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17話

 ………………。

「あ、あの……これ、どうぞ」

 目の前にお菓子が差し出される。

「ど、どうも」

 戸惑いながら受け取って食べる。

「…………」

「…………」

 無言。

 窓のふちに肘を置いて流れていく外の景色を眺める。 

 眺める……が、そんなものに集中できなかった。

 ギリギリまで窓に寄りかかって距離を置いてはいるが、それでも狭いバスの隣同士。少しでも動けば身体が触れ合ってしまう。

 隣にいるのが今岡だったらこんなこと気にするはずがない。気持ち悪い。

 では、なんでこんなに気まずい思いをしているのか。それは……いま、俺の隣に座っているのが……何故か伊吹さんだからだった。


 なぜこんな状況になっているのかといえば……バスに乗り込んで少し経ってからのことだった。

 俺と今岡は隣同士で座り、一緒に乗ってきた伊吹さんは俺達の前の席に座っていた。

 今岡と何気ない会話をしていると、担任に報告を終えた三上さんがバスにやってきた。

 俺は三上さんはそのまま伊吹さんの隣に座ると思っていた。

 だが、三上さんは前の席に座る伊吹さんをチラリと見たあと、俺達の方へやってきてこう言ったのだ。

「春田、あんた前に行きなさい」

 と。

 当然、俺は反発した。

「え……な、なんで?」

「私はコイツがバカなことしないように見張らなきゃいけないの」

 言いながら今岡を指差す。

「バカなことってなんだよ!? 俺がそんなことするヤツに見えるのか!?」

 そう言ったのは今岡。

 三上さんは冷ややかな目を今岡に向け、

「見えるもなにも、いつもしてるじゃない」

 確かに。バカと言えば今岡ってぐらいに、このクラスではそれが常識だった。

「そんなわけだから、はい動いて動いて」

 三上さんに言われるまま立ち上がると、すかさず三上さんは俺の座っていた席に腰掛けていた。

 窓側の今岡は逃げることも出来ず、寂しそうな目を俺に向けているのだった。正直気持ち悪い。

 仕方なく前の方へ移動する。

「……ど、どうぞ」

 伊吹さんは立ち上がって俺が通りやすいようにしてくれていた。

 というか……俺が窓側に座ることになるわけね。

「あ、ありが……とう」

 お礼を言って座る。

 俺が座ったのを確認して伊吹さんも俺の隣に、

「……っ!?」

 伊吹さんが座ったとき、腕と腕が触れ合ってしまった。

「あ、ご、ごめん……なさい」

 驚いて窓際に離れてしまった俺に伊吹さんが申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にした。

「い、いや、こちらこそ?」

 き、気まずすぎる!

 それっきり会話もなく、やがてバスは走り出す。


 友達の少ない俺は対人スキルが低い。

 特に初対面の人と打ち解けるとか……ほんと無理。

 今岡は向こうからどんどん話しかけてきてくれて、話しやすい雰囲気だったから俺も話すことが出来たけど、自分から……それも女子に話しかけるなんて難易度が高すぎる。

 伊吹さんとは初対面ではないしクラスメイトだけど、話したのは班決めのときのあれが最初だ。そんなのは初対面とさして変わりがないといってもいい。

 ただでさえ低い対人スキル。相手が女性だとさらに低下する……それが俺だった。

 ハッキリ言ってまともに顔も見れない。

 伊吹さんも人懐っこいタイプではないし、むしろ俺と同じで苦手っぽいみたいだし、沈黙が重い。

「え、マジで!?」

 後ろから驚いたような今岡の声。

「マジよ。だからアンタも協力しなさい」

「……勿論だ。それにしても伊吹がね~」

 なにやら三上さん二人で、とても盛り上がっている様子だ。

 小声なため、何を話しているのかまではハッキリとは聞き取れないが、伊吹さんのことを話しているのは何とか聞き取れた。

「ちょっとバカ! 声が大きい!!」

「わ、わりぃ……」

 前の席にいる俺にも聞こえなかったぐらいの声だったが、三上さんはそれでも何か気に入らなかったらしい。それに今岡も素直に謝っているのも不思議だった。

 ……一体何の話をしているんだろう?

 それからは何か話しているのは分かるって程度で、後ろの二人の声がこちらに届くことはなかった。


「……あのさ」

 無言の苦痛に耐えかねて勇気を出して伊吹さんに話しかけてみる。

「は、はい……なんですか?」

 お互い目を合わせることもなく。俺は窓の外を向いているし、伊吹さんはいつも以上に俯いている。

「伊吹さんは……良かったの? その……俺らと同じ班で」

 三上さんに言われ、半ば強引に同じ班になった。

 俺なんかと同じ班になったこと、伊吹さんはどう思ってるんだろうか? 実は嫌だったんじゃないかと思って、そう訊いてみた。

「あ……はい。……それは、全然」

 そんな返事が返ってきたので、まあ一安心。嫌われてるってこともないみたいだ。

「全然というか、良かったっていうか、そもそも私がミサちゃんに頼んでそうしてもらったのであって」

 伊吹さんは物凄い早口で何か呟いていた。

 ……早口なうえに小声で、何を言っているか全く分からなかったけど。


「はぁ!? メイド!?」

 そんなとき、三上さんの驚く声。

 なんか、すごい嫌な予感のする単語が聞こえた気がする。

「おう、これがマジで美人なんだよ!」           

 今度は今岡。

「ほう……美人の……メイド」

 本当に……嫌な予感がするなぁ。


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