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ようこそ野球部3

「ねぇ前原さん、この後時間ある?」


練習が終わり更衣室で着替えをしていた一弓に浦上が尋ねる


「えぇ、まぁ」


「良かった!ちょっとバッティングセンターに付き合って欲しいんだよね」


「どうして私なんですか?」


「そりゃあ前原さんがキレイなバッティングしてるからだよ」


一弓にはその答えの意味がよく分からなかった

キレイなバッティングをしているからという理由でなぜ自分だけ誘われたのか

後輩と距離を縮めたいのだとしたら他3人も誘うべきではないのだろうか


「じゃあ先に校門前で待ってるね」


そう言い浦上は更衣室を出た、先輩を待たせる訳にはいかないと一弓も急いで着替えを済ませて更衣室を出た


「お待たせしました」


「じゃあ行こうか、ちょっと歩くけど平気?」


「大丈夫です」


自転車を押して歩く浦上と他愛もない世間話をしながら20分ほどしたところでバッティングセンターに到着した


「あの、もう一度聞きますけどなんで私なんですか?」


「あれ?さっきも答えなかったっけ?」


「正直よく分からなくて...もし1年生と親睦を深めようとしてくれてるなら全員誘えばよかったのでは?」


「あぁ...そういう事じゃないんだよね。前原ちゃんにバッティング教えて貰おうと思って」


思いもしなかった理由に一弓は驚きを隠せなかった

年上から妬まれることはあっても教えを請われるのは初めてだったし、何より後輩に教わりたいなんて簡単に言える事では無いはずだから

そして一弓は浦上がレギュラーでは無いと言っていたのを思い出した

浦上は今年で3年、高校生活最後の年になる。なんとしてもレギュラーになりたいという強い思いがあるのかもしれない

浦上の言葉には驚いたが幻滅したり馬鹿にするような事はない、彼女の気持ちを汲みたいと一弓は思った 


浦上は早速メダルを購入しバッティングを始めた

20球の間ほとんど引っ張りの打球ではあったが強い打球が飛んでいた


「前原ちゃん、どうだった?」


「そうですね、悪くは無かったです。もう少しセンター方向へも打てればもっと良いかもしれないですね」


「うーん、そうだよねぇ。フォームとかスイングはどう?」


「特に私がとやかく言う必要はないレベルだと思いますよ、別に教える事も無いように見えますけど」


「まぁマシン相手のバッティングだからねぇ...」


「そうですね、正直試合でのバッティングを見ないと何とも言えないかと」


「うぅ...ごめんね...ただ試合だと全然打てなくてね...バッティングセンターだといい感じなんだけどね...そうだ!前原ちゃんも打ってみてよ!私が奢るから!」


浦上がメダルを購入し一弓に渡す

この店で一番球速の速い150キロのブースに入る

有名プロ野球選手の映像から繰り出される直球を一弓は右、中、左、右、中、左と順番に打ち分ける

その技術に後ろで見ていた浦上も思わず口を開けて夢中で見入っていた




「いやぁ、やっぱり前原ちゃんはすごいよ」


「いえ、そんな」


「私のレギュラー遠のいちゃうなぁこれは...」


「流石に3年生を優先的に使うでしょう」


「どうだろうね」


気まずい沈黙が2人を包む


「よし、帰ろっか」


「はい」


バッティングセンターを出て、浦上が駅まで送ってくれると言うので2人は駅の方へ歩く


「浦上先輩の守備は本当に凄いと思いました。少なくとも今日の練習では誰よりも上手かったです」


「ありがとね、私にはそれしかないから」


再び沈黙が続き、ふと浦上が足を止めた


「ちょっとだけ私の話聞いてもらってい?」


2人は近所の公園へ入りベンチに腰を掛けた


「私ね、小学生の頃から野球やってて、でもずっと下手で、打てないし守れないし、足は少しだけみんなよりは速かったくらいかな。

それでね、高校に入った頃に気付いたの。バッティングって才能とか体格によるなぁって、で、どうしよう、私何もないぞって。

その時にたまたま見てたテレビでね、とあるプロ野球選手がインタビュー受けててね、その人はレギュラーの選手じゃなくて、いわゆる守備のスペシャリスト的な感じで、どんなポジションも守れるユーティリティープレイヤーなの、主力選手が怪我で離脱した時とか守備固めで出てくるような選手」


浦上はすかり日も落ちて暗くなった空に僅かに瞬く星を眺めるように空を見上げながら話す


「で、その人がインタビューで言ってたの、自分にはこの道しかない、それでも必要としてもらえる、だから地味でも控えの切り札としての道を極めたいって。

私すごく衝撃的だったの、そっか、野球ってレギュラーの選手だけで試合するわけじゃないんだって。それで私もせめて守備だけでも磨こうって思ったの。幸い足は速い方だったしね。まずはそこを磨いて出番を貰える存在になろうって思った。

だからずっと自主的に守備の練習を徹底的に続けてやっと今のレベルになれたの。

それでもやっぱり最後の年ってなるとレギュラーで試合に出たくなっちゃってね。私、この先進学して野球やろうとは思ってないから、人生最後の試合くらいはレギュラーで出たいなって」


一弓はただ黙って浦上の言葉に耳を傾け続ける


「ごめんね、別に同情してもらいたいわけじゃないよ!?同じ外野手としてフェアにレギュラー争いしようね...ってこんな話聞かされた後じゃやり辛いよね...」


一弓は少し返答に困った。この人は凄く良い人だと感じたから。

なるべく偉そうにならないように言葉を頭の中で選んでいると、ふと灯の顔が浮かんできた

そうだ、自分も人に気を使ってばかりいる訳にはいかないんだ


「正直、先輩にはレギュラーになってもらいたいと思いました...でも私も3年しか時間が無いので出来るだけ試合には出たいです、私を野球に連れ戻したどこかの誰かが全国に行くって言ってるので、力になれなきゃ野球部に入った意味は無いですし」


出会って間もない後輩に正直に自分の事を話してくれた先輩に対して、一弓も正直な気持ちを返すことで応えた

失礼なやつだと思われたかもしれない、恐る恐る浦上の様子を確認すると、彼女はニッコリと笑っていた


「そっか、よし!じゃあこれからお互い悔いのないように頑張ろうね!」


あぁ、この人は本当に良い人なんだなと一弓は安心した


「はい」


「あ、そうだこれからもバッティングについて色々アドバイスして欲しいな、私も守備で教えられる事があれば教えるから」




レギュラーを目指す者の思い、そのバッティングセンスゆえに常に年上を押しのけてレギュラーに選ばれていた一弓にとっては長らく忘れていた感覚だった

すっかり辺りも暗くなり、少し肌寒くなってきた

2人はゆっくりと立ち上がり公園を出た

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