15 あんな男とこんな男
セロシア・ガーネットという人は、まさしく王子様のような人だ。
実際には王子ではなく次期公爵であり、むしろ私が王女様なんだけど。
物腰は柔らかく、金髪碧眼の美男子。
さらには頭もよく、剣の腕もなかなかだという。
私が知らないだけで、実はここ漫画か何かの世界で、セロシア様は主人公だと言われたら納得できるほどのハイスペックぶり。
乙女ゲーなら間違いなくメインヒーローだろう。
年は私の一つ上で十七歳。
この国では十八が成人であり、セロシア様は半年後に成人する。
それまでに婚約者を決めようというのが今回の動きだった。
ガーネット公爵は王家筋の人なので、セロシア様は私にとって遠い親戚。
具体的な関係性はちょっとややこしくて覚えてないけど。
いとこよりは何親等か遠かった気がする。
そんな血筋も申し分なく、容姿も人柄も良いとくればカトレアが夢中になるのも分かる。
私だって命がかかっていなければ素直にキャーキャーしただろう。
以前何度か会った時にはとても親切で気が利く、優しい人だった。
この手のタイプは漫画とかなら実は腹黒だったりするけど、まさかそんな漫画やラノベの展開がいくつも転がっていたりはしないだろう。
王女の頼みでもあるわけだし、きっと彼なら力を貸してくれるはず。
「で、セロシア公子に会って、どうするって言いました?」
「だから、正直に話してカトレアを説得してもらうのよ」
揺れる馬車の中、アルは大きなため息をついた。
このやり取りは既に二回目だ。
私はあの後トラインに頼み、セロシア様に手紙を出してもらった。
ちょうど手が空いていたそうで、翌日には会いに行けることになった。
もちろんそれを知ったカトレアは自分も一緒に行くだの祝いは嘘だったのかだのごねまくり、その婚約辞退の話をしに行くのだと教えても納得せず散々嫌味をまき散らしてくれたけど。
出かける前からぐったりだ。
馬車には私とアルの二人だけ。
本当はマーヤも連れていくべきなんだろうけど、この前の泉行きで疲れていたようなので留守番させることにした。
お供無しは外聞が悪いと言われたが、アルを連れて行くからいいだろう。
王女としてお供が少なすぎるのは今更だ。
馬車の外には騎士もついている。
敷地内に騎士を連れて行くのは失礼なので外で待っていてもらうことになるけれど。
とにかく、二人だけのおかげで馬車の中では気兼ねなくカトレアの話ができているが、アルの反応は芳しくない。
やたらとガーネット公爵家行きを反対したので、まだ体調が悪いなら待っていていいと言ったんだけど、絶対についていくと言ってきかなかった。
体調のせいじゃないなら何をそんなに嫌がっているのか。
やっぱり、セロシア様に頼まれると解決しちゃいそうで、暗殺者として嫌なんだろうか。
「……イベリス姫、僕が反対しているのは、暗殺阻止に効果的だからだとか思ってませんか?」
「え」
違うの。
アルは残念な子を見るような目をした。
「自分はカトレアに命を狙われているのでやめさせてください、なんて言って本当に解決すると思ってるんですか?カトレア姫がますます怒り狂いますよ」
「だから、カトレアを婚約者として選んでもらうように頼むわ。その上で暗殺なんてやめなさいってセロシア様から言ってもらえば渋々でも言うことを聞くんじゃない?」
「暗殺をたくらむような娘を嫁に貰ってくれとはずいぶん強気な交渉ですね」
「でもカトレアが態度悪いのって私がらみだけよ。お嫁に行ったら大人しくなるんじゃないかしら。大好きなセロシア様のお嫁さんとして良い子にしてると思うわ」
あれで猫を被ったら可愛らしいんだ。
私に対して被る猫は持ち合わせていないようだけど。
そんな返事に、アルはまた大きくため息をつく。
「会わない方がいいと思いますけどね」
「何でよ」
「……」
まただんまりだ。
やっぱり自分の依頼が取り下げられそうなのが不満なのだとしか思えない。
そこまで私のことを殺したい?
そう考えると、ずんと気分が重くなる。
結局私とアルは暗殺者とそのターゲット。
私情を挟まれたら挟まれたで命の危険がある。
どうしても越えられない溝が、そこにはあった。
◆
「面白いご冗談ですね」
私の頼みの綱、心優しいはずのセロシア様は笑顔でそう言った。
「えっ……」
天気がいいので、と東屋に用意されたティーセット。
言葉を失う私、笑顔のセロシア様。
沈黙の中、小鳥の鳴き声だけが響く。
今、なんて?
私の状況を伝えて、その反応?
「あ、あの。信じられないお話かと思いますが本当で」
「ああ、お話を疑っているわけではありませんよ」
被せるように訂正された。
嘘だと思われたわけでは無いらしい。
またも言葉に詰まる私に、セロシア様は困ったように眉を下げる。
「イベリス第二王女殿下。私も人間です。暗殺を企てるような女性を伴侶にしたくはありません。公爵家にとってもプラスになるとは思えませんし」
「……」
ド正論だった。
何も反論が思い浮かばないほどに。
私はただただ、セロシア様の親切心頼みでここまでやって来ていた。
現代で警察に駆け込むかのごとく。
それがどれだけ甘い考えだったのか、今更思い知る。
「申し訳ありません、セロシア様。さきほどの話は冗談です。カトレアはとても良い子で私とは仲が良く」
「過去二度起きた事件のことは聞き及んでおりますよ。カトレア第三王女殿下が、貴女のことをどう思っているのかも、当然知っています」
にっこり微笑まれる。
……ああ、浅い付き合いをしていた時には分からなかった。
この人、ただの良い人じゃない。
腹黒かどうかはともかく、困った人に無償で手を伸ばす聖者では無いことは確かなようだ。
いや、普通そうだよね。
そんな人助けが趣味みたいな人間こそ漫画みたいだ。
アルが呆れるのも当然だった。
「そんな絶望した顔をなさらないでください。何も手を貸さないと言っているわけではないのですから」
セロシア様の一言に、顔を上げる。
「つまり、まだ一人暗殺者が残っていて、あと十日もしないうちに殺しに来ると予告を受けている。イベリス第二王女殿下はそれが気がかりであると」
「そうです」
「ではその一人は私が何とかしましょう」
「え?」
さらさらの金髪を風に揺らし、セロシア様は眩しい笑みを浮かべる。
「どうぞ、すぐに公爵邸へ住まいをお移し下さい。貴女を守るとお約束します」
「それは……」
目を見開く。
公爵邸に住む。
それはつまり……
「ええ。貴女が私の婚約者となってくださるのなら、私は全力で貴女をお守りしますよ」
思いがけない話に、呼吸を忘れる。
私が、セロシア様と婚約。
ずっとカトレアの反感を買わないよう、彼女とセロシア様が婚約することしか考えていなかったから、完全に予想外だ。
目の前で美男子が微笑んでいる。
社交界でも多くのご令嬢が憧れの眼差しで見つめるこの人と、私が婚約?
「……期間限定とか?」
「私はもうじき成人するんです。期間を限定して次の婚約者を探している暇などありません」
「仮面夫婦とか」
「王女殿下をお迎えしてそれはあり得ません。我が家の女主人として振舞っていただきたいですし、私もそのように貴女を大切にするつもりです。できれば愛のある関係を築きたいと思っていますよ」
ポカンとしている私に、セロシア様は困ったように溜息をついた。
「ご理解いただけていないようですから、はっきり申し上げましょう。私は昔から、イベリス第二王女殿下をお慕いしていました」
予想外。
「ど、どうして」
「顔です」
「顔かぁ」
正直すぎないか。
思わず素の声が漏れた。
セロシア様は苦笑する。
「と、いうのは冗談です。もちろんお美しいと思っていますが、どこがどういう風に、と語れるほど私は貴女のことを知りません」
「……そう、ですよね」
何度か会ったことはあるけれど、私だってセロシア様のことは表面しか知らなかった。
第一印象"イケメン"なのだから、向こうだって"美少女"くらいにしか思っていなかっただろう。
冗談だとは言ったけど、顔が気に入ったのはそこそこ本音だと思う。
「ただ、僕は幼いころから王女殿下の中のどなたかと結婚すると聞かされてきていました。公爵家は王家の傍流として地位を保っていますから、何代かに一度は王家の血を入れなければいけない。私がその代だと。そう聞いていれば、王女殿下達のことは初めからそういう対象としてみます。そんな中で、うまくやっていけそうだと思ったのが貴女でした」
思ったより真面目な話だった。
確かにガーネット家は王家の血を必要としている。
「少し内向的なのが心配でしたが、今の貴女を見ているとそれも杞憂なようです」
「……」
なんせ中身がリニューアルしてますので。
「いかがですか?悪い話では無いと思うのですが」
「この場で決める話では無いでしょう」
そう口を挟んだのは、アルだった。
私の背後で大人しく立っていたはずの少年を振り返ると、無表情で私を見ている。
……なんで、目が少し青くなっているのか。
少し離れた場所に座っているセロシア様には気付かれていないと思うけれど、ちょっと最近、殺意ダダ漏れすぎじゃない?
「彼は?」
「臨時の護衛です」
「ああ、なるほど。今回の件があったせいですか。近衛隊は解体されたと聞きましたし……」
そう言いながら、セロシア様は首を傾げる。
「……この少年で足りていますか?」
「……実は、近衛隊の再編を考えようかと」
アルにも話していないことだ。
少し気まずい思いで口にする。
しかし隠して居たってそのうち気付かれることだし。
いや、もしかして再編される前にって考えて今夜にでも殺されちゃうかな。
しくじった?
青くなる私に反して、セロシア様は嬉しそうに笑った。
「それは良かった。もしや男が苦手になってしまわれたのではと心配していたのですが」
「……」
ひょっとして例の事件も知っているのだろうか。
思わず唇を噤む。
「僕が触れると困りますか?」
言葉に窮していると、さらに窮する言葉を寄こされた。
滑らかなセロシア様の手が私の頬に伸ばされる。
自慢じゃないが私は男性経験に乏しい。
こんな時どうするのが正解なのよ……!?
「あのっ……」
「イベリス姫、そろそろ戻らねばならない時間では?」
そんな私を見かねたように、アルから助け船が出た。
「そ、そうだったわね!セロシア様、お忙しい中有難うございました!」
そうお礼を告げるも、セロシア様は私を見ていない。
アルの本当の目より明るい、朝の空のような色の瞳が、私の背後を冷たく見ている。
初めて見る表情だ。
え、何?こわ。
私の視線に気付いたように、その表情を綻ばせたけれど私は心臓がキュッとなったままだった。
「玄関までエスコートいたします」
「あ、ありがとうございます」
そうして差し出された手を取った瞬間、やんわりとそのまま引っ張られる。
「ひゃっ!?」
「……失礼」
細そうに見えても男性らしく、バランスを崩した私の体をセロシア様はあっさり抱き留めた。
そして耳元でささやかれる。
「あの少年は、あまり傍に置かない方がよろしいかと」
……知ってる。
だって彼こそが最後の暗殺者なんだもん。
しかしまさかそう返すわけにもいかず、引きつった笑いを返すしかなかった。
◆
帰りの馬車の中、私は固まっていた。
向かいに座っているアルが、完全に青い目に変わっていたからだ。
ただし、その目は私を見ていない。
ふてくされたように窓の外を見つめている。
「……あの」
「何ですか」
「さっきは、助け舟有難う?」
お礼を言って和やかなムードを作ろうと思ったのに、その瞳は青いまま。
むしろ鋭い視線が私に向けられた。
「お邪魔でした?」
「そ、そんなこと言ってない」
「婚約、受けるんですか?」
「分かんないよ。アルだってその場で決めることじゃないって言ってたじゃない」
何で私が詰問されているのか。
タジタジになりながら返事をすると、大きなため息が聞こえた。
どうして怒っているのか。
心当たりは……無いわけがない。
理由はいくつも思い浮かぶ。
アルの言うことを聞かずにセロシア様に突撃し、案の定私の提案は却下されたこと。
近衛隊の再編を考えていること。
……いずれも、アルを遠ざけようとしての行動であること。
多分アルは以前言っていた通り、私のことをそれなりに気に入っている。
暗殺者としても個人としても、私を殺したいのなら……
きっと彼にとっては不都合だ。
私の奮闘が気に食わなくても仕方がない。
「……そうですね。その場で安請け合いするような話ではありませんよ」
「分かってるわよ……」
そう言葉を交わしたっきり、またアルは黙り込む。
部屋に戻ってからも、彼の機嫌は治らなかった。
馬車の中で殺されなかっただけマシなんだろうか。
瞳の色こそ緑に戻ったけれど、言動はあからさまに冷たいままだ。
「ガーネット公爵家で何かあったのですか?」
マーヤが訝し気に聞いてくる。
私に怪我が無いかも、やたらとチェックされた。
以前にアルがこんな感じになったのは、私が負傷した時だったからだろう。
その問いかけになんて答えたものか困り果て、壁際に控えたままの少年に視線をやる。
「……アル」
「何ですか」
翡翠の瞳が、こちらを見ない。
子供みたいだ。
中身が大人だと言うのなら、どうしてもっとスマートに振舞ってくれないの。
暗殺者だって言うのなら、もっと感情なんか押し殺してほしい。
そうしたら私だって……
「マーヤ、少し二人にしてくれない?」
馬鹿なことを言った。
マーヤが部屋を出て、扉が閉まった瞬間に我に返った。
いつ私を殺すともしれない暗殺者。
馬車では殺されなかったけれど、今が最後のチャンスだとナイフを向けられてもおかしくない。
なのに。
「何です?僕を懐柔する気になったんですか?」
私と目を合わせない少年の姿が悲しくて悔しくて、それを何とかする為だけに、こんな。
「そうじゃないわよ……」
なんだか泣きそうな心地でそう言った。
「……な、なんで泣いてるんですか」
私の震える声を聞いたせいだろうか。
ようやく視線をこちらに向けてくれた見た少年が、瞳に青をちらつかせて狼狽える。
「まだ泣いてないわ」
「まだって……何で泣きそうなんですか」
「アルの機嫌が悪いから困ってるんじゃないの!」
駆け引きも何もあったものじゃない、ストレートに不満をぶつけると、青い瞳は丸くなった。
「機嫌が悪い?」
「そうじゃなかったら何なのよ!」
自棄になってそう冷たく言い放つ。
「……そう、ですね。たぶん今、すごく不愉快なんだと思います」
私の指摘に鼻白んだ後、アルは腑に落ちたような言葉と共に、顔をしかめて見せる。
……何が不愉快なのか、と聞いたところで、私はその回答にうまく返事をできるだろうか。
私達の関係は、命のやり取りを伴う。
そうである以上は、あまり腹を割って話しすぎても辛いだけ。
だから私は距離を取ろうと思った。
僅かに芽生えかけた感情に蓋をした。
こんな重たすぎる男、恋愛経験の浅い私では手に負えない。
それなのに、何で人生経験豊富なはずのあちらまで、私の言葉に振り回されているみたいな。
自分の感情に戸惑うようなそぶりを見せるんだろうか。
近しい存在だと勘違いしてしまう。
分かり合えると誤解してしまう。
「アル」
だからその溝を忘れないために、私は口を開いていた。
「今でも私を殺したいのよね?」
しかしその問いかけは地雷だったらしい。
気付けば視界がひっくり返り、床の上に押し倒されていた。
腰と後頭部が鈍く痛む。
とっさに頭を擦ろうとしたけれど、首筋にあてられたナイフの冷たさに気付いて、息を呑んだ。
ひたひたと、小刻みに当たるその感触は、そのナイフの持ち主の手が震えていることを示している。
「……」
数秒、沈黙が落ちる。
叫び声は、あげようとすら思わなかった。
馬乗りになって震えながらナイフを私に突き付ける少年の姿は、正直スマートとは言い難い。
これがその業界でも有名だと言う暗殺者の姿なのだろうか。
まるで初めて人を殺そうとしているかのようだ。
黒い髪から覗く深い青が、何かを耐えるように細められている。
「……アル」
今度こそ殺されるのだろうか。
そう思うのに、恐怖より先に、心配が勝る。
いつか私にナイフを突きつける時、きっと彼は嬉々としてそうするんだろうと思っていた。
なのに目の前の少年の姿は、あまりに辛そうで。
躊躇わないと言っていたはずの手は、ひどく震えている。
わが身の心配より先に、目の前の暗殺者を抱きしめて宥めたいと、そう思ってしまうほどに。
けれどその手を伸ばす前に、アルは口を開いた。
その幼い体には不釣り合いなほど、低く暗い声で。
「貴女を殺したいか?酷いことを聞きますね」
酷いことなのだろうか。
それは私にとって酷いことなだけだと思っていたのに、彼にとっても……
好意を抱いている相手を殺すことは、酷いことだということなのだろうか。
「教えてあげます。ええ、殺したいですよ」
その肯定に心臓がギュッと縮んだのが分かるけれど、それが悲しいのか怖いのか、それ以外の何かなのか……もう、判断がつかない。
戸惑う私を見下ろしながら、青い瞳が泣きそうに歪む。
「殺してやりたいに決まってるじゃないですか。あんな男のところに貴女を行かせるくらいなら!」
……あんな男?
「それって……」
セロシア様のこと?
そう尋ねようとしたのに。
「んっ!?」
その唇は塞がれた。
乱暴な圧力がキスだと、気付くのに数秒かかる。
視界一杯に、青が広がっている。
なんで……
その問いを口にすることも叶わず、思わず目を閉じた。
そんなに強く押さえつけられているわけでもない。
両手だって空いたままだ。
なのに、振りほどけない。
柔らかい少年の手のひらが、頬を這い、細い指が髪を掬う。
私の喉にナイフを突きつけたままの癖に、その反対の手はどこまでも優しく私に触れていた。
その胸に手をつくことも、背に手を回すこともできないままでいると、アルはゆっくり体を起こした。
きっとそれは、一分にも満たない僅かな時間だったのだろう。
けれど私の呼吸と思考を乱すには、十分すぎた。
「……でも、貴女は行くんでしょう」
「……」
「僕から逃れられる最善の選択です。考えるまでも無い」
「アル」
私の声に応えることなく、私より小さな体が離れていく。
そのまま黙って部屋を出ていく背中に、私はもう声をかけなかった。
どんな言葉をかけたら戻って来てくれるのか、戻って来てほしいのか。
……分からなかった。
「……痛」
喉を押さえると、わずかに血が滲んでいた。
ファーストキスだったのに、あんまりだ。
そう詰りたくても、もうそこにアルは居ない。
そして、彼は姿を消した。
トラインには、『姫様を怒らせてしまったので』と言い残して城を後にしたらしい。
本当のことを言うわけにもいかず、私はそれを否定しなかった。
喉の怪我はもちろんマーヤに真っ先に見とがめられて。
何でもないと言い張る私に、マーヤは大きなため息をつき、首元を隠すようなドレスを用意してくれた。
もう何度目だか分からない、『自殺はおやめください』の言葉を聞かされた。
そしてその日の晩。
「……アル」
一人きりの寝室に、私の声が吸い込まれていく。
騎士も衛士もいない警備の手薄な私の寝室に、暗殺者は来なかった。
いつもご覧いただき有難うございます!
そろそろ終わりも近づいておりますので、近々まとめてあげてしまおうかと思ってます




