嘘つきな彼女を愛したい
「ねぇねぇ」
スマホを弄りながら、彼女は話しかける。
「ん」
僕もスマホでSNSを見ながら淡白に返す。
「いつもありがとね」
「何、急に人でも変わった?」
僕は驚いた。彼女はこんなことを不意に発言するような子じゃない。それは僕が一番知っていると信じてる。
「いや、別に言ってみたかったから言っただけ」
さっきの感謝の言葉と感謝の気持ちは桜のように舞い、散った。僕は感謝の言葉の真意が知りたくなり、彼女に問いかける。
「何かあったのー?」
「な、なんでもない……けど」
僕はやんわりと聞き、嘘で返された。これでも交際歴は1年弱。それくらい一緒にいればわかる。僕が声をかけた時、彼女は目を逸らした。それは彼女が嘘をつくときの癖だ。
「嘘でしょ」
「……うん」
彼女は素直に観念したような表情をしていた。この彼女の素直なとこが僕は好きだ。あと、顔が整ってるとこと優しいとこも。
「昨日、一緒にお酒飲んだじゃん?」
「そうだね、君がめちゃくちゃに酔い潰れるとこ久々に見たね」
どうやら昨日の出来事が絡んでるらしい。昨日、夕方から彼女と飲みはじめ、丁度この時間、午後9時には彼女は潰れていた。彼女は今手に持っているスマホを置き、僕を見る。
「恥ずかしいから言わないで。で私が酔って寝ちゃったあと、色んなことしてくれたじゃん。お皿片付けたり、お水飲ませてくれたり、ベッドまで運んでくれたりしたよね。多分」
「それは事実だね」
酔った彼女を放置する彼氏はいないだろうと思いつつも確かに昨日は久々に色々な家事をこなした。だがそれほど苦でもなく、寧ろ酔った彼女を久々に見れたので体感お釣りが返ってきている感覚でいた。
「起きたあと、それが凄く嬉しくて嬉しくて。でもありがとうが中々言えなくて」
「なるほどね」
彼女は感情を出すのがあまり得意ではない。そんな彼女の不意に出る表情や言動も好きなのだけれど。しかし彼女は、僕の予想の150°斜め上をいく行動をとって見せた。
「大好き」
彼女がいきなり後ろから抱きついてきたのだ。今までこんなことはなかった。背中に2つの柔らかな感触があり、彼女の匂いもする。彼女の息は少し荒く、僕の体は彼女の手によって強く抱かれている。抱き枕に抱きつくように。
「ねぇ、心臓すっっごくドキドキいってるよ」
彼女に言われ気づく。僕の心臓はかつてないスピードで動いている。そして僕は一旦彼女を離し、再度正面から彼女を抱きしめる。
「僕も大好き」
「いきなり、やめてよ……」
「いきなり後ろから抱きついてきたのはそっちからだよー」
僕は改めて感じた。この人の顔が好き。性格が好き。全てが好きということに。そしてこの人と人生を共に歩み、共に年を取り、共に朽ちていきたいと。そしてあることに気づく。
「君の心臓、爆発しそうだけど、大丈夫?」
2人は抱きしめ合いながら少し笑う。
「大丈夫なわけありませーーん」
彼女はふざけたトーンで言う。そうして2人の幸せな夜は更けていく。