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護衛が王女(わたし)の命を狙う暗殺者なんですが  作者: 遠山京
第一章 命の対価はベッドの上で

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エピローグ2

「イベリス第二王女殿下、お忙しいところにお訪ねして申し訳ございません」



私の宮にある応接間で待っていたセロシア様は、こちらの姿を認めてすぐ立ち上がりそう言った。

身支度をするのに三十分ほどお待たせしてしまったと言うのに、にこやかだ。

先触れなしに来たのだから、待たされるのは想定内だったんだろうけど。



「いえ……私よりもセロシア様の方がお忙しいでしょうに」



そう答えながら向かいに腰かけ、セロシア様にも着席を促す。



「色々とお世話になっておきながら、ろくなご挨拶もできないままで……本当にありがとうございました」


「いえ、事態が事態でしたし……我が家は国王陛下の御命により、イベリス第二王女殿下をお守りしていただけですから。その褒賞に関しても陛下より賜っておりますのでお気遣いなく」



にっこりと。

だけど言葉の端々に棘を感じるのは私が気にしすぎなんだろうか。

冷や汗が噴き出る。

いや、私が流されるままに公爵邸に行ったせいでセロシア様のことを振り回したのだから、多少の嫌味は仕方ない。

私が王女としてしっかり地盤を固めていれば、そもそも暗殺事件だって起きなかったかもしれないんだし。

きちんと謝罪はすべきだ。

王族が簡単に頭を下げるべきでは無いと言うことは知っているけれど、通すべき筋というものはある。



「私の未熟のせいで、ご迷惑をおかけしました」


「何のことでしょうか?」


「……いえ、ですから」


「イベリス第二王女殿下、頭をお上げください」



毅然とした声でそう言われては、頭を上げるしかない。

閉口する私に、セロシア様は小さな笑い声をあげた。



「申し訳ありません。困らせるつもりではなかったのですが」


「……」


「貴女には何の恨みもありませんが、やはり()る国の王子殿下には思うところがありましてね。散々いいようにされていますので。つい態度に出てしまったようです」


「それは……」



もう一回頭を下げたくなってきた。



「本題に入りましょうか。本日お訪ねしたのは、会っていただきたい人がいるからです」


「会っていただきたい人?」



そうしてセロシア様が連れてきた人物を見て……私はしばらく口を開けて凍り付いたのだった。







「何でなの」


「何がです?」



深夜。

王宮にある、私の寝室。

その扉の傍に控える少年の姿を見て、私は頭を抱えた。

黒い髪、緑の瞳。

寝室のドアの傍が定位置になった、その少年の姿。



「何で!また護衛に戻ってんのよ!」



マーヤ達が居る間は言えなかったツッコミを全力で投じるも、私の恋人……のはずである少年?はどこ吹く風だった。



「セロシア公子の計らいによりイベリス姫と和解したので」


「っていう体なのはもういいのよ!」


「カトレア姫や王妃はもう手出しできないでしょうが、王妃派閥の人間の処理がまだ完全には終わっていません。暗殺ギルドは手を引くはずですが傭兵ギルドにもそういった仕事を請け負う人間もいないわけではありませんし、子飼いの隠密を使ってくる可能性もあります。イベリス姫には今後も護衛が必要ですよ」


「そういうことでもないのよ!」



私だってまだ危険があることは分かっている。

だから今夜にでも父王に時間を貰って、改めて近衛をつけてほしいと打診するつもりだったのだ。

それなのに先んじてやってきたのがこの少年護衛だ。

セロシア様を使ってまで、また潜り込んできた。

あの優しい公子が嫌味の一つも言いたくなるはずだ。

どの面下げて、仲立ちを頼んだのだろうか。

多分今みたいな顔してたんだろうけど!



「イベリス姫はまだ屈強な男性たちに取り囲まれると怖いということですから。僕のような護衛が必要でしょう?」



私の内心が大暴れしているのに反して、しれっとそう宣う少年はたいそう機嫌が良さそうだった。



「もう怖くないのに!」


「はは、知ってますよ。そういうことにしておいてください。僕がそばに居られなくなるでしょう?」



その口ぶりに、力が抜ける。



「……迎えに来てくれるんだと思ったのに」


「はい?」



キョトンとしたような声と表情が返ってくる。

聞こえなかったわけではないのだろう。

ただ、何を言っているのか分からないと言うようなそぶりだ。

思わず睨みつけてしまう。



「王子様として!迎えに来てくれるのかと思ったのよ!」



いや、だって普通そうでしょう!?

私は王女で、ただの護衛なんて立場の人間とは結ばれ得ない。

そんな中で、全てを解決するかのように竜胆国の王子様という身分を勝ち取って来てくれたのだ。

我が国の立場上、私を嫁がせるのは難しい。

竜胆国に下ったと誤解されるおそれがあるからだ。

だけど逆に竜胆国の王子が婿としてやって来るならば、国王は諸手を上げて賛成する。

形だけでも竜胆国のつながりができ、自国が多少優位に立てるのだから何も問題は無い。

アルが掴み取った王子の立場はそれくらい、私の悩みを吹き飛ばす力を持つものだった。


それなのに。



「……なんで、また護衛なの」



膝に顔を伏せると、いつの間に近くに来ていたのやら、頭にふわりと手を乗せられる。



「……僕に、王子として求婚してほしかったんですか?」


「そのつもりなんて無かったってこと?」



なんだか泣きそうな声になってしまった。

それに慌てたのか、ぎゅっと抱きしめられる。



「すみません、発想にありませんでした」


「……ええー……」



発想にすら?



「あの場でセロシア公子を引き下がらせる肩書が欲しかっただけなので」


「竜胆国にわざわざ乗り込んでおきながら、一時しのぎのつもりだったの?」


「考えてもみてください。僕に王子なんて務まるとでも?」


「……いや、それは」



今更って言うか。



「まあ、竜胆国からは国の中枢に入ってほしい、なんなら国王として立ってもいいとは言われてるんですが」


「何でそこまで言われるようになってんの……」



ほんの少し離れてた間に何をしてきたんだ、この男は。



「竜胆国は武力を重んじるんですよ。あの国の国王に当たるショーグンという立場の人の寝所に忍び込んで、王子の身分が欲しいと頼んだところですね、五百人ほどの兵士たちに取り囲まれまして」



当たり前だ。



「全部片づけて、ショーグン本人も地に転がしてやったんですが」



……セロシア様のところの騎士二百人に囲まれるくらい、それに比べたら何でもなかったのかもしれない。

魔虎に苦戦したのは、本当に何かを守ることが苦手だったからなのか。



「するとショーグンがこう、地に頭をこすりつけるような体勢で降伏しまして」


「土下座……?」


「ああ、そういうポーズらしいですね。そのドゲザをしながら、僕の腕を大変褒めたたえてくれましたよ」



なんで闖入者に乱暴狼藉を働かれて褒めたたえるんだろうか。

強者を問答無用で迎合するってどんな脳筋国家だ。



「で、ショーグンの立場を譲ると言われたんですがそんなもの要らないので王子にしてくれと。しばらくショーグンになれとしつこかったんですが、額に十字傷を刻んでやったらようやく大人しくなりまして」



困ったと言わんばかりの語り口をしているけれど、やっていることは完全なる悪者だ。

なんでこんな堂々としてるんだろう。

よく平和主義とか言えたな。



「……そこまでしておいて、王子様として迎えに来る気はなかったの?」


「……すみません。でも僕には王族なんて向いてませんよ」


「じゃあその肩書はどうするのよ」


「しょせんは形だけなので、別に公務があるわけでもありませんし」



父王やセロシア様を言いくるめるのに散々使っておきながら……

いやまあ、経緯を聞く限り、無理やり作った役職みたいなものだしね。



「……暗殺者を続けるの?」


「貴女がそれを望むならそうしますが」


「望んでると思うの?」


「まさか。貴女は僕に王子様になってほしいなんて言う人ですから」


「……」



馬鹿にされている気がする。



「貴女の護衛になります。これが僕の新しい生き方なんです」



そう満足げな表情で言われてしまうと、拒否する気になれない。



「守るのは得意ではありませんが、これから練習します。まだ若い事ですし、今からでも技術を磨きますよ」


「発言はおっさんっぽい」


「仕方ありません。中身はいい歳ですから」



そう言って、青い瞳が微笑む。



「……今更おっさんだから嫌だと言われても手放しませんよ?」


「中身おっさんだってこと以前のハードルが多すぎてそこはもうどうでもいいわよ……」



ぐったりとベッドに倒れ込むと、当然のように少年までその隣に滑り込んでくる。



「……ベッドに上がることは無いって言ってたのに」


「初恋の君になってしまったのですから仕方ありません」


「……初恋じゃないでしょ」



前世の大恋愛の話を私は知っている。

思わずそんな可愛くないことを返してしまったけれど、アルは心底楽し気に笑った。



「貴女にやきもちをやかれるのは悪くないですね」


「あのね」


「今世では初恋なんです。前世を含めたって何十年ぶりだかわかりません」


「…………」


「そもそも隣国まで行って王子の肩書をもぎ取ってくるほど愛してるんです。ここまで僕を動かすのは貴女だけですよ。信じてください」



額にそっとキスを落とされて、思わず唇を引き結んだ。



「……アルは私とどうなりたいのよ」



こんなに甘い雰囲気なのに、全く結婚のことなんて考えてなさそうだ。

唇を尖らせる私を見てアルは苦笑した。



「貴女は王女であるべきです。平民の生活なんて似合いません。察するに、貴女は前世でもそう悪くない生活をしていた人でしょう。衣食住のどれにも困ったことがない。違いますか?」


「……違わない」



それは私も考えていたことだ。

この世界の平民の生活レベルは、多分私には辛い。

思い返してみれば、前世の生活は今の王侯貴族と変わらないくらい贅沢なものだった。



「だから僕はずっと貴女の傍にいて、貴女の平穏な生活を守っていきます」


「……私がどこかに嫁ぐってなったらどうするの?」



今の国王は、竜胆国の王子との縁談を考えていることだろう。

それもあってセロシア様との話を白紙に戻したのだ。

しかし王子からの音沙汰がこれっきり無くなったとなれば、再び私の相手を探し始めるはず。

けれどそれでも、アルは笑みを崩さない。



「貴女を縁談からも守りますよ」


「一生独り身でいろってことぉ!?」


「ご不満ですか?」


「ご不満ですが!?」


「そうですか……じゃあちょっと何か考えておきますね」


「軽い……」



結婚の話をちょっと考えておくって……

私、選ぶ人を間違えただろうか。

今更後悔が頭をよぎる私を、少年の体がぎゅっと抱きしめる。



「愛してますよ、イベリス姫」


「…………」


「本当ですよ?」


「…………」


「貴女が他の誰かになびくことがあれば殺してしまおうと考えている程度には愛してます」


「重い……」



バランスがおかしいのよ、バランスが。



「大丈夫です。飽きられないように工夫はしますし、できる限りイベリス姫の趣味にも合わせますから」


「……なんでネグリジェのリボンを解いてるのかしら?」


「体力にも自信がありますので」


「何の話をしているの?」


「一晩中でもお付き合いします」


「だから何の話を……ちょっと待って!」


「なるほど、脱ぐのはここまでと。まあ確かに全裸よりそそるものがありますね」


「そうじゃないわよ!ちょっと黙んなさい!」


「そういうプレイですか?わかりました、黙ります」


「もう!馬鹿!」



こうして結局、王子様が迎えに来てくれるなんて夢物語みたいな結末は無く。

私はおかしな護衛の少年に振り回され続け……

なんとか手綱を握って首輪をつけ、最後に指輪をはめるまで至るのに、あと五年の歳月を要するのだった。

ここまでご覧いただき有難うございました!


もともと私は好きになっちゃダメな男

(友達から相談されたら「やめときなよそんな男…」と言いたくなるような男)

を好きになっちゃって、でもなんだかんだで愛されて幸せ的なお話が好きです。

もう一つの連載の方では割とまともな主人公達を書いているのもあり、なんだか無性にこういうお話を書きたくなって始めたのがこちらでした。


割と小話を挟んでお話を長くしてしまいがちなので、今回はエピソードを必要最低限に、そして暗いシーンは手短に!を目標に書いていましたが、いかがでしたでしょうか?

ちょっと駆け足気味になってしまった気もしますが、これくらいの方が読みやすいのかなという気もします。


これからもイベリスはアルに振り回され、お互いの倫理観のすり合わせに苦労しながらやっていくのだと思います。

まだ竜胆国の王子様(笑)のお家騒動のお話だとか、結婚に至るまでのすったもんだは頭にあるのですが、ひとまずこれにて完結とさせていただきたいと思います。

趣味に走りすぎてあんまり需要なさそうなお話でしたが、ここまでお付き合いくださった方、ブックマークや評価をつけて応援してくださった方々、本当に有難うございました!

また他の作品でお会いできると嬉しいです。


遠山京

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