村攻防戦その1
……は?
王国騎士団に襲われている、だと……?
とても、とても信じられなかった。王国騎士団といえば、今さっき覚めたばかりの俺ですら分かる。国民を守るために作られた騎士団ではないのか?
「……どういうこと、だよ?」
言い方は大丈夫だっただろうかと、不安になりつつも、妹(仮)をどう返答するのか黙って見つめる。
「どういうことって……説明のしようがないよ……ただ、私たちは、王国側がなにか私たちを目の敵にするようなことをした。それしか考えられないよ」
そう返答するものだから、美幼女にしては頭が良すぎるのではないか?と、疑ってしまう。
「そんなことってあるのか?普通に暮らしてれば、フツーに起きることはないだろう」
「そう、フツーに暮らしてれば……ね。誰かが、何かを謝ってやらかしたのかもしれない。けれど、そんな事を考えている暇って、今の私たちにあるの……かな……」
「体格にしては、随分と知性があるものだ。そうだな、俺たちにできること……あるのか……?」
妹(仮)だけが俺の隣にいて、生きているということにずっと引っかかっていたのだ。なにも不自然なことなく、質問をしたという意図を感じさせないように言ってみたのだ。
「お兄ちゃん……忘れたの……?今日、あなたの誕生日で、お父さんが、あなたにそれを渡したことを」
恐る恐る、妹(仮)は俺の腰に指を指した。俺も、それに従い腰に目をやる。たしかに、なんか腰が結構重いなとは感じていた。それが確信へと繋がった瞬間、俺には希望、光。それらが見えたようだった。
「ふっ……。なるほどな、小さいくせに頭回りすぎてるのは気がかりだが、俺の腰にあるこの、剣……。もしかして、今日、こうなることを父は悟ったのかもな」
知るはずもないのに、なぜか口が勝手にそう動く。この世界は、不思議だ。
「多分、ね……。わざわざ誕生日の贈り物に剣を選ぶんだもの。受けるよね」
「ああ。だがこれで、俺のやるべきことは見つかった」
「私の分は?」
そう言われた俺は、にぃっと、不気味に思えるかもしれない不自然な笑みで返し、口を開く。
「おまえは、どこか見つかりにくい物陰で待っていろ。聞こえるだろ?大人たちの、騎士団と戦っているもの達の声が」
妹(仮)は、耳をすまして、そして、涙を流した。なぜなら、その声というのは。
「うん……。聞こえるよ。たくさんの、みんなの、悲鳴が」
「おまえにだけは、死なれたくない。俺の両親がどうなったかも知りたくない。今は、今だけは、生きることだけを考えろ」
そう言った俺は、妹に背中を向け、村へと走り出した。
目の前の村の入り口の門には、こう書かれている。 「Welcome」
――――――――――――――
一人の玉座のようなものに座る巨漢の男は、そっと立ち上がる。
「随分とまぁ、手こずってるじゃねぇか。こんなショボイ村ひとつ落とせずして、なにが下克上だよこの、くそ馬鹿野郎が」
男の前には、わなわな震えながら土下座をしている、一人の小柄で若い男性がいる。その姿は、王国の誇る騎士と言えるものではない。まるで、なにかに怯える赤ちゃんのようだ。
「大変……申し訳、ございませんでしたァァァァ!!!」
力いっぱいに声を振り絞る。
「甘い考えをしているからそうなるんだ。こんな小さな村ではあるが、魔物も頻繁に付近に現れる。だからこその、この村独自に鍛えられた衛兵がいる。それすら分からなかったのか?」
怯えながらも、少年は反抗する。
「し、知るはずがありません……。なぜなら、我が君が、『おい、この村を落とす。落とす前の見学等はいらぬ。こんなちっぽけな村なら、いとも容易く落とせるであろう』と。だからこそ、私たちは信じて村を焼くなりなんなりして落とそうと試みたじゃないですか」
すると、我が君と言われた巨漢の男はこう言った。
「馬鹿めが!それは俺の場合であると、どうして気づけぬ!たしかにお前らにはそう言ったが。言った意図としては、俺にはそれだけの実力がある。だからこそ、お前らはやれることをやってから俺についてこいということだったのに……全く、お前らはなにを考えたらそうなるんだ」
巨漢の男は徐々に少年へと近づいていく、そして、持っているこんぼうを、頭へと叩きつけたのだった。
――――――――――
村に着いたソウマは、ひたすら走り回る。様々な悲鳴を嫌ほど聞きながら。すると、ふと目に映るのがあった。
「あれは……。敵の、銃撃部隊か?」
目の先には、物陰に隠れて銃を構える男が二人いた。
「これは、貢献できそうな気がしてきた」
ソウマは、剣をそっと引き抜き、力いっぱいに走り出す。50メートル程度先にいる敵に、静かに走りながら近づいた。
(たしか、俺の読みに読みまくったラノベの中にはこうあった。『敵の背後から攻撃する時は、静かに、悟られぬようにせよ』と。)
そして、そーっと近づいた俺は、剣を、左側の。そう、俺の目の前にいる男の首を横に斬り裂いた。プシューっと、斬り裂かれたその首から血がふきでる。
「……?」
当然、そうなる。隣に構えていた男は突然こちらを見るなり、すぐに銃を構える。
「き、貴様!新手の助っ人か!?」
銃を持つその腕は震えていた。
そんなに怖いならここに来なければよかったじゃねぇか……。
そう思っていると、男性は銃を思いっきり後ろにしたかとおもうと、いっきに振り下ろしてきた。
「っ……。危ねぇ」
俺はそれを、剣で弾いてそのまま腹に突き刺す。そこから少しずつ、流れる量が増える血を眺めていた。すると、いきなり銃音がした。
ドスッ。
重い音が、俺の足からしたのである。
「なん……だとぉ」
これが、人を殺した者への罰か。そう思い、静かに目を閉じようとしたところへ、またもや聞き覚えのある声が引き止めた。
「大丈夫か、ソウマ!銃音がしたから、近づいてみたら……なんで、おまえがいるんだよ」
俺の友達なのだろうか。気安く声をかけてくるそいつの胸にはキラキラ輝く金色のバッジがある。
「悪い。俺だって、この村を見捨てたくはないんだ」
勝手にとは言えないが、俺の口からそんなセリフが生まれた。なぜだろう。
「ばか!……ったく。おまえは、なんでいつもそうなんだよ」
そう言いながら、友人A(仮)は、俺の肩に手を置く。
「良いか、よく聞け。今の状況は理解しているな?銃弾を撃たれ、ハァハァしてるお前なら分かっているだろうが、今、この村は騎士団に襲われた。だからこうして、俺たち衛兵隊が奮闘している。お前が力を貸してくれるのはありがたいことだ。だがな、必ず、生きろ」
「なんだ、それだけか」
「何だって、どういうことだよ?」
「なぜだかわからんが、確信しているんだ。俺は生きると。そして、この村を襲った害児を殺せると」
そう言って、俺は銃を撃ってきたやつのいる、展望台目掛けて走った