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刹那、駆け抜ける3

一方同じ頃、金子と後藤も居酒屋で食事を共にしていた。

二人の会話は当然野球部のこと、先日の大会のことがほとんどだった。


「今年もあっという間でしたね。尾上さん達、ついこの前まで1年生だったのにもう引退なんて...寂しいです」


後藤が物憂げな顔でジョッキに口をつける。

金子は監督として今年で7回目の夏だが、未だに部員の引退に対する寂しさには慣れないのは後藤と同じで、1試合でも多く今のチームで戦いたかったと胸が張り裂けそうになる気持ちを切り替えるのが大変だった。

そして今の金子は寂しさと同じくらい大きな不安も抱えている。


「持て余してしまうかもしれない...」


金子の口から、その不安の言葉が漏れた。


「持て余す?」


後藤には金子の言葉の意味がイマイチ伝わらなかったようだった。


「沢井灯ですよ」


その名前を聞いた後藤は少し考える間をとり「あぁ、なるほど」と呟いた。

誰の事を言っているのかは理解してもらえたが、その言葉の意味や恐ろしさは多分理解していなさそうなので相談に乗ってもらうのは難しいだろうな、と金子は小さく溜息をついた。


「実は沢井の事を取材したいって連絡がテレビ局から来たんです」


「本当ですか!?凄いじゃないですか!」


後藤は嬉しそうに目を輝かせる。

取材の連絡を受けた時の金子は後藤とは対照的に、頭を抱えていた。

沢井が注目されればされる程、金子もプレッシャーを感じてしまう。

もし、これまでと同様にチームが結果を残せずあっさりと敗退を繰り返し、沢井が3年間を終えてしまったらと想像すると、恐ろしくて堪らなかった。

自分がバッシングされてしまうのではという不安ではなく、あれ程までの素材の大事な3年間を無駄にしてしまうかもしれないという不安。


「もし、来年も再来年も大会で初戦敗退だったら...どうします?」


監督として、言ってはいけない事を口にしてしまっていると理解しながらも、金子は恐る恐る後藤に質問してみた。


「大丈夫ですよ!みんな勝つために普段の練習を必死に頑張っています。それに沢井さんはやっぱり凄かったですし、沢井さんだけじゃなくて前原さんも、高橋さんも、ウチの野球部はみんなみんな凄かったです。あの試合、結果は惜しくも敗退となってしまいましたけど、次は必ず勝てるって思いました!だから大丈夫です。みんななら必ずやってくれますよ!」


後藤は両手をつよく握りしめながら声を大にして答えた


(あぁ...こういう人こそ指導者に向いているんだろうな。私はまだ、そんな風に考えられない...)


金子は自分のジョッキに視線を落とし、僅かに残っているビールを一気に飲み干した。




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