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あなたへ

作者: 世界創作学部生、たじん

ふと思いつき、描きました。

文脈が理解出来ていることを願い、

楽しんでいただければ幸いです。



たじん

思えば、こうして手紙を送るのは初めてですね。

あなたとは長い付き合いでした。何度も言葉を交わし、時にぶつかり合い、時には、長い間顔を合わせなかったこともありました。

それでも、私たちは気づけば出会い、あなたはその度に、私に言葉を投げかけるのです。

そんなあなたがいたからこそ、私はこのようにしてあなたに手紙という形で新たに言葉を交わすのかも知れません。


さて、実際に出会っていれば前口上などないのですが。少し長くなりましたね。手紙を出した本分、本文と参りましょう。


私は今、あなたのいる場所から遠く離れた場所にいます。いえ、あなたがどこにいるのかで決まりますので、本当は近くにいるのかも知れません。まあしかし、あなたに会いにいくのも時になかなか時間がかかりそうなので、こうして手紙で一つ、伝えたいことを記します。


あなたとの長い付き合いの中で、私は多くを学び、また多くを得ることが出来ました。同時に、あなたとの付き合いで失ったことも一つや二つはあるかもしれません。

本題というのはその、失ったことについてです。


私はあなたに手紙を出している。いえ、出そうということは分かっているのです。幾日か前にふとそんな思考を思え、覚えていたのです。

ですから手紙を書いているのですが、はてさて、一体何を書こうとしていたのでしょう。

何かを調べようと図書館に行き、何を調べようとしたのかを忘れた感覚なのです。

もっと正確に言えば、何かを書こうとしていたことは覚えているのです。

必死に思い出そうとしています。例えば、最近巷で騒がれた古書店の貴重な蔵書が強盗された件について世の中物騒だとか、食品の物価が高騰して生活が苦しいことへの愚痴だとか、

いえ、そんな世の不安を煽るようなことを手紙にするほど、私も不躾ではありません。それは違うだろう、では何を?と、思考しつつ一つ考えたのが、忘れたことについてでも書いてしまおうということです。

なるほどそれならば、特に悪いことも、いえ、忘れているのはあまり良くはないのかもしれませんが、何の気なしに今は出会えないあなたに手紙を送ってみるにはいい機会です。

忘れていることを開き直ったためか、筆もすいすい進みます。


と、まあ手紙の内容も結局は今際の思いつきで記しているのですが、せっかくの手紙なので、もう少しこの話題を続けて綴ります。


あなたと過ごしていて、してもらった嬉しい事は忘れられない思い出です。誕生日のお祝い、年の暮れに遊んだこと、旅行に行ったこと。

どれも皆覚えています。

ですから、あまり悪い思い出など(忘れてしまってるのですから)ありませんが、一つだけ覚えているとも忘れているとも言えない、中途半端で、それが気になって忘れられない出来事があります。


いつの事なのか、それはもう覚えていないのですが、その事が起きたことははっきりと、忘れられません。


なにか近くで事件か事故があって、それに巻き込まれたあなたは私のことを守ろうのしたのでしょう。私の体に覆いかぶさって、私を落ちてくる何かから防いでいるように見えました。

しかし、それも叶わなかったのか、はたまた偶然か、頭に何かが

ごつん

と当たったのです。とても痛く、同時に目眩が襲いました。

それから先はよく覚えていません。目が覚めたら病院に居て、私はしばらくここにお世話になっています。


しかし、なぜあなたと私はそのような事故に巻き込まれたのでしょうか。

確か、あなたは誰かと話していた気がしますが、その語勢は些か暴力的で、何やら必死でした。

出先の店の店主と諍いがあったのでしょうか。

その頃の記憶は曖昧で、あまりいい思い出ではなかったような気がします。

忘れてしまうものですね。



さて、あなたはその時のことをお返事に下さるでしょうか。それとも、私が書こうと思っていた手紙の本文を、言い当ててくれたりするのでしょうか。


と、戸を叩く音がしました。

御来客ですので、ここで失礼致します。

なんだか本当に話をしている気分です。



お返事をお待ちしております。

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