人気者じゃん1
「ねえ、沢井灯って今、なんかよくわかんない公立高校にいるらしいよ」
「え誰?」
「あー、なんかすごい子だっけ?同い年だったような」
修徳舎高校のグラウンド、1年生部員達が練習後の片付けをしながら話している
「そうそう」
「本当に?」
「だからそれ誰なのよ!」
「しかもこの間1回戦で敗退してたみたいだよ」
「へえ~」
ネットを運びながら大声で話している部員達の声を気にしない素振りで大田は黙々と一人トンボをかける
すると同じくトンボかけをしていた田中雅美が太田へ近づいてきた。
「沢井さんだって、そんなにすごい選手なのかな。ねえ、球希は知ってる?」
太田は田中を無視しトンボかけを続けた
「あ、もしかして前に球希が言ってた絶対に勝てない選手のことかな」
田中が独り言のように言葉を漏らすと大田の足が止まった。
「は?そんなこと言ってないし」
大田が反応したことで田中は嬉しそうに口角を上げた
「そうだっけ、ごめんごめん」
田中が言い終わるまえに大田は再びトンボをかける
「なんか向こうで盛り上がってるみたいだよ。人気者じゃん、その沢井って人」
「お前は知らないんだな」
大田が今度は手を止める事なく言葉を返す
「知らない、だって私県外から来たんだもん」
「中学の時に大会とかで見かけなかったのか」
「うーん、どうだろ分かんない。でも対戦したことは無いと思うよ」
田中は大田の隣にピッタリくっつきながらトンボをかける
「ねえ、もしさ、その沢井さんと私が対戦したとしたら、どっちが勝つと思う?」
「お前と沢井が、か…」
田中は投手として高いセンスを持っており、中学時代に全国の名門校から複数のスカウトを受けた中で、修徳舎高校を選んだ。
全国から有望選手が集まる修徳舎だが、普段の練習や練習試合においても田中は上級生に匹敵するレベルの投球を見せ、監督からの期待も厚く、1年生の部員のなかでは大田と田中はベンチメンバーではあるが、大会のメンバーに選ばれている
大田はそんな田中の実力は十分に理解しているが、記憶の中の沢井と比べてもすぐに答えが出なかった。
「えー、そんなに悩むんだ」
「…正直わからん」
「マジかー、それじゃあいつか対戦してみたいな」
「いつかは大会とかで当たることになるかもしれないしな」
「うん、でも抑えるよ」
大田は思わず足を止めて田中へと顔を向けた
「抑えるよ、全打席、三振で」
大田よりすこし進んだ所で田中も足を止め、太田の方へ振り返る
その田中の表情は、自信に溢れたような微笑みを浮かべていた。
あぁ、もしかしたらコイツなら…と、大田は思ったが口にする事は無く、黙って足を進めトンボをかける
田中は少しの間足を止めたまま大田の背中を見つめ、追いかけるように再び足を進めた。




