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12話

 家の近くのファミレス。

 俺はアイスコーヒーを啜り、途方に暮れていた……。


 あの後……洗剤を購入し、風呂掃除を終えた俺は家捜しを開始した。

 自分の家なのに家捜しってのもどうかと思う。思うのだが、こればかりはどうしようもない。

 だって俺はこの家のことをほとんど知らないのだから。

 最初は案外すぐにみつかるもんだと甘い考えだった。大事なものなんだし、分かりやすい場所に仕舞ってあると思ってた。けど後になって思ったけど、逆に大事な物だから分かりにくい場所に仕舞うんだよな。

 だが、その時の俺はそんな事にも気づかず、一時間経ち、二時間が過ぎて……焦りが募りだし、最終的には家中をひっくり返すように探すことになった。

 そして印鑑やら通帳やら、大事なものはなんとかみつけたものの……家の中は無残な状態になってしまっていた。

 大地震でもきた後のような光景だ。

 それでも、最初は何とか片付けてみようかと試みた。

 が、何を何処に仕舞えばいいのか分からず、一向に片付かない。 

 気がつけば外は真っ暗になっていた。

 時計を見れば、いつもならとっくにご飯は食べ終わっている時間だった。

 俺は一度散らかった部屋を見つめ……やはり、問題を後回しにしてファミレスへ向かったのだった。


「ず〜……ずずっ……あ〜」

 気がつかないうちにコーヒーを飲みきってしまっていたらしい。

 空になったグラスをテーブルに置いた丁度そのとき、横から声をかけられた。

「なんか、これでもかってぐらい哀愁漂ってるな」

「哀愁? 違う。これは絶望だよ」

 俺は向かいに腰掛けた今岡の言葉を訂正する。

「……絶望? つーか、何だよ? こんな時間に呼び出して」

 そうなのだ。

 俺はここに来る途中で今岡に電話して呼び出していたのだ。

「あ〜……なんて言うかさ」

「もしかしてアリサさんが帰ってきたとか……ってのは無いよな。その顔じゃ……」

 もしそうなってたとしたら、別の意味でこんな顔になってるかもしれないけどな……とは、さすがに今岡には言えない。

「実はさ――」

 俺は今日の出来事を今岡に語って聞かせた。

 それを聞いた今岡の反応は、

「お前……そんなんでよく一人暮らししようなんて思ったな」

 果てしなく呆れ顔だった。

 いやまあ、その反応も分かるよ。自分で散らかして片付けられなくなったなんて……。

 でも、そもそも自分からしたいって言って始めた一人暮らしじゃないし……。

「でもさ……今回は仕方なかったんだよ」

 そうでもしなきゃ大切なものは見つけられなかったし。

「じゃあお前、それがなかったらキレイに生活出来てたと?」

「それは……わからないけど」

 前の家もそんなに綺麗じゃなかったし、自信はあんまりない。

「そもそもさ、なんでアリサさんはお前んちに住んでんだ?」

 と、今岡が訊いてきた。

 そういえば……ちゃんと話したことなかったっけ。

「それは……」

「それは?」

 俺は父さんと別れてアリサさんに出会うまでのことを話した。

「へぇ〜。てことは、お前もアリサさんがお前に仕える詳しい事情は知らないと?」

「ああ、義母さんに頼まれたってことぐらいか」

 今岡に話してて分かったことがある。

 いや、分かってはいたことだけど、口にすることで改めて気がついたというか。

 ……四ヶ月も一緒に暮らしてたのに、俺はアリサさんのことを何も知らない。

 名前と年齢……とんでもなく美人で有能。それと一癖も二癖もある性格。

 それぐらいしか知らないのだった。

「なんだよ、それ。それってホントにただの他人みたいじゃねーか。もっとこう、なんつーかもっと前からの付き合いかと思ってたぜ」

 そんな今岡の言葉に疑問を感じる。

「……なんでそう思ったんだ?」 

 俺は感じた疑問をそのままぶつけてみた。

「なんでって……そりゃあ、お前のこと心配したり――」

「ち、ちょっと待って! 心配って……アリサさんが?」

 何を言ってるんだコイツは。

「へ? ああ、お前が学校でどうしてるかとか良く訊かれたぜ?」

「そ、そうなのか?」

「ああ、お前のこと宜しくって頼まれたし」

「そんなこと頼まれたたのか!?」

 初耳だぞ。

「あれは確か……二度目にお前んちに行ったときだな。お前が知り合いのいない土地で独りになるのが心配だからって」

「そ、それで……いつも俺に話しかけてきてたのか?」

「まあ最初はな。お前と仲良くなればアリサさんにも近づけるし」

「……そ、そうなのか」

「ま、今では普通に友達だと思ってるけどな」

 そんなことを当然とばかりに恥ずかしげもなく言う今岡。

「…………」

「何、赤くなってんだよ……キメェな」

「キ、キメェとか言うなよ! お前が恥ずかしいセリフ言うからだろ!?」

「はは、怒んなよ。ま、そういう訳だから、アリサさんはお前のことちゃんと想って考えてくれてたと思うぜ」

「そ、そう……なのか?」

 アリサさんが俺のことを……心配していた?

「そうだろ。お前のことも良く知ってたみたいだから、それで付き合い長いのかと思ったんだけどな」  

なるほど、そういうことか。

 俺はアリサさんのことを知らないけど、

「確かに……アリサさんには何でも知られてるとは思ってた」

「そうなのか?」

「うん。あの人には隠し事できないし……なんかなんでも知ってる感じがするんだよ」

 全て見透かされてるって言うのかな、俺よりも俺のことを知ってそうというか。

 ……つーか多分本当にそうだと思う。

「まあアリサさんは有能そうだもんな」

「有能……」

 そんな言葉で片付けていいものじゃない気もする。

「とにかく、メイドとして主人であるお前のことは良く考えてくれてたんだろ」

「そう……なのかな」

 まあ、そうなんだろうな。

「そのアリサさんがいなくなるって相当なことだと思うんだ。ホントに心当たりはないのか?」

「ないことも……ない」

 恐らく可能性が高いのはあれだ。部屋を覗いちゃった(本当は全く見えなかったけど)事件だ。

 あれがあった次の日にいなくなったんだし。

 あのことを話すとなると俺とアリサさんの戦いのことも話したほうが良いのか? でも、それを話すとなるとアリサさんの本性にも触れなくてはいけない。それは今岡のアリサさんに対するイメージを壊してしまうことになる。

 …………。

 まぁ、いいか。

「あのさ、実はアリサさんって――」

 そして俺はアリサさんと出会って、アリサさんが出て行くまでの、俺とアリサさんの戦いの記憶を今岡に話すのだった。


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