだけですよ?」

「だ、だから怖いなんて言ってないでしょ!?」

「うぷぷ。そうですねぇ」

「ちょっ、何笑ってんのよ!」

 声を荒げて怒る三上さんに対し、今岡は「べっつにぃ~」だの「なんでもないですよ?」だの相手をさらに怒らせるような態度で返事をしていた。

「ま、まあまあ。とにかく入ろう。もう皆行っちゃったよ」

 俺は二人の間に割って入った。

「おう、そうだな!」

 今岡はスタスタと先に入っていってしまった。

「あっ――待ちなさいよ! おい!」

 それを追いかけて三上さんも。

「はぁ~……それじゃ、俺達も行こう」

 俺は溜息を吐いてから、まだこの場に残っていた伊吹さんに声をかける。

「は、はい……」

 そして、そのまま伊吹さんと二人で中に入った。

 なんか言い合いを止めるって目的があったからか三上さんと伊吹さんにも普通に声をかけられた。 


 食堂のような広い部屋。

 一学年全ての生徒が入ってもまだ余裕があるほどの広さがあった。

 そこに用意されていた弁当を皆で食べる。

 予想通りその弁当は味気なく、とても美味しいといえるものではなかったが、普段とは別の環境のためかそれほど不満も出ることなく皆綺麗に平らげていた。

 食事が終わると次は外に出てテントの設営。

「はぁ~。気に入らねぇよな」

 今岡がテントの部品を足で転がしながら溜息を吐く。

「これって差別じゃね?」

 俺に同意を求めてくる。

 確かに不公平だとは思うけど。

「なんでテントに泊まるのは男子だけなんだ!?」

 今岡の怒りはそれだった。

 先程、弁当を食べた建物。食堂っぽい部屋は一階にあり、二階と三階は二~四人ほどが寝られる部屋がいくつもあるらしい。そこに女子達は泊まると聞かされた。

 高校生の男女が一緒に泊まるのはやはりマズイし、男女を別のテントにするにしても、やはりテントでは防犯性が低く、何かが起こってしまっては学校としては困る。

 だから女子は建物内に宿泊することとなったようだ。

 まぁ、仕方ないよな……と思うし。

「私達に言われてもどうしようもないわよ。テント作るのは手伝ってあげてるんだからいいじゃない」

 ジャージに着替え、軍手をはめた三上さんが言う。

「ほら、グダグダ言ってないで手を動かす!」

 三上さんは今岡の背中を叩く。スパーンと結構良い音がしていたが、今岡はそれに何を言うでもなく素直に設営に取り掛かった。

「ま、決まったモンは仕方ないし、ちゃんと作るか!」

「適当にやって寝てる間に壊れたら最悪だしね」

 俺と今岡は説明書を見て部品をわけながらそんなことを話した。

 やる気になったのはいいが、俺は勿論、他の三人もテントなど作ったことがなく、説明書を見ても完成させるのに四苦八苦だった。

 最近は簡単に建てられるテントも多いらしいけど、配られたテントは古いタイプの面倒くさいやつだった。

 何とかかんとか設営し終わったたのは他の班と比べても遅いほうだった。


 その後、なんか偉いっぽい人の話を聞いたり周辺のゴミ拾いをさせられたりするうちに晩ご飯の準備の時間になった。

 晩ご飯はこういうときの王道、カレーだ。

 料理は苦手という三上さんと料理なんかしたことがないと言う今岡の二人はご飯係。俺と伊吹さんでカレーを作る、ということに決まった。

 いや、俺だって苦手なんですけど!

 アリサさんがいなかった時に凄く理解させられたんですけど!

 今岡と三上さんが火の用意をしている間に伊吹さんと俺で野菜や肉の下ごしらえ。

「へぇ~。凄い上手だね」

 俺は包丁で綺麗にくるくると芋の皮を剥いていく伊吹さんの手元を見ながら感嘆の声をあげた。

「い、家で……やってるから」

 恥ずかしそうに俯きながらも伊吹さんの手は速度を落とさない。

 一つの班に配られた皮むき器は一つだった。最初、俺は自分がやるからと皮むき器を手に人参の皮を剥いていた。「私は……お芋をやります」と、そう言った伊吹さんは俺の隣に立つと皮むき器を使う俺と変わらない速さで芋の皮をむき出したのだ。

 むしろ皮むき器を使っている俺より早くて綺麗に皮をむいていた。

 さすがに家でやってるというだけあって伊吹さんの手際は良かった。今岡達が火の用意を終えた頃には、もうこちらの準備は終わっていた……というか俺が芋一個やってる間に伊吹さんがほぼ全てを終わらせていた。

 すげぇ……。

 今岡達は火を点けると「んじゃ、米洗ってくるぜ!」と水道の方へ歩いていった。

 鍋を火にかける。

 後は煮込んでルーを入れて出来上がりだ。

 鍋を二人して見ていても意味がないので俺は火の調節をした。伊吹さんは何度も何度も丁寧にアクを取っていた。

「これで……よし!」

 ルーを入れ伊吹さんは味見をして微笑んだ。

「…………っ!?」

 俺が見ていたことに気付いて伊吹さんは顔を赤くして俯いた。

 本当に恥ずかしがり屋らしい。

 そのとき――遠くから今岡と三上さんが慌てたようにこちらに向かって走ってきた。今岡が「米が……米が……っ!」とか言っている。

 なんだかとてつもなく嫌な予感がした。

「ど、どうしようっ! お、おおお、お米が流れていっちゃった!!」  

 俺達のもとまで辿り着いた三上さんの言葉。

 な、なん……だと!?

 焦る今岡と三上さんを見たあと、俺と伊吹さんは顔を見合わせてため息を吐いた。


 何とか他の班の人たちに米を分けてもらい、ライスなしカレーは避けられた。


今日2話目の更新です。

いつもの時間にもまた更新します。

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