表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

努力無くして1

幼い頃、父と母と日本へ来た時に観戦した日本のプロ野球、それが今の私の原点。

アメリカでも何度か家族で球場に野球を観戦しに行った事はあったが、日本のプロ野球はアメリカとは全然違う雰囲気だった。

特にそう感じたのは、なんと言っても応援のスタイルだろう。

日本のプロ野球では応援歌を歌ったり、それに合わせて手を叩いたり、ファンが一体となって選手を全力で応援している。

初めての日本での観戦なので当然応援歌なんて知らないし、日本語だってよく分かっていなかった。

それでも、何だかとても楽しいと感じた。


「ねえ、パパ!パパも歌を歌えるの?」


「全部はもう分からないけど、パパが日本にいた頃からある応援歌なら分かるよ」


「じゃあ歌って!」


「えぇ~、あんまりこのバックネット裏の席で歌う人はいないかな」


「そうなの?」


「ハハハ、メアリーは野球より応援歌に興味を持ったんだな」


父は子供の頃から水色のユニフォームのチームを応援しているらしく、今でも試合結果はネットでチェックしている事や、打席の選手がどういう選手かという事を私とママに教えてくれた。


そうして試合も終盤、詳しい内容は覚えていないが父の応援しているチームがリードしていて、そのチームのピッチャーが連打を浴びて満塁のピンチを背負った。

攻撃側の応援がここぞとばかりに盛り上がり、選手への応援と同時に相手チームの選手へ圧をかけているように思えた。


1球、2球と、ピッチャーが投げる度に声援は迫力を増し、まさにこの勝負を盛り上げる壮大なBGMのようだった。

私も思わず手に汗を握りながら、その日一番の集中力でグラウンドを見つめていた。

ドン、ドン、ドン、という太鼓の音と「オオオオオオオオ」という声援を背にピッチャーがボールを投じる、バッターのスイングは空を切り、球場はほんの一瞬の静寂に包まれた後に、ピッチャーが雄叫びをあげながらガッツポーズをし、同時に観客席からは割れんばかりの歓喜の声と拍手が沸き上がった。

その瞬間、私はその光景に心を奪われた。

あれだけ盛り上がっていた敵チームの応援を黙らせ、逆に自信を応援する人達の歓声を湧きあがらせた。

それは、このショーを一人で支配している、まさに主人公に見えた。


父も喜びのあまり立ち上がり、私を挟んで隣に座っていた母とハイタッチした、私にもハイタッチの手を向けていたが、私はそれを無視し、ただボーっとグラウンドを見つめていた。

たった今目の前で繰り広げられた強烈なシーンが頭から離れなかった。


結局、試合はそのピッチャーが一人で投げ切り、リードを譲ることなく父の応援しているチームが勝利した。


帰り道、父は車を運転しながら「今日の試合で首位に浮上した」「あのピッチャーはチームのエースで、あのピッチャーが投げる試合を観たくて今日のチケットを取った」と上機嫌だった。

私はあの場面を目の当たりにした興奮が冷めやらず、球場を出る頃にはある決心をしていた、そしてそれをその場で父と母に打ち明けた


「私プロ野球選手になる!」


両親は驚いた素振りも見せずに笑った、恐らく本気だと思われていなかったのだろう。

それでも私は、「あんな主人公になりたい」「あの声援を受けて野球がしたい」と強く思った。


そして、アメリカに帰国してすぐ


「日本の学校に通いながら野球がしたい」


と改めて両親に伝えた、ここでようやく私が本気なんだということを理解してもらえたようで、両親は酷く困った様子だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ