上手くなる為には1
外野でノックを受け、ボールを内野へと返球する一弓の姿を見ながら、恭子は腕を組み「うーん…」と小さく声を漏らした。
この日の練習が終わると、部長の植竹より部員達へグラウンドの隅へと集合がかけられた。
後藤と前田が部員達へプリント用紙を配布し、全員へ配り終わったのを確認すると植竹が話を始めた
「もうすぐ夏休みが始まるわけだが、夏休みの最中に合宿を行う事になっている。新入生達は初めての参加ということになるので、改めて説明をさせてもらいます」
部員達へ配布されたプリント用紙は合宿の参加希望用紙だった。
植竹が金子へ目配せをすると、そこからは金子が引き継いで話を始めた
「合宿といっても、まあ、ウチは強豪校ではないし私立でもないので気合いを入れて豪華な合宿をするのは親御さんに負担がかかって嫌がられてしまうかもしれない、という事でウチは毎年学校に宿泊するという形でなるべく費用を抑えた合宿を行っている。
参加を希望するものは期日までに用紙を提出するように。あと、お盆休みについては合宿最終日の翌日より3日ほどを予定している。
合宿についてもっと詳しくは参加人数が確定次第また説明させてもらうが、今の段階で何か質問があればどうぞ」
挙手をして質問をしようという者はいない様子だった
「それでは、本日の部活動は終了とします。お疲れ様でした」
金子に続いて全員が「お疲れ様でした」と大きな声で挨拶をし、この日は解散となった
グラウンドから引き上げ学校へと戻る最中、恭子は一弓に声をかけた
「前原さんってさ、あんまり肩は強い方じゃないんだね」
「え?」
突然の煽り文句とも思える言葉に一弓は若干の驚きながら聞き返す
「いや~最近外野で一緒にノックを受けてて思ったんだよね。」
「それはほら、私が守備も出来て肩も強かったらもう超天才って感じで注目とかされちゃって大変でしょ?だからバランスをとってるんだよ。あえてね。」
一弓が「ふんっ」と胸を張り、恭子は「なにそれ~」と笑った
「でも確かに、こんな私でも前原さんに勝ってる所が一つあるって考えたらちょっと自信湧いて来るかも」
「いやいや、そもそも私達野手とピッチャーでポジション全然違うし」
「いやいやいや、今は外野もやってますので」
「まあ、私がちょっと本気出せばどうにでもなるから、合宿が終わる頃にはレーザービームだよ」
「おお~、そうなったらプロ注目の逸材選手がもう一人って感じで前原さんもテレビ取材されちゃうかも」
「いつも”誰かさん”が言ってる通り全国大会に出場する事になったらどっちみち取材はされちゃうだろうけどね、私も小山内さんも」
二人の脳裏には以前テレビの取材を受けていた”誰かさん”の姿が思い浮かんだ
「いや~私はほら、その時にレギュラーかどうか分からないし」
その言葉に一弓はハッとした、恭子は冗談っぽく「あはは~」と笑っているが
一弓には一瞬、恭子と浦上の姿が重なって見えた。




